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ルフィにのし掛かっているスモーカーを蹴り飛ばして強制的に退かせたのは、さっきあたしと危険な雰囲気になったあの女の人だった。青筋を立ててもの凄い剣幕でスモーカーに睨みを利かせてる。

「あ、あの人一体何者……」
「知らないんですか?海賊女帝ボア・ハンコック。九蛇海賊団を率いる船長で王下七武海の一人です」

海賊女帝は聞いたことがある。前にみんなが絶世の美女だって浮れて話してた。七武海だとは知らなかったから、まさかここにいるなんて思わなかった。そう言われれば絶世の美女だと納得する。

「無知な人ですね」
「失礼な!」

あなたとは違って勉強は苦手なだけです。そう言い返せば情報を手に入れるのも力を身につけたのと同じだって返ってきた。

「それなら風を刀で防ぐ方法を探した方がいいと思う」
「なっ……」
「WヴィントシュトースW」

手のひらを突き出すと突風が起きて正面に構えていたたしぎが弾き飛ばされていった。難しいことばっかり言ってくるたしぎは苦手なタイプだった。


一方のルフィは嬉しそうに満面の笑みで海賊女帝に抱きついていた。何があったんだと見つめているとルフィと目が合って呼ばれた。すると真っ赤な顔をしていたはずの海賊女帝は一瞬で顔に影を作りこちらに睨みつけてきた。今にも丸呑みにされてしまいそう。

「そなた何者じゃ!先程からルフィの側をちょろちょろと……!」
「いやあたしは別に……」

すごい剣幕に上手く口が開かない。この人には敵わない。さっきみたいにルフィが助けてくれればいいけど、走り出してしまったせいでこちらを振り返る素振りはない。どうやって切り抜けたらいいんだろう。

そんなときスモーカーがルフィを追いかけようとしたのを見つけて、すかさず海賊女帝が止めに入った。あたしから注目がなくなったおかげでやっと自由に動けるようになった。もうなるべくあの人に近付かないようにしようとそっと誓った。

次から次へと目の前に立ち塞がる海兵のせいでルフィとの距離が広がっていく。イワさんがいる場所が分かればきっとルフィも側にいるはず。目立つ顔のイワさんの方へ足を向けると周りを囲まれた。

風弄ふうろうのリリナだ!やれ!」
「……WヴィントホーゼW」

大きな竜巻を起こして取り囲んでいた海兵を一掃した。同時に視界の端で起きた同じような竜巻は、さっきルフィと一緒に来たクロコダイルだと納得してエースのいる処刑台を見上げる。
結構走ったはずなのに一向に近く感じられないと疲れが込み上げてきた。後どれくらいであそこに辿り着けるんだろう。そう考えたものを、余計なことは考えちゃダメだと振り払うように首を振った。

風が止むまで荒くなった息を整えていると背中に大きな何かが触れて、反射的に肩を震わせた。

「お、リリナじゃねェか」
「……ビスタ!」
「なんだよ、エースの弟はあっちにいるのに逸れたのか?」
「なかなか近付けなくて……」

ビスタに驚かされたせいで上がった心拍数も一緒に落ち着かせている間に、周りにいた海兵が次々に倒れていく。湧くように出てくるからキリがなかったのにと思いつつ助けられたことに感謝して、いつだって頼りになる背中を追いかけた。