173

ヒューマンショップで売りに出されてしまったケイミーちゃんの救出方法を考えていると突然ルフィが建物に突っ込んできた。リリナちゃんとマリモも一緒だ。今の衝撃のせいで少し怪我をしたようだが本人は特に変わらず元気そうだから安心した。

「あっ!ケイミーー!!」

おれがリリナちゃんに気を取られているとルフィの奴がケイミーちゃんを真っ向から助け出そうとするもんだから、それをすかさずハチが止めた。確かにルフィが暴れりゃどうにかなるかもしれないが、ここには厄介にも天竜人もいるし少しでも騒ぎを立てないように助け出したい。

「きゃああー!魚人よー!気持ち悪いーー!!」

なかなか走るルフィを止めることが出来なかったせいかハチが服の中に仕舞っていた腕をうっかり使ってしまったせいで、それに気付いた奴が悲鳴をあげ会場は一気に騒めきだした。四方八方から気持ち悪い、怖い、化け物だと言って物を投げてハチを追い払おうとし出した。魚人の何が珍しいんだ。どうなってんだ。

事態の把握が追いつかないままでいると二発の銃声が響き渡る。その音に会場がシンと静まり返ってハチの倒れる音が聞こえた。見ればハチの身体から血が流れている。

「当たったえ〜!魚人を仕留めたえ〜!」
「ハチ!!」

静かに天竜人の前に倒れたハチにリリナちゃんが駆け寄った。呼びかけには反応していて本人は大丈夫だと言っているが声に力がない。目の前でゴタゴタとうるさいクソ野郎を睨みつけたリリナちゃんが立ち上がろうとすると先程と顔色を変えたルフィが階段を上がってきた。そのまま二人の隣を過ぎて行こうとしたところでハチに止められる。

「待ってくれ麦わら!だめだ……怒るな。おれが、ドジったんだよ。目の前で誰かが撃たれても天竜人には逆らわねェって、約束しただろ。……どうせおれは海賊だったんだ。悪ィことしたから……その報いだ。……ごめんなァ。ご、ごんなつもりじゃなかったのになあ。ナミに、ちょっとでも償いたくて……おめェらの役に立ちたかったんだけども……、やっぱりおれは昔から、何をやってもドジだから……!本当にドジだから……」

荒い息をそのままにしながら思いを話すハチは涙を流す。それを落ち着かせようと自分の腕を掴んでいる手を解いてハチの体の上に乗せると天竜人がまたハチに銃口を向けてきたことで、ルフィの意識がハチから天竜人に向けられた。クソ野郎をきつく睨みつけて静かに距離をつめていくとそいつが喚きだした。ルフィは目の前になると後ろに引いた腕をそのままに天竜人を殴り飛ばす。そのせいで騒がしかった会場は一気に静まり返った。

「悪いお前ら。コイツ殴ったら海軍の大将が軍艦引っぱって来んだって」
「お前がぶっ飛ばしたせいで斬り損ねた」
「さて……」
「じゃやることァ決まって来たな」
「舞台裏のどっかにあると思うよ!ケイミーの鍵!おれハチの傷診なきゃ。頼むよ!」

それぞれ行動に移そうとするとまた違う天竜人が喚きだして銃を乱射してきた。ルフィに向けられてはいるが大した腕はないようで一発も当たっていない。掠りもしない腕前はそれはそれですごいことだが万が一誰かに当たったりするかもしれないと、とりあえず銃を握ってる手を蹴り上げた。これでもう銃なんて握れないだろうしこの騒ぎじゃまた探し当てることもできないだろう。


わらわらとどこからか出てきた鎧を身につけた衛兵達を蹴散らすことばかりに集中していたら、女の天竜人がステージの上のケイミーちゃんの目の前にきて銃を構えていた。その周りに阻止できる奴はいない。背筋に嫌な感覚がして冷や汗が滲む。

「さァ魚!死ぬアマス!」

女の天竜人はケイミーちゃんには興味がないらしく軽々と銃口を向けた。まだ連れて行こうとする方が楽だ。歯を噛み締めて舌打ちが出そうになったとき風切り音と共におれの真横をものすごい勢いで風が通り過ぎて髪が盛大になびいた。もう少し横にずれてたらきっと耳を持っていかれてたかもしれない。後ろを振り返るとじっとステージの方を睨みつけたままこっちに向かって走るリリナちゃんがいた。そんな姿に心臓が跳ねた。こんな時にまでのん気なもんだと他人事のように思う。

おれの横を通り過ぎた風の刃は天竜人の持つ銃の先を切り落としてそのまま後ろの弾幕を引き裂いた。それを目の当たりにしたせいか天竜人は意識をなくして倒れた。これで一先ず大丈夫だろうと思っていると切れた弾幕の間からわらわらと人が出てきた。奥には巨人がいる。あれはケイミーちゃんみたいにこのオークションで売られるはずだった奴らかもしれない。それにしては余裕たらたらに歩いていて警戒心なんてあったもんじゃない。

そのうちの一人のじいさんを見たリリナちゃんは走るのをやめておれの少し前で立ち止まった。

「おお!?ハチじゃないか!そうだな!?久しぶりだ。何しとるこんな所で!その傷はどうした!」

独り言をやめたじいさんはハチに気付いてトーンをあげた声でハチに問いかけた。だがハチからの返事を待たないままこの状況を把握したようで表情を暗くした。

「……まったくひどい目にあったな、ハチ。お前達が助けてくれたのか」

じいさんが話すのをやめた直後に今まで戦っていた奴らが一斉に白目を向いて倒れた。泡を吹いてる奴もいる。あのじいさんが何かしたのは一目瞭然だ。何かの能力者かもしれない。

「その麦わら帽子は精悍な男によく似合う。会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ」

どうやらルフィと知り合いらしい。あいつおちゃらけてるわりには意外と顔が広いな。と思ったらルフィはあのじいさんに見覚えはないらしい。どうせルフィのことだから覚えてないんだと思ったが、本当に掠りもしないくらい知らないんだと。

これから海軍の軍艦に大将のお出ましになるようで、こんなところで迎え撃つには分が悪すぎる。まともに戦ってもこっちは圧倒的に戦力が足りないし、こんなところで大将とやり合うのは得策じゃない。それならば先手を打って先に動き始めた方がいい。


ルフィは会場に居合わせた他のルーキー海賊団の船長と揃って迎え出ていった。少しでも遅れれば大将が軍隊引き連れて到着するだろうから急いで会場を後にした。ケイミーちゃんはヒトデと一緒にフランキーに任せてハチはあのじいさんが背負った。外は既に三人によって少し片付けられていた。装備されていた大砲やら大きなものはほとんどガラクタ状態になっていて、後は自分の身一つで構えをとる奴らが残っているだけだ。