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オヤジと話し終えたように見えたルフィはすぐに走り出してしまうかと思っていたけど、予想を超えてオヤジと長話をしてくれたおかげで二人が揃ってるところに到着できた。

「ルフィー!」
「えええぇっ!?リリナ無事だったのか!良かったァ!」

船首に飛び乗って二人に駆け寄ると目をまん丸にして驚いた。でもすぐに笑顔に変わって両肩を掴んで首がもげそうなくらい前後に揺さぶられた。

「る、ルフィも元気そうで良かった。あたしは元の船に飛ばされたんだけどルフィはどこに?」
「おれは女ヶ島に飛ばされた!いろいろあったけど七武海の奴が送ってくれてさ!インペルダウンに行ったんだけどエース助けるの間に合わなくってよー。結局ここまで来た!」

さらっと笑顔で言って流してるけどきっとルフィのことだから行った先々をかき回してきたんだろうなって分かる。一緒に落ちてきた人達がそれを物語ってる。インペルダウンに行って帰ってくるのさえすごい事だろうに、それからまたこんな戦場に来るなんてタフだと感心する。

「お前も船に戻れて良かったな!あ、そうだおっさんに言うことあるんだ」

まだ話しの途中だったルフィがいきなり何かを思い出してオヤジに向き直った。

「おっさん!リリナをおれにくれ!」

ルフィの発言に、また背の高いオヤジを見上げているルフィの顔にはさっきまでの笑顔は無くなって、少しだけ目が大きく開かれた後にゆっくりと眉をひそめてルフィを睨みつけた。

「……このおてんば娘を嫁に取るって?」
「ヨメ?そうじゃなくて、おれの仲間に引き入れたいんだ!」
「馬鹿言え。おめェみたいなハナタレ小僧にうちの娘はやれねェな」
「頼むよ!船長に許可もらわねェとクルーは下船できないんだぞ!」
「船長が却下してるんだ。諦めろ」
「いや、おれは諦めねェ!」

頑なに首を横に振るオヤジに対して、ルフィも諦めずに食い下がる。両手を合わせて頭を下げているけどそんなのもお構いなしだと言うようにオヤジは周りを見渡してる。
忘れそうになっていたけど今は時代を分ける大戦争の最中だった。そんなときに周りの緊張感を忘れるここの雰囲気も凄まじい。むしろルフィのペースに巻き込まれないオヤジは場数をこなしてきただけある。

「くそォ……!このおっさん聞く耳持たねェ。もういい、おれは行く!こうなったらエース助け出して嫌でも頷かせてやるからな!覚悟しとけよ!」

ついに相手にもしてくれなくなったオヤジの態度に痺れを切らしたルフィは歯を剥き出しにして威嚇しながらモビー・ディック号から降りて走り出した。

「おい!リリナ行くぞ!」
「うん!」

走って先に進んで行くルフィに急かされて同じように飛び降りようとするとオヤジに呼び止められた。特に悪いことをしたわけでもないけど、ルフィがさっき言った言葉がなんとなく後ろめたく感じて返事をするにも吃ってしまってぎこちなくなった。

「お前……エースといい、あの小僧といい……。ガープにも気に入られてるって言うじゃねェか。あの辺りと何かあるんじゃねェのか?」
「何にもないよ。偶然だよ」
「そうだといいけどな」

口角を上げて何かを含んだように笑うオヤジに首を傾げた。
どこからか青い炎に身を包んだマルコが飛んできて海兵達が作戦に出ていることを知らせにきた。

「……まあいい。ちゃんと見ててやるからしっかりやってこい」
「……うん!」

力強く背中を押されて勢いよくモビー・ディック号から飛び降りた。先に進んでいるルフィは顔にインパクトのある人の少し荒い手助けを受けながら前に進んでいた。既にルフィが進んでいる道だから敵の数が減っていて少しは通りやすい。

「WトロンベW」

いくつもつむじ風を起こしてあたしに向かってくる海兵の行く手を阻む。いちいちこんなにたくさんを相手にしてたら体力が持たない。

風を上手く躱しながら、後ろから剣を構えてあたしと間合いを詰めてくる一人に体を対峙するように向き直る。少しくらいならって構えを取った瞬間に何かがお腹に巻きついてすごい勢いで後ろへ引っ張られた。一瞬パニックになりそうになったけれど、お腹に巻きつく物の感覚に覚えがあったおかげですぐに冷静を取り戻せた。

「ルフィ!」
「こんなの構うな!」
「分かってるけど数が多くて……!」

引っ張られたおかげでルフィに追いつけた。後ろを確認するとさっきの海兵は見つけられなかったけど、アラバスタを出発するときに戦った女の海兵がいた。ルフィはあの人から逃げたんだと分かると金棒を振り下ろそうと構える海兵が現れて、すぐにルフィの腕を引っ張った。
強く引っ張りすぎたせいでバランスを崩した隙を突かれて別の海兵にルフィとまとめて斬られてしまった。

「ルフィごめん……!」
「気にすんな!」

あたし達を斬った奴はルフィがすかさず殴り飛ばしてくれた。申し訳ない気持ちを振り払うように前に進もうとすると大柄な二人に塞がれて、出しかけていた足を止めた。


「WヴィントシュトースW」
「来るな!ルフィーー!!」

腕を突き出して起こした旋風で二人を蹴散らしたのと、エースの声が聞こえたのは同時だった。

「分かってるはずだぞ!おれもお前も海賊なんだ!思うままの海へ進んだはずだ!……おれにはおれの冒険がある!おれにはおれの仲間がいる!お前に立ち入られる筋合いはねェ!……お前みてェな弱虫が、おれを助けに来るなんてそれをおれが許すとでも思ってんのか!?こんな屈辱はねェ!帰れよルフィ!なぜ来たんだ!」

エースは弱いところを見せるのを嫌う人だから、この戦いが始まる前もそうだったけど今みたいに一度突き放すんだ。自分のせいだと言ってた。だけどエースは巻き込まれただけなんだ。悪いところなんて何もないのに。だから大丈夫だよって助けてあげなくちゃいけない。

「おれは弟だ!!海賊のルールなんておれは知らねェ!」

きっとルフィは分かってる。初めて会ったとき、エースの話をしたら嬉しそうにたくさん話してくれた。今考えてみればルフィとあんなに長く話したのはあの時だけだ。

ルフィはエースのことをよく知ってる。だからきっとエースがさっき言った言葉の意味は理解してるはず。だけどそんなことも言っていられないんだ。きっと立場が逆転してもエースだって助けに行くはずだから。