「次こそお前じゃ麦わら!」
「こいつの命はやらねェ!」
すぐ側で聞こえる音に顔をあげると目の前で青と赤が交わっていた。この戦いの中でずっとオヤジの側にいて離ればなれだったマルコが赤犬のマグマを防いでいた。
「エースの弟を連れていけよい!ジンベエ!……その命こそ!生けるエースの意志だ!」
隣で動かないままのルフィをジンベエが抱えて連れて行ってしまった。そしてまたぶつかり合う音に前を向くと赤犬と対峙しながらマルコがこちらを見ていた。微かに焦りが顔に出ている。
「エースに代わっておれ達が必ず守り抜く!もし死なせたら、白ひげ海賊団の恥と思え!」
マルコの目一杯の声は悲しみに包まれていた戦場の士気を高めた。みんながルフィのために動いてくれようと声を出してもう一度海兵に立ち向かっていく。
ジンベエに抱えられて離れていくルフィを逃すまいと赤犬が一歩踏み出したとき、傍から現れたオヤジが赤犬の顔を地面に殴りつけた。潰れかけたにも関わらず起きあがった赤犬は、腕をマグマに変えて、今やられたようにオヤジの顔を抉った。顔の半分を失ったオヤジは脇腹を殴りつけて能力を合わせた力は何倍にもなって赤犬の身体に響いた。
今までの戦いが嘘のように激しさを増していくのが分かった。
オヤジの一撃で周りの地面や海軍本部が崩壊した。この惨劇が目の前で起きたのに、身体は一向に動こうとしない。意識はしっかりしてるのに身体を動かすことが出来ないんだ。
そんなあたしはオヤジに片手で摘まみあげられ、大きな地割れの向こう側に放り投げられた。
「リリナ!気をしっかり持て!」
あたしを受け止めたクルーがそのまま船へ向かって走り出した。しかしすぐに周りがどよめき始めて走っていた足が止まる。周りの視線の先を見ると海軍本部の後ろに栗頭がいて、処刑台には知った顔が人数を揃えてこちらを見下ろしていた。
「黒ひげ海賊団!」
「久しいな!死に目に会えそうで良かったぜオヤジィ!」
軽々しくオヤジに声を掛けたティーチを見る目が自然と鋭くなる。引き連れている面々はどうやら名のある悪人らしく、着ている服を見る限り監獄から連れてきたんだと分かる。
「ティーチ……!」
「手ェ出すんじゃねェぞマルコ!4番隊隊長のサッチの無念!このバカの命を取っておれがケジメをつける!」
何もかもの元凶があのティーチなんだ。サッチを殺して、エースを海軍へ渡した。そんなことがなければ今こんなことにならなかった。エースが死んでしまうこともなかったのに。
悪魔の実の能力を手に入れたティーチは余裕を見せてオヤジに応戦したが、軽率な判断と自分の能力への過信によって肩に薙刀を斬りこまれ、オヤジに地面へ押しつけられた。痛みにもがくティーチは引き連れてきた奴らと一斉に総攻撃を仕掛けた。数えきれないほどの銃声と何度も振り払われる刃は容赦なくオヤジに傷を残す。
「オヤジ!!やめてェ!」
見ていられなくなり向こう側へ飛び移ろうとすると後一歩のところで襟を掴まれて止められた。
「マルコ……!」
あたしを止めたマルコはこちらを見る事なくオヤジの方をきつく睨んでいる。何発も放たれる銃弾の先を反射的に見てしまう目を強く瞑って、聞こえてくる音を遮るように耳を覆った。
「お前じゃねェんだ……」
銃声が止み周りからの戦う音以外聞こえなくなったとき、静かな声が聞こえてきた。オヤジの声だと分かって手を下げて目を開けた。動かないもののオヤジはまだ生きていた。
「ロジャーが待ってる男は……少なくともティーチ、お前じゃねェ。ロジャーの意志を継ぐ者達がいるように、いずれエースの意志を継ぐ者も現れる」
「……!」
「……血縁を絶てど、あいつらの炎が消えることはねェ。……そうやって遠い昔から脈々と受け継がれてきた。そして未来……いつの日かその数百年分の歴史を全て背負って、この世界に戦いを挑む者が現れる……!センゴク。お前達世界政府は……いつか来る、その世界中を巻き込む程の巨大な戦いを恐れている!」
ゆっくりながらもしっかりと聞こえてくるオヤジの言葉は何かについて話しているようだった。最初は分からなかったけれど、聞いていくうちにぼんやりと浮かびあがってきた。
「興味はねェが……。あの宝を誰かが見つけたとき、世界はひっくり返るのさ……!誰かが見つけ出すその日は必ず来る。
きっとスクープを追い求めている人にとっては大きなニュースになるはずだろうけど、あたしにはそれを聞いて心を踊らせることが出来ない。ルフィが聞いたら目を輝かせて笑うかな。それとも言うんじゃねェってオヤジに怒るかな。