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海賊側の大将、エドワード・ニューゲード。あたし達のオヤジが船を降りて自ら戦闘に加わった事で戦況が大きく変わり、味方の士気もだいぶ上がった。オヤジの邪魔にならないように、攻撃を受けないようにかい潜って道を開ける。

「なんだかおかしいな……」

銃を構えながら眉をひそめて首を傾げるイゾウを横目で見て応戦して、自分から前に進んでいくと異変に気付いて風を起こす手を止めた。海兵が少ない気がする。イゾウの顔はこれが原因だと分かって声をかけようとすると、地鳴りのような音が聞こえて正面を見ると、先程まで見えていた高い位置にあるはずの処刑台をすっぽり隠す程の高い壁が湾内を覆っていた。


状況を把握できないまま次には拳の形をした、数え切れないほどの火山弾が降り注がれる。流れ星だったら良かったのに、と憎まれ口を叩いているとそのうちの一つがモビー・ディック号の船首にあたり、その衝撃で船体が傾き始めた。息を飲みその光景を見ていると大きなあたし達の船は火山弾をいくつも当たってしまう。マストが折れ炎に飲まれて少しずつ海に沈んでいく姿にあの時のゴーイング・メリー号と重なる。

「モビー……!」
「…………」

溢れ出す涙を拭ってモビーを見つめていると乱暴に頭を撫でられる。メリーのときのように見守れたら良かったけれど、今の状況ではどうしてもそれが出来ない。モビーも一緒に戦って、あたし達を支えてくれた大きな船に感謝の気持ちを込めて見つめる。

「おいリリナ。ここも危ねェぞ」
「うん!」

火山弾によって氷の足場が溶けていき、所々に海水が露わになる。湾内を囲む壁はクリエル自慢のバズーカも、オヤジの能力も効かない。


『作戦はほぼ順調。これより速やかにポートガス・D・エースの処刑を執行する!』

スピーカーを介して聞こえてきたセンゴクの声に焦り始めて広場の向こうへ行く道を探した。少しずつ無くなっていく足場を選んでいると少し離れた人の塊の中から一本の水の柱があがって壁の向こうの広場へ跨いだ。

「ルフィだ!きっと1人で乗りこんで行ったんだ。あたしも行かなきゃ……!」
「そろそろだな。エースの弟はとりあえずマルコに任せとけ」

壁のてっぺんを見上げているとイゾウの脇に抱えられて移動した。どこへ行ったのかと周りを見ればパドルシップを備えた小さなモビーの上だった。

オーズが倒れていたことによって壁が上がらなかった唯一の広場への道目掛けて進んでいると、力を振り絞って起き上がったオーズがモビーを担いで広場への引き上げてくれた。


船から広場へ降りるとだいぶ近くなった処刑台の上にはエースがしっかりといた。まだ執行されてなかったことに安心しているとすぐ近くで船から降りてきたオヤジが薙刀を力一杯振って周りの海兵をなぎ払った。

「野郎共ォ!エースを救い出し、海軍を滅ぼせェ!!」


海賊も海兵も入り乱れて戦う広場の中でルフィを探していると中将2人と戦っているところを見つけた。反撃はしているものの、中将相手に二対一だと分が悪いようで一度攻撃を受けて怯んだ隙に畳み込まれてしまう。そこへ一筋の光がルフィの体を貫いた。背後で起きた爆発で前に体が吹き飛んで倒れる。その目の前にいた黄猿に蹴られてあたし達のところへ飛んできた。

「ルフィ!」

正面に飛んできたルフィをオヤジが受け止めた。意識が半分ない状態でエースを呼んでいる。

「いたっチャブル!麦わらボーイ!あそこよジンベエ!」

聞こえてきたイワさんの声に本人を探していると壁の上から何倍も大きくなった顔がこちらを見下ろしていた。

「それ見たことかァ!だから言わんコフッチャナッシブル!息はあんの!?麦わらボーイ!」
「イワちゃん……。放せ……オッサン、おれは……!あ、リリナ!」

オヤジに足を掴まれて逆さの状態で持ちあげられているルフィを受け止めようと真下で待機していると、オヤジは少しだけあたしを見てから逆側にルフィを放った。

「いらねェ!そんな時間ねェよ!邪魔すんな!……エースは、エースはおれの、世界でたった一人の兄弟なんだぞ!……必ず、おれが助け……」
「ルフィ!」

手当てをしようと駆け寄った船医の手を振り払って抵抗しているルフィが胸倉を掴んだ次にはぱたりを力を無くして倒れた。


ルフィに駆け寄ると苦しそうに辛うじて息をしている程度でもう立ち上がる事すら出来ないる状態だった。

「末っ子どうするよ?」
「…………」

エースは何が何でも助けなくちゃ。ルフィに代わってあたしが出て行けばいい。きっと後で怒られるかもしれないけど、エースを助け出すことが出来れば結果オーライだ。

「あたしがエースを助けてくるよ」
「おい、リリナ。……抜け駆けは、許さねェぞ……!」

前へ走り出してルフィが言っていたことは聞こえないフリをした。処刑台を見上げれば前屈みになっているエースがいた。

「エース!今行くから!!」

思わず叫んだ声がエースに聞こえたのか何かを探すように顔をあげた。よそ見をしているあたしを狙ってきた海兵を蹴りつけて風で吹き飛ばす。

「リリナ!」

舞いあがった風を見つけたのかエースがこちらを見ていた。よく見れば涙で顔がぐちゃぐちゃだ。初めて見たあんな弱々しい顔に胸が苦しくなる。
そんな顔エースには似合わない。自信に満ちたいつもの笑顔がいい。また一緒に、海を渡りたい。