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エースの処刑。その言葉が頭の中をぐるぐる回り続ける。やっと理解できたときに一瞬だけクラっとした。なんで今処刑なんて……。しかもまだエースが捕まってからそんなに長い日にちはたってないはずなのにどうしていきなりこんなことになったんだろう。忘れてたわけじゃないって言ったら嘘になるけど、でもこんなに早く海軍が動くなんて思ってなかった。後回しにしてきた自分が嫌になる。心臓が動いてる音がやけに大きく聞こえる。なんとなく呼吸も荒い気がする。どうしてなんて考えてもあたしには答えは出せないのにどうにかして思いつきたくて動けないでいた。

「その様子だとなんも知らなかったみてェだな」
「……エース……」
「リリナ!!」

助けに行かなくちゃ。そう思ったのとルフィに逃げろって言われたタイミングが一緒になった。ぐるぐるいろんなことを考えてたせいで周りが見えてなかった。とにかく今は逃げようと戦桃丸に背中を向けるとあたりが白い煙に包まれた。あたしが逃げやすいようにウソップが目くらましをしてくれたようだ。

「大丈夫かリリナ!」
「……うん、」

少し前にいるルフィを追いかけるように走っていたら道を塞ぐように戦桃丸が現れた。

「人の心配してる場合じゃねェ!……わいは海賊に何の因縁もねェけどな」
「Wゴムゴムの銃乱打ガトリングW!!」
「ほいさ!!」
「何だ!?」
「なかなかいい攻撃力だが、わいのガードは世界一!W足空独行アシガラドッコイW!!」

先に技を仕掛けたルフィを何かの技で弾き返した戦桃丸はルフィがまだ地面に落ちない間に正面に回り込んでルフィをまた弾くように手のひらで壁に向かって叩き飛ばした。覇気かもしれない。
壁に埋もれてるルフィを見て目が覚めた。今は一人で考えてる暇はないんだ。逃げなくちゃみんなやられてしまう。

ルフィの援護に行こうと思ったら離れたところから嫌な気配を感じて背筋が凍った。その後すぐにウソップとブルックの叫ぶ声が聞こえてきた。一番恐れてた事になったと立ちこめてる砂埃の中から見える影を見て思った。倒れてるゾロは体中血だらけで半分意識がない。

「ったく遅ェんだよ!やっと来たか黄猿のオジキ」
「黄猿……!?気をつけて!その男海軍大将よ!!」
「えーー!大将!?」
「もう手遅れだよォ〜……。懸賞金1億2千万、海賊狩りのゾロ。一発KOとは、ずいぶん疲れが溜まってたんだねェ。ゆっくり休むといいよォ〜」

現れた黄猿はゾロのすぐ側まで2、3歩歩くとゾロに向かって片足を上げて攻撃態勢をとった。スリラーバークで受けた傷が治りきってないせいで黄猿からの一撃がだいぶ重かったみたいで、倒れてるゾロは動く気配がない。

「おいそいつもビームかよ!やべェぞ何とかしろォ!そんな距離でくらっあら死ぬぞ!」
「危ねェ!ゾロが危ねェ!」

間に合うか分からなかったけど咄嗟に走り出した。まだ打つ気配がないから間に合いそう。もう少しってところで黄猿があたしの方を見て目があった。まずいって心臓が縮んだけど引き返すわけにもいかないから足は止めずに走った。

「W二十輪咲きベインテフルールW!」

撃たれる直前でロビンがゾロのそばに腕を咲かせてゾロの体を無理矢理動かしてくれたおかげで、どうにか間に合った。

「君ま〜だこの一味と一緒にいたんだねェ〜。早く帰っていればこんなところで死ぬこともなかったんじゃないのォ〜」
「こんなところで死ぬもんか!」

ゾロを抱えて逃げようとしたら同時に光線が撃たれた。まともには当たらなかったけど足にかすったせいで上手く足が動かなくなってすぐに転んで倒れた。焼けるように熱くて痛い。そんなあたしに黄猿はまた足を掲げた。

風を使ってもあいつはロギアだから効果はないから意味がない。どうしよう。助けに来たって結局意味がなかった。でもどうにかして助からなきゃ。今度は溜めることなく撃たれて反射的に目を瞑ると何かがぶつかる音と、遠くの方で爆発に似たような音がした。すぐ隣にレイリーの気配がして目を開けるとやっぱりレイリーが黄猿と睨み合ってた。

「あんたの出る幕かい。冥王レイリー……!」
「若い芽を摘むんじゃない。これから始まるのだよ彼らの時代は……!」

助かった。まさかレイリーが助けに来てくれるなんて思ってなかった。目の前の一瞬の出来事に側にいたウソップとブルックは尻もちをついてこの状況についていけてないみたい。あたしもこの呆気にとられて2人と同じように空いた口が塞がらない。

「ウソップ!ブルック!リリナ!ゾロを連れて逃げろーー!」

ルフィに名前を呼ばれて意識が戻って来たみたいに身体が反応した。あたしが抱えてるゾロは奪うようにウソップが抱えて走り出した。あたしも追いかけようと立ちあがると怪我した足首が痛んで上手く走れなかったけど、ブルックが腕を掴んで立たせてくれたおかげで走り出す事ができた。

「すみません!女性にこんな乱暴な扱いをしてしまって」
「ううん、ありがとう」

ブルックのおかげで逃げることができたのに、こんなときにそんなこと気遣いをしてくれるなんて優しいな。

「全員!逃げることだけ考えろ!今のおれ達じゃあこいつらには勝てねェ!!」

3つに分かれてそれぞれ違う方向に走り出した。一番手っ取り早いと思ったのか黄猿は悪魔の実の能力を使ってあたし達を狙ってきた。けど途中でレイリーの剣に阻まれて上手く移動できなかった。ロギア系の悪魔の実の能力者である黄猿に太刀打ちできるのはレイリーが覇気を使えるからなんだ。あたしも使えることができればもっと黄猿をおさえられるのに。

レイリーを気にして後ろを振り返りながら走っているとくまの分身があたし達を狙うように見てた。やっぱりこっちから狙っていくつもりなんだ。

「おろせ……!……お前らを逃がす!」
「バカ言うな!今のお前なんかおれより役に立たねェよ!一緒に逃げるんだ!ルフィがそう判断したんだ!」
「ギャー来たァ!!」

自分でちゃんと立つこともできないくせにゾロがそんなこと言うから気を取られてくまの分身が来てることに気付くのが遅れた。

「どうぞお先にっ!」
「ブルックよせ!そいつの強さは充分知ってんだろ!?」
「男には!やらねばならない時があるっ!!」
「ブルック!」

くまの分身の方を見て剣を構えた瞬間にビームが放たれてブルックは真っ向から受けちゃって、ごろっと転んで倒れた。こんなじゃ逃げることもできないしウソップはゾロ抱えてるから動けなしい、あたしがなんとかしなくちゃ。