そんな時に視界に入ったのは心臓のあたりを押さえて血を吐いているオヤジだった。それに驚いていると、駆け寄ろうとしたマルコが黄猿の能力でルフィと同じように腹部を二ヶ所貫かれた。畳みかけるようにジョズが青雉に腕を凍らされて、苦しむオヤジは赤犬に胸のあたりを焼かれた。
「オヤジ!マルコも、ジョズも!」
「ウオオオオォォ!!」
あたしの声をかき消すように大きな雄叫びが響く。するとすぐにルフィが走ってきて、どうしようかと迷っていたあたしの腕を強引に掴んで進んだ。
「お前!よくも置いていきやがったな!」
「な、なんでそんなに元気なの!?さっきはへろへろだったのに!」
「うるせェ!奥の手だ!」
「テンション・ホルモンを打っタブル!今は体を騙してる状態で、もうとっくに限界は超えてる!次倒れたら、帰ってこれないわよ!」
ルフィと一緒に走ってきたイワさんの説明でもう次はないということが分かった。ここで一気にエースを助けなくちゃルフィも死んでしまうことになる。
「……待ってみんなが!」
「おれ達はエースを助けに来てんだ!オッサン達がやられてもエースを助けなきゃ意味がねェ!……それに、お前の仲間はあんくらいでやられる奴らなのかよ!」
「……ううん。みんな、強いよ!」
「よし!」
説得してくれたルフィはあたしの腕を掴んだまま走り続けている。すると前にウォーターセブンでガープおじいちゃんと一緒に来てた海兵、コビーが見えた。
「Wゴムゴムの
サイファーポールが使っていた戦術の一つ、
突然目の前を立ち塞がったくまの偽物は海賊女帝が盾になってくれたおかげで躱すことが出来た。どうやら味方は攻撃しないようになってるみたい。あたしが海賊女帝に攻撃されそうなくらい敵視されてたくらい。
ふと後ろを振り返るとオヤジが集中的に狙われて至近距離で銃弾を受け、刀を身体の深くまで突き刺されていた。
「オヤジ!」
「来るな!!……こいつらァ。これしきで……おれを殺せると思ってやがる。助けなんざいらねェよ……。おれァ白ひげだァ!!」
敵と、味方にまで威嚇するような勢いで自分に纏わりつく海兵を振り払った。吹き飛んだ海兵達は気を失ったのか動かなくなったその姿に追い討ちをかけようとしていた者はぴたりと動かなくなった。
「……おれが死ぬこと。それが何を意味するか、……おれァ知ってる!だったらおめェ。息子達の明るい未来を見届けねェと、おれァ死ぬ訳にはいかねェじゃねェか。……なァエース」
オヤジはいつだってあたし達のことを一番に思ってくれてる。父親のように広い心を持って、船長としてあたし達の前に立って導いてくれる。その姿勢にいつも支えられてやってこれた。だからオヤジにはこれだけの人が集まってきたんだ。
勇敢な船長の姿を見て溢れそうな涙を乱暴に拭うと、正面に見える処刑台でエースの両隣にいる執行者が刃を振り下ろそうとしていた。今いるところからでは届かないと分かっていながら、風で阻止しようと手をかざした。
「やめろォーーっ!!」
掴まれている腕を力強く握られて思わず目を瞑って耐える。そして一瞬意識が遠退いたとき、またルフィに引っ張られて倒れることは免れた。ぼんやりする頭を振って持ち直す。前を走るルフィは変わらず前を向いたまま。周りを見ると海兵も海賊も関係なくちらほら倒れている。
「ヴァナタ今の!」
「今助けるぞー!」
今のは覇王色の覇気だ。しかもルフィがやったんだ。イワさんが話しかけても聞こえてないのか振り向きもしない。前にも何回かあったけどルフィまだコントロール出来てないみたいだ。
何も気付いてないルフィでは話にならなくて、イワさんは少し焦りの見える顔であたしの方を見た。何となく言いたそうなことを汲み取って何回か頷くと、より一層目力が強くなって目をそらした。
「野郎共ォ!麦わらのルフィを全力で援護しろォ!!」
ルフィが王の資質を持つ者だと分かると近くにいた海兵がルフィを狙ってきた。オヤジが出した号令を守ろうと掴まれている腕を振り払って海兵を迎え撃つと、横からディカルバン兄弟が割って入ってきた。
「リリナ!無事なのか!?」
「無事なのか?リリナ!」
「うん、ありがとう!」
あたし達を取り囲む傘下のみんなの援護のおかげでだいぶ楽に前に進めるようになった。
「一大事よ麦わらボーイ!世界一の海賊がヴァナタを試してる!ヴァナタ、白ひげの心当てに応える覚悟あんのかいって聞いてんノッキャブル!ヒーハァ!」
「白ひげのおっさんが何だか知らねェけど!おれがここに来た理由は始めから一つだ!」
人混みの間を縫ってルフィを狙って来た鷹の目をダズ・ボーネスが阻止しようと入ったものの、あの大剣に敵わず押し通された。それを援護するように今度はクロコダイルが鷹の目の刃を防ぐように入って来た。
傘下のみんなはまだしも、一度敵対した敵も味方もないと思ってたクロコダイルまでルフィを守る形を取ってくれるなんて。すごい場面に出くわしたような気がする。