170

あの後デュバルとかいう男は結局サンジくんがカタをつけて終わった。どうなったかは分からないけどこれで良かったと思う。二人は運命的にも出会えて、あの人はきっとこの先海軍達から追われることもなくなるんだから。この広い海の中で、こんなにすぐ出会えたんだからほんと運が良いよね。



あれから助けてくれたお礼ってことで、ハチがたこ焼きを食べさせてくれた。相変わらず美味しくて何個でも食べられちゃうな。

「あっ!ルフィそれあたしの!」
「もいああひいほこひほひほふほ、ほへはふっひはうほ!」
「何言ってるのか分からない!返して!」
「んがっ!ほへほ!!」
「大丈夫だリリナ。こっちからお前の分増やすから!」
「わーい!」

目の前でたくさんのたこ焼きを焼いてくれてるハチがお皿にたくさん入ったたこ焼きをくれた。今度はルフィの手が伸びてこないように少し距離をとったら、反対側にいたサンジくんに肘が当たってしまった。

「あ、ごめんね」
「全然。むしろ最初からくっ付いていればいいのに」
「……それじゃあ食べにくいもんっ」
「ははっ、そっか」

あのとき以来、サンジくんとこう距離が近いと緊張するようになった。なんかこう笑顔を直視できなくなったというか、とにかく平常心じゃいられない。

「ここにタレついてる」
「!」
「ほんと可愛い」

そう思ってた矢先に口の端に付いてたタレをサンジくんが指で拭ってくれた。おまけの笑顔にドキッてした。最近心臓縮まりすぎてきっと早く死なことになると思う。あたしいつか倒れるかもしれない。体と頭が追いついていけない。


「若旦那ーー!!」
「若旦那?誰だ?」
「待て待てーっ!あいさつナシってそりゃないぜー!ハンサム……あっ間違えた!デュバルだぜーっ!」

遠くの方から叫んでるのは確かにさっきのデュバルだった。だけど顔が全然違うしテンションも高い。

「えー!?アレあいつか!?」
「すんごい顔変わったね」
「骨格変えてやったんだもう何も言われる筋合いはねェだろうよ」

パッチリした目は変わってないけどキリッとした眉毛に筋の通った鼻、しまりのある口。ヒゲもなくなって髪型まで変わってる。前の顔なんて跡形もない。でもどこかで見た事あるような顔。

顔が変わったおかげで何もかもポジティブに考えられるようになったのか、あたし達の話をまともに理解してくれなくなった。本人からすればマイナスに考えるよりは全然良いのかもしれないけど。

「あっ!若旦那の!」

デュバルの変わりすぎた顔をまじまじ見てたら目が合ってそう言われた。のってなんだろう。

「口の中いっぱいにして小動物みたいでキュートに決まってるぜ!さすが若旦那の!」
「その後が気になるんだけど」
「若旦那に飽きたらこのおれのとこに来てくれてもいいぜ」
「誰がてめェにやるか!リリナちゃんを気安く口説くんじゃねェ!」
「あっ!ほらやっぱり若旦那のフィアンセ!ひゅーひゅー!」
「ひゅーひゅー!」
「やめろ!まだそんな段階じゃねェ!」
「ずいぶん嬉しそうだな」

すごい顔して睨みつけてた顔がころって変わってとても嬉しそうな顔になったサンジくん。そもそもフィアンセって何?美味しそうな名前だから食べものの名前?サンジくんは口説くって言ってたから、女の人を口説くときに使うような言葉かな?

「なァリリナ。フィアンセってなんだ?」
「んー、あたしにも分からない」
「馬鹿だなー婚約者ってことだよ」
「えーっ!!!」

サンジくんとあたしが婚約者?何言ってるのあの人。顔が変わって考えることもおかしくなったんじゃないの。それにフィアンセってまさかそんな意味だなんて思いもしなかった。どこをどう見たらあたしがサンジくんの婚約者だと思えるの?別にそんなにラブラブじゃないのに。そんなにって違うよ、もっと上があるって意味じゃなくてあたしとサンジくんはそんな関係でもないし、でもサンジくんはあたしのこと褒めてくれるけどあたしまだそんなじゃないし。いやそんなとかそうじゃなくて⋯⋯。

ダメだ頭が混乱して何も考えられない。結婚なんてもっと大人になってからするものだから、夢の話なのに。あいつ本当に変なこと言わないでほしい。もっと意識しちゃう。