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海賊達の援護のおかげで処刑台までの道がひらけた。近くには傘下のみんながいて、その周りには隊長達がルフィを狙う大砲の弾を阻止している。

「ヴァナタは最後まで麦わらボーイについて行きなさい!」
「え?」

イワさんの言う意味が理解できないまま、アフロヘアの中から現れたサングラスの男の人が両腕に生えるハサミで地面を切り離して、それを使ってエースのいる処刑台までの一本道を作った。

「カニちゃん!」
「あれは……革命軍のイナズマ!」
「ルフィくんゆけ!」
「おう、ありがとう!」

急に出て来た人もルフィは顔見知りみたいで簡単にお礼を済ませて、作られた道を登り始めた。作られた道はたくさんの人が通ったらすぐに崩れてしまう。限られた人だけが登れる。ルフィと、あたし。あたしにも資格がある。
ここまで来るのにも大変で喉はカラカラ。ずっと走ってきたし、受けた傷とダメージでもうそんなに体力も残ってない。だけどここを行けばエースを助けられる。ここまでの頑張った成果だ。早くエースのところに行かなきゃ。

酸素不足で荒くなる呼吸のままルフィの少し後を追うとすぐに阻止しようと大砲やら銃弾が放たれた。

「WシルトW」
「リリナ!お前も進め!」

迫り来る黒い塊の勢いを殺して直撃を防いだ。そうしているとビスタが間に入って代わりに斬り落としてくれた。反対側に放たれたものはハルタが同じように援護してくれる。先を行くルフィは邪魔が入らないおかげでスムーズに進めていた。


突然ルフィの目の前に何かが当たったのか道が崩れて煙があがった。その中から出て来たのはガープおじいちゃんだった。

「じいちゃん!そこどいてくれェ!」
「どくわけにいくかァ!ルフィ!わしゃァ海軍本部中将じゃ!……お前が生まれる遥か昔からわしは海賊達と戦ってきた!ここを通りたくばわしを殺してでも通れ!麦わらのルフィ!それが、お前達の選んだ道じゃァ!」
「おじいちゃんそんなこと言わないで!」

いつもと違う目つきをしてルフィを睨んでいるおじいちゃんが大きく見える。ルフィの名前を呼ぶと首を振ってもう一度正面を見た。

「できねェよじいちゃん!どいてくれェ!」
「できねばエースは死ぬだけだ!」
「いやだァ!!」
「嫌なことなどいくらでも起きる!わしゃァ容赦せんぞ!ルフィ!お前を、敵とみなす!」

ガープおじいちゃんが拳を構えてすぐルフィも応戦体勢をとってお互いが拳を向けて振りかぶった。エースは助けたいけどガープおじいちゃんは傷ついてほしくない。拳がぶつかる直前でおじいちゃんが目を瞑ったのにつられるように目を瞑った。おじいちゃんの拳を躱したルフィは拳をそのままに目の前のおじいちゃんの顎を殴りつけて、脇目も振らずに突き進んだ。

細い道から下の地面に落ちて行くガープおじいちゃんを見ないように目の前の道をじっと睨んで走った。崩れる足元を蹴って飛ぶとすぐに処刑台に辿り着いた。

すぐ目の前にはエースがいる。ぱっと明るくなる世界に自然と笑顔になるけど、胸の辺りにこみ上げてくる何かを抑えるように息を整えた。

「エース……!」

ルフィがポケットから鍵を取り出していると同じ場所に立っていたセンゴクがみるみるうちに大きくなって巨人の大きさと同じくらいになった。目の前の巨体に圧倒されて思わず後ずさる。

「ルフィ早く!」
「ああっ鍵!」
「えっ!」

焦った声をあげたルフィに振り返ると半分のところで折れた鍵を持っていた。もう半分は下に落ちている。唯一の鍵が使えなくなってしまった。

「……うぅ。何だ、いきなり気を失ってしまったガネ……」
「え!?さん!何でここに!?」

先程の覇王色の覇気で倒れた見覚えのある執行者の一人が起きあがった。アラバスタで敵だった奴。何でここにいるのかと驚いていると上から大きな拳が降ってきた。

「私の手で処刑するのみ!」
「リリナ下がってろ!おいさん、壁でエースとリリナを守れ!」

目の前で膨らんで風船のように丸く、大きくなったルフィがセンゴクの拳を防いだ。少し遅れて目の前が白い壁に覆われる。

「ルフィ!」

拳の重さがルフィから壁に伝ってきてミシミシと音を立てる。そしてその重圧に耐えきれなくなった処刑台が崩れて傾き始めた。

「鍵を作る!すぐに錠を外すのだガネ!」
「わかった!」

すぐに足場を無くして頭から落ちていく中でさんは能力を使ってエースの錠を外すの鍵を作ってルフィに渡した。

「私がここにいる理由が、亡き同胞への弔いの為だとしたら……貴様私を笑うカネ!」
「笑うわけねェっ!」
「兄を救え!麦わら!」

あたし達より少し先を落ちているエースの腕を掴んで引き寄せた。もう一踏ん張りでエースは助かると頭いっぱいにして足で小さくなったルフィを挟んで手錠まで近付けた。だけどあたしの腕を伝って移動するルフィに夢中になっていて、こちらに大砲が迫ってきてると気付いた時にはもう手遅れなほど近距離だった。

直撃する覚悟で体を縮めると爆発音と一緒に黒い煙と炎が立ち込めた。痛くもなければ熱く焼けることもなくて閉じていた目を開けると腰を抱え込まれる。


触れている部分から温かさが伝わって視界の端に見覚えのあるベルトが目に入ると、一気に目は涙でいっぱいになった。

「お前は昔からそうさ、ルフィ!おれの言う事もろくに聞かねェで、無茶ばっかりしやがって!」
「エースーー!」

あたしを抱えるエースを見上げると、それに気付いたのかこちらを見下ろしてにっと口角をあげて笑った。反射的に腰に抱きつくといつもやってくれるように乱暴に頭を撫でてくれた。嬉しいけど支えてくれないと、腕が辛いよ。

やっと助けられた。やっと、笑う顔が見られた。エースが一緒ならもう大丈夫だ。またみんなで笑っていられる。