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氷の海の上に降りるとさっきまで聞こえなかった戦闘の音が聞こえてきた。剣が擦れ合う音、たくさんの銃声、肉体同士がぶつかる音。こんなにたくさんの音を一気に聞くのは初めてで、全身に鳥肌が立って背筋が凍った。あたしはすごいところに来たんだと実感した。
それでも怖くて体が震えたり、足が竦んだりすることはない。心の中で区切りをつけて前に走り出そうとすると正面からすごく大きな斬撃が迫ってきて、咄嗟に避ける。

鷹の目だ、とどこからか聞こえてきた。あたしは見た事ない七武海の一人の鷹の目のミホークの一撃だったようだ。繰り出された斬撃はモビーの前で大きな音を立てて止まった。

「止めた!世界一の斬撃を!」
「3番隊隊長ダイヤモンド・ジョズ!」

斬撃を受けとめたジョズは体の縦半分をダイヤモンドにさせて、光を受けて綺麗に輝いている。確かにダイヤモンドはもの凄く硬いって言われているけど、あんなすごいものを自分の体で受け止めるなんてあたしには出来ない。


「W八尺瓊曲玉やさかにのまがたまW」

今の衝撃で隙をついたように上から黄猿が仕掛けに来ていた。見上げると少し前にも体験した眩しい光がいくつオヤジに向かって降り注ぐ。数えきれないくらいの光はオヤジの目の前で何かに防がれるように爆発した。

「大将の攻撃を防いだ!何だ!?青い炎をまとってるぞ……!」
「1番隊隊長、マルコ!」
「いきなりキングは取れねェだろうよい」

マルコの腕は鳥の羽の形をした炎で覆われている。不死鳥マルコと言われるように炎が全身を覆うと鳥に変身したりする。エースの炎と違って熱くもなければ、炎で攻撃するわけでもない。ただどんな攻撃を受けてもあの炎と一緒に絶えることなく再生できる能力。だから不死鳥。


けど青雉も黄猿も、あたしはあんなに苦戦したのにみんな太刀打ち出来てるから自分の弱さがよく分かる。相性の問題もあるかもしれないけど、やっぱり悪魔の実の能力があれば違うのかな、なんて思ったりする。

そんな場違いな考えはジョズが持ちあげた大きな氷塊を見てかき消された。そうだ、ジョズのあの怪力は悪魔の実の能力のせいじゃない。この戦争が終わったら頑張って強くなろう。ゾロみたいにトレーニングしよう。

ジョズが持ちあげた氷塊は赤犬のマグマによって跡形もなく蒸発してなくなった。氷を溶かしたマグマはそのままあたし達のいる場所と、モビーに落ちてきた。そのうちの1つが4隻のモビーのうちの一隻に直撃した。1つはオヤジのいるモビーに向かって落ちていったけど、ちょうどいたオヤジが薙刀でマグマの塊を刺して勢いを殺した。息でロウソクを消すようにマグマの炎を消せるなんてなかなか出来る事じゃない。


今度こそ処刑台にいるエースに向かって走り出すと周りにいた海兵があたしを見つけて攻撃を仕掛けてきた。撃たれた銃弾は風を起こして勢いを殺す。剣を振りかざしてきたらそれよりも早く武器を握る手を蹴りあげて隙を作ってから、まとめて風の刃で切り刻む。


立ち塞がる海兵を片っ端から相手にしてた頃背中から低い唸り声が聞こえてきた。

「オーズ!」

巨人よりもずっと大きいオーズはとても頼りになるけど、大きすぎて的になる。スリラーバーグで見たのと同じ。でもあの時のような恐ろしさは全くない。

「オーズ駄目だ!お前のデカさじゃあ標的にされるぞ!」
「エースぐん!今そごへ行ぐぞォ!」

側にあった軍艦を担ぎあげて立ち塞がっていた壁を壊して湾内に入れなかった仲間を導いて自分も戦いの中心へ進む。握っていた刀で向かってきた巨人族の中将をなぎ倒した。
エースを助けるって正面きって進んでいるために余計に敵からの攻撃を受けやすくなっている。しかもがむしゃらに進みすぎて自分を守る事をしない。

「オーズめ、仕様のねェ奴だ。死にたがりと勇者は違うぞ」
「おやっざん!止めねェで欲じい!オイダ助けてェんだ。一刻も早ぐ。エースぐん助げてェんだよォ!」
「分かってらァ……!てめェら!尻拭ってやれ!オーズを援護しろォ!」

オヤジの命令でオーズのそばにいた仲間達が駆け寄って銃撃を止めに入り始めた。これなら少しは安心する。直接的な攻撃ならさすがにオーズでも無視しないだろう。

「W虜の矢スレイブアローW!」

それを見届けた後に前を見るとハートの矢が周りを囲んでいた人達を撃ち抜いた。あたしに迫ってきた矢を後ろに飛んで避けると前にいた人達はみんな石になって固まってしまった。
矢が当たらずにまだ動ける海賊と海兵もみんなまとめて足技で倒していく。サンジくん顔負けの綺麗な足蹴りに思わず見惚れてた。しかもとても綺麗な人。

ずっと見つめていたせいで蛇に乗って高い位置にいた女の人と目が合った。それに気付いて無意識に開いていた口を閉じると鋭く睨まれた。能力を使われたわけでもないのに威圧されてぴしりと固まって動けなくなる。海兵もまとめて攻撃してたから味方なのかも分からないけど、たぶん敵側な気がする。