018

入り江に船をつけると何故か急にエースの気配を感じた。こんなところにいるはずないけど意識してみてもやっぱりその気配はある。ちょっと遠くのほうからだけど、でも確かに町のほうから。それに気を取られてるとルフィが全速力で走って町のほうへ行ってしまった。

「どうしよう、ナノハナの街は広いからルフィさんを探すとなると大変よ」
「心配ねェよビビちゃん。町の騒がしいところを探せばいい。いるはずだ」
「ははは、そりゃ言えてる」
「それより。あいつにはもっと自分が賞金首だってことを自覚してほしいのよね。こういう大きな国では特に!」
「放っとけ、どうにかなる。とにかく俺たちもメシを食おう。考えるのは全部その後だ」

数日満腹状態にならなかったせいもあってルフィは我慢が出来ずに一目散に腹ごしらえをしにいってしまったようだ。

「あっあたしも急用思い出した!」
「ちょっとリリナ!」

抜け出すなら今しかないと半ば焦る気持ちに背中を押され、みんなの呼び止める声を聞きながら振り返ってちゃんとルフィと帰ってくるからと言い残して走り出した。あたしもルフィと同じように衝動を抑えることが出来なかった。


町に入って期待で膨らんだ胸を抑えながらエースがいるはずの方へ歩く。なんでこんなところにエースがいるんだろう。それよりそもそも本当にエースなのかも分からないけど、鍛えた自分の覇気を疑いたくないし間違いなんてないよね。

「いたぞ!やっぱり2人一緒だった!」
「ん?」

いきなり後ろが騒がしくなって振り向いたら大勢の海兵たちが剣や銃を構えてこっちに走ってきてて、咄嗟に地面を蹴って空に跳びあがって逃げた。海軍来てるんだ。

「追え!火拳に合わせたら厄介だ!動き回すな!」
「火拳!?やっぱりエースいるんだ!」

海兵の言葉に喜んで屋根の上に降りて屋根から屋根に乗り移りながらエースのいる方に向かっていると、前の方からオレンジのテンガロンハットが見えた途端に胸が高鳴って居ても立ってもいられなくなって屋根から足を離してエースの方に飛びかかった。

「エースーーっ!」

あたしが名前を呼んでエースがパッて顔をあげたら距離がもう目の前だったから目をまん丸にして驚いてたのに、あたしを見事に抱きとめた時にはもう大好きな笑顔に変わって背中に回ってる腕の力がさっきよりも少し強くなった気がした。

「リリナ!驚いたこんなとこにいたのか!無事で良かった!」
「こんなに早く会えるなんて思わなかったー!」

あたしもエースも会えたことに喜んでいると、追いかけて来た海兵たちが追いついてそれを撒くように小さい路地を通ってまた走り出した。

「弟追ってたら海兵どもがリリナの名前出してきたからまさかとは思ってたんだ」
「そうだ、聞いて!あたしルフィに助けてもらったの!」
「ルフィに?そうだったのか!そんじゃひとまずルフィんとこ行くか!おれはまだ顔合わせてねェんだ」

ルフィがいる方へ向かうとスモーカーに追われてるし、その前にはみんながいる。スモーカーも久しぶりだなあ。

「逃がすか!WホワイトブローW!」
「W陽炎W!」

スモーカーの煙を炎で相殺したエース。ここはあたしが出る幕じゃないと判断して少し後ろからスモーカーに手を振る。

「てめェか」
「やめときな。お前は煙だろうが俺は火だ。俺とお前の能力じゃ勝負はつかねェよ」
「エース!?」
「変わらねェな、ルフィ」

エースが振り返ったからつられて振り返ると麦わらの一味みんなが揃っていて全員面食らったような顔してた。

「とにかくこれじゃ話しもできねェ。後で追うからお前ら逃げろ。こいつらは俺が止めといてやる。行けっ!」
「行くぞっ!」

エースの言葉に頷いたルフィはみんなを連れて先に走ってった。それを見送るとスモーカーに向き直るエース。

「退け、ポートガス・D・エース」
「退くわけにゃいかねェな。W炎上網W!」

スモーカー達との間炎の壁を作って行く手を阻むとすぐに走ってルフィ達の後を追った。

「しかし驚いた!お前こんなとこまで流れて来てたのかよ。お前が海に飲み込まれたときはもうダメだと思った。しかもルフィと一緒にいたとはな!」
「あたしも驚いたよ!やっぱり兄弟だね、ルフィはエースに似てるよ!」

そう言うと納得いかないような口ぶりをしておきながら顔は嬉しそうに笑っている。その表情だって似てる。2人とも太陽みたい。

・・・・・・


海兵たちを撒いてからストライカーに乗ってルフィの船に向かってると腹の虫が盛大に鳴った。おれはさっき食ってきたからもちろんリリナの。あまりにデカい音だったもんだから口開けて大笑いすると、恥ずかしそうに笑った。

「お前なんも食ってねェのか」
「アラバスタ着いてからすぐエースに会いに来たんだもん」
「そうか。久しぶりだもんな、そりゃ嬉しくなんのもあたり前だな」

軽く頭を撫でてやると今度は嬉しそうに笑ったからつられて同じように笑う。そういや前におれが笑うとつられるって言ってたっけな。おれも結局つられたし。船の傍に行くとルフィの大きい声が聞こえた。

「だっはっはっはっは。でも今やったらおれが勝つな」
「お前が、誰に勝てるって?」
「エーースーーっ!!」
「よう。あー、こいつあどうもみなさん。うちの弟がいつもお世話に。あとリリナも世話になったみたいで」
「や、まったく」

クルー達を見ると個性的な奴らが多いみたいで、ルフィらしいなって思った。どいつもしっかりしてそうだ。ペットにたぬきまで連れて。

「……とにかくまァ、会えてよかった。おれァちょっとヤボ用でこの辺の海まで来てたんでな、お前に一目会っとこうと思ってよ。ルフィお前、うちの白ひげ海賊団に来ねェか?もちろん仲間も一緒に」
「いやだ」
「プハハハ!あーだろうな。言ってみただけだ」
「白ひげ。白ひげってやっぱその背中のマーク本物なのか?」
「ああ、おれの誇りだ。白ひげはおれの知る中で最高の海賊さ。おれはあの男を海賊王にならせてやりてェ」

長鼻の奴が冷や汗を垂らして聞いてきたからオヤジの顔を思い出しながら話すと、隣にいたリリナが物思いにふけった顔で足の入れ墨をなぞったのを見た。

「……ルフィ、お前じゃなくてな」
「いいさ!だったら戦えばいいんだ!」

いつものトーンで言ったルフィに先のこと考えてねェんだろうなって思う。そうなったらそれはそれで面白ェかもしれねェけど、そしたら必ずどっちかが負けて最後の島にはたどり着けねェことになるし、オヤジを海賊王にさせてやりてェけど実際ルフィと戦うことになったらおれも分からなくなるだろうな。

「オイ、話しなら中でしたらどうだ?茶でも出すぜ」
「あーいやいいんだ。お気づかいなく。おれの用は大したことねェから」
「ってことはリリナと仲間なんだよな。……なんかアレだな。ナマエ単品だと何とも思わねェけど、2人揃うとすげえんだなって感じるな」
「それおれも思った」
「なんかそれ失礼じゃない?」

口を尖らせてるリリナとからかってるクルーの様子に変わったことがねェから、もうすっかり馴染めてるみたいでほっとする。


ルフィが船員クルーとあれこれ騒いでいるところを眺めていると、この船へやってきた目的を思い出した。背負ってたバックの下のほうからビブルカードを出して指で弾いてルフィに渡す。

「ホラ。お前にこれを渡したかった。そいつを持ってろ!ずっとだ」
「なんだ、紙きれじゃんか」
「そうさ。その紙きれがおれとお前をまた引き合わせる」

あんま興味が無さそうにビブルカードを眺めてるからいらねェのかと聞いたけど、ルフィは返さずにまた元の形に戻した。

「できの悪い弟を持つと、……兄貴は心配なんだ。おめェらもコイツにゃ手ェ焼くだろうがよろしく頼むよ」
「……エース?」

困ったように眉を下げてこっちを見てるリリナと目を合わせ口角をあげる。

「あと、リリナ。お前はもう少し一緒にいさせてもらえ」
「えっ?エースあたしを迎えに来てくれたんじゃなかったの?」
「ああ」
「……いいよ。あたしもここでやらなきゃいけないことあるもん」
「そうか」

口をぽかんと開けた顔から腕を組んで偉そうにしてるリリナに胸を撫で下ろした。こいつのことだからぶーぶー言うかと思ってがこの船に乗せてもらってから、少しも変わったようだ。

「リリナ迎えに来たんじゃないなら何しに来たんだ?」
「おれは今ある重罪人を追ってる。最近黒ひげと名乗ってるらしいが、もともとは白ひげ海賊団の二番隊隊員。おれの部下だ。海賊船で最悪の罪。……奴は仲間殺しをして船から逃げた」

おれが話をしてるうちにリリナの眉が寄って表情が暗くなった。こんな顔させるのは癪でほんとは話したくなかったが、こいつもおれ達の仲間だから知らせておかないといけない。

「隊長のおれが始末をつけなきゃならねェってわけだ。そんな事でもねェ限り、おれはこの海を逆走したりしねェよ」
「黒ひげって……、ティーチのこと?……仲間って?」
「サッチだ」

恐る恐る聞いてきたから深く頷いて答えると一気に涙目になった。涙を堪えるように下唇を噛んで下を向いた。リリナが船でふざけて遊ぶときはいつもサッチと一緒だったし、できれば言いたくなかったがあんだけ仲良かったんだ、逆に言ってやらなきゃこいつが船に戻ったときが心配だ。重力に負けて落ちる涙を見てリリナの頭を撫でてやった。