177

ブルックを一撃で仕留めたくまの偽物は次にあたし達を目標に変えた。あいつくらいならあたしにもやれる。向かってくる偽物を睨みつけて構えをとるとサンジくんが隙をついて後ろから蹴りを入れた。生身じゃないくまを相手にしてサンジくんの足にもダメージがきたみたい。

「リリナちゃん早く逃げろ!」
「サンジくんも一緒じゃなきゃ!」

サンジくんに狙いを変えた偽物のくまがビームを放つ前にサンジくんを抱えて避けた。爆風に飲み込まれそうなところにいるウソップ達は、手荒だったけど風で吹き飛ばして遠ざけた。

けれどサンジくんとウソップとゾロの3人を庇いながら逃げるなんて難しくて、近くにいるサンジくんでも精一杯だから少し遠くに飛ばしたウソップ達が狙われるとどんどん傷が増えていく。あたしにはこれが限界だ。

そんなときにチョッパーがエニエス・ロビーのときに見せた怪物になった。確かにあれは強いけどチョッパー自身の意識がなくなっちゃうみたいだから、あたし達も逃げなくちゃいけない。でもごちゃごちゃになるからどさくさに紛れて逃げられるかも。

「リリナ!まだ大丈夫か!こいつら連れて逃げるぞ!」
「う、うん!」
「待て。PX-1」
「えーー!また出たァーー!!」

もう一回サンジくんを抱えようとするとあたし達の後ろから声が聞こえた。咄嗟に振り返るとまたくまがいた。これ以上増えたら本当に逃げられなくなるって心臓が縮んだけど、よく見たら片手に本を抱えてて両手に手袋をしてる。それに気付いたときにやっとくま本人の感覚がした。本物のくまだ。

「どうなってんだよ!もうイヤだー!何人いるんだよ一体コイツら!」
「生きていたのか、ロロノア」
「お前の慈悲のお陰でな」
「おい喋ってる場合じゃねぇよ!」
「旅行するならどこへ行きたい?」
「ゾロ!早く逃げ……」

ウソップがゾロに逃げるようにって呼びかけてる間に手袋を外して肉球付きの手を出したくまがゾロに平手打ちをした。
話に聞いたことがある。くまの肉球は弾くだけじゃなくて物をどこか遠くへ飛ばすことができるんだって。どこかに弾き飛ばされたわけじゃないから、きっとどこかに飛ばされたんだ。

「ゾロが消えた……!てめェゾロに一体何しやがったァ!今、たった今目の前にいたのに!!」
「……とうとう出やがったか。本物の七武海!同じ姿が3人目。どうやってんだ!」
「ゾロをどこへやったんだァー!何とかいいやがれ!コンチキショー!また性懲りもなく
「危ねェウソップ後ろだ!」

本物のくまに気を取られてたら後ろから偽物に狙われてた。気付くのが遅くてやられそうになったけど、本物のくまがゾロと同じように肉球でどこかに飛ばした。

「仲間まで消した……!」
「てめェ味方に何やってんだくま公ォ!」
「走れお前らー!とにかく全員ここから逃げろ!後は助かってから考えろォ!!」

くまを見ていると離れたところにいるルフィが叫ぶのが聞こえた。逃げようとすると次から次へと阻まれるせいでさっきからほとんど場所が変わってない。

「行こう!おれはビームかすっただけだ。肩貸すから早く」

傷だらけのサンジくんを今度はウソップが抱えて逃げることになった。体中に擦り傷と切り傷があるし、足も腕もいろんなところがズキズキ痛む。けど今はそんなのに構ってられないんだ。ここで死ぬわけにもいかないし、くまに遠くに飛ばされるわけにもいかない。そんなことになったらエースを助けられない。ここからなら海軍本部も近いからどうにか助けに行くことができる。ここからじゃなきゃ助けに行けないんだ。きっとオヤジ達も向かってるはず。現地で合流すれば問題ない。

「危ないですよ!みなさん!」
「ブルック!」
「お守りします!命にかえても!あ、私もう死ん……」

ブルックが消えた。私が考えことをしてたから、また反応するのが遅れた。息を飲んでいるとチラッとくまに見られた。

「ブルックー!」
「くそ……!何やってんだァおれは!目の前で二人も仲間を……!」
「サンジくん!」

隣にいたサンジくんは悔しそうに髪を乱暴にぐしゃぐしゃにしたのを見て胸が痛んだ。サンジくんのせいじゃないのにあんな風に思うなんて。無意識に伸びた手はサンジくん本人とバッチリ目があったところで止まった。

「リリナちゃん逃げろ!ウソップ!リリナちゃんを連れていけ!」
「バカいえ一緒に行くんだよ!」
「ダメだよサンジくん!」

ボロボロな体で立ち上がったサンジくんのスーツを引っ張って止めようとしたら、スーツを掴んでる手を握って外された。するとすぐにサンジくんがどこかに飛ばされてしまう怖さが頭をいっぱいになって動けなかった。くまと距離を詰めて蹴りかかったサンジくんにくまは手のひらを向けた。もうダメだと思ったけど、サンジくんは近くの建物の壁に大きな音を立てて弾き飛ばされて済んだ。

「うわァー!こっち来た!助けてーー!」

近くに感じられるサンジくんの気配に安心して静かに息を吐いているとすぐ近くから聞こえてきたウソップの叫び声で我に帰った。

「"ヴィント・ダス・メサー"!」

力を振り絞るように腕を振り上げてくまに向かって放った風の刃は目の前のくまに避けられて、後ろにたっていた木を抉って終わった。
くまは避けた先でウソップが肉球で飛ばされた。ウソップの名前を呼んでも返事が返ってくることはなかった。もしかしたらあたしが攻撃を仕掛けない方が良かったかもしれない。さっきサンジくんが悔しそうにしてた気持ちが今になって分かる。

ウソップを飛ばしたくまが今度はゆっくりあたしの方へ体を向けた。次はあたしを飛ばすつもりらしい。