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ゾロと二人で町を歩いてるけど、意外と楽しい。夢中になってると置いてかれるけど気になったお店があると付き合ってくれるし、ゾロって思ったことはわりとすぐ口に出すみたいでひとり言呟いてるのを聞いてるとたまに変なこと言うから面白かったりするんだ。

「なァ」
「なに?」
「あいつ、無理矢理でも連れてくりゃ良かったんじゃねェのか?」
「……、いいの。ナミとの約束が先だったんだもん。それにゾロはゾロで楽しいし」

ゾロに言われた言葉で、船でナミに留守番を頼まれたときのサンジくんの嬉しそうな顔を思い出した。サンジくん口は悪いけど意外と誰からでも頼まれた事を断らないし、ましてやそれがナミだから余計だったんだ。

でも本当はあたしもサンジくんとどこか一緒に歩きたかった。こうやって二人だとドキドキして落ち着かないから、みんながいてくれても良いけど。もしかしたらあたしが一緒に行きたいって言えば来てくれたかもしれない。でもそれ以上に断られるかもっていう不安の方が大きくて、そのときのサンジくんの顔がどんなのか想像ついちゃって、それだけで勇気が無くなる。

「もっと素直になりゃ可愛げあんじゃねェの」
「……そうかもね。でもあたしにはできないんだ。弱虫だから。案外ゾロといるだけでも楽しいからいいの!上手く言えないけど一人よりマシだもん」
「そうかよ」

そう言って口角をあがて小さく笑ってくれて安心した。こうやってウジウジしてるといつもゾロは怒るから。でも誤魔化すために言ったわけじゃないし、今だって本当に楽しいんだもん。



歩いてるうちに町の中心部から外れたみたいで、普通の家が並ぶようになった。シャボンディって賑わってるところしかないと思ってたから、ここはちょっと落ち着く。でももっといろんなところ行きたい。そんなあたしはゾロと買ったお酒があるから気分がいいんだ。

「もうすぐそこまで来てるらしいぜ」
「こっちはやることたくさんあるってのにタイミング悪いぜ……」
「……?」

すぐそばで立ち話をしてた男の人の会話が聞こえて首を傾げた。何の話をしてるんだろう。会話には入らず輪の外から聞き耳を立てていると、そんなあたしが目に入ったのか視線に気付いて教えてくれた。

「天竜人だよ」
「……天竜人……」
「ああ。ほら見えてきた」
「ゾロにも教えてあげなきゃ!」

名前を聞いてすっと頭の中のぼんやりが無くなった。すっかり忘れてたけど、この島はちょっと面倒なところなんだった。きっとゾロは知らないだろうから教えてあげなきゃ。

「ゾロ、ちょっと待っ……あれ?」

隣にいるゾロを止めようと手を伸ばしたけど、目的のものの感覚はなかった。状況の把握が遅れた頭がやっと理解した途端にひやっと何か流れ落ちた気がした。

「今のってまさか……」

周りを見渡しているとだいぶ前を歩いている緑頭がいた。ゾロだ。そして目の前には天竜人。ゾロはもう天竜人の目に止まってて、さっきの銃の音はゾロに向かって撃たれたものだった。でもゾロに当たった様子はなくて、そのまま天竜人に斬りかかろうとしてたところをあたしより早く小さな女の子が突進して止めてくれた。ゾロなんかよりあの子の方が立派だ。


「ゾロ!何てことしようとしたの!」
「あの変なやつがいきなり撃ってきやがるからだろ。条件反射だ」
「もう!この子が……あ、あれ?こ、この人が助けてくれなかったら大変な事になってたんだからね!!」

天竜人達が通り過ぎてから気付かれないように少しずつゾロの方へ歩いていった。ゾロを見ると頭についてる赤いものはトマトジュースのようだ。これを血だと認識した鈍臭い天竜人で良かった。危うくまた海軍大将と戦うところだった。

ゾロを庇ってくれた女の子は確かにさっきまで体が小さかったはずなのに、女の子じゃなくて大人の女の人になっていた。でもピンク色の髪と服の感じはさっきの子と同じだし、もしかしたらルフィみたいに体を変化させられる能力者なのかもしれない。

「おいってめェ白ひげのとこの……!」
「え!?あたしのこと知ってるの!?」
「箱入りもいいとこだな!てめェのことはそれなりに知れ渡ってんだよ!」
「すごーい!有名人なんだ!」
「……能天気な奴だな。調子狂うぜ」

意外とあたしって世間に知られてるんだって感動する。白ひげ海賊団は有名だけどあたしなんて隊長のみんなの陰に隠れるくらいまだまだ弱っちくて活躍できてないはずなのに。


その後は天竜人に撃たれた男の人を病院に連れて行ってから、船に帰ることになりそのまま素直に付いてったんだけど全然違う方向に歩いてくから、きっと何か勘違いしてるんだろうなって分かった。これはあたし一緒に来て良かった。何をどうしたらこんな方向音痴になるんだか本当に疑問だ。

「なんかお腹空いてきちゃった。お店寄ってっていい?」
「めんどくせーな早くしろよ」

方向音痴のゾロのせいで少し無駄足をしたっていうのに失礼しちゃう。ブツブツ言いながらすぐに見つけた出店に向かおうとすると頭をグーで打たれた。まさか心の声が漏れてるとも知らず、もしかしてゾロもお腹空いてるからご機嫌ななめなのかと思って能天気にゾロの分のお肉も買った。

「ゾローー!リリナーー!乗れーっ!!」
「え?ルフィ?」

出店のおじさんからお肉を受け取ったところでルフィの声が聞こえた気がした。振り返ると目の前を黒い何かがすごい速さで通り過ぎる。目で追うとさっき見たトビウオがいて、そこから肌色の何かが伸びてきてあたしの腰に巻きついてすごい勢いで引き寄せられた。あールフィだ、なんてぼんやり考えてたら片手に持ってたお肉を奪われた。

「何だよいきなり!」
「いいから乗ってろ!説明はあとだ!」
「それゾロにあげるつもりだったのに!」

お肉が入ってるせいで膨らんでるルフィのほっぺを睨んでいると、あたしの分にまで手が伸びてきたからその手を払って口の中に押し込んだ。

「ほら麦わら!あそこが目的地だ!」
「おうあんがとな!そのまま突っ込め!」
「は!?無茶なこと言うんじゃねェ!」
「うるせェ!どうにかなる!」
「他人事だと思いやがって!」

ルフィとトビウオライダーズが言い合ってるうちにその建物に突っ込んでた。口の中にものが入ってるせいで叫ぶにも叫べないし、驚きすぎてまともに噛めないまま喉の奥に流れてった。


落ち着いたところで周りを見ると他のみんなもいた。そして他の知らない人達もあたし達を見てる。その中にはさっき出くわした天竜人もいる。少し遠くには大きな水槽に入ってるケイミーがいた。

「どうなってるの?」
「リリナちゃん大丈夫か!?ケガは!?」
「だ、大丈夫だけど……ここは?」

麦わらのみんながいる事を確認してると冷や汗を垂らしてるサンジくんと目があった。途端に駆け寄ってきてあたしの両方の肩を掴んでオロオロしながら傷がないか体をチェックしている。擦りむいてるところがあるけど大丈夫。
サンジくんに声をかけるとひとまず落ち着いたみたいで、ここがどこなのかと今の状況を教えてくれた。ここがヒューマンショップなんだって。名前を聞いたら背筋に嫌な感覚が走った。