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島にオヤジとエースの墓を立てた日からリリナは毎日毎日、墓へ向かっては泣く日々を送っていた。最初は泣き疲れてそのまま眠ってしまっていた、すぐにそれは無くなった。けれど自分で墓から離れようとはしないリリナを誰かが迎えに行かないと帰って来ない。痛々しくて見ていられない。

だが、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。今後のこともあるし、前を向かなきゃいけない。無理矢理この島を離れようとも思ったがそれだとあいつ自身区切りをつけることが出来ないだろうとこうして見守っているが、一人ではどうにもならなそうだ。


「なァリリナ。……エースはお前が一人でも大丈夫だと思ったから、悔いはねェって最期まで笑ってたんだ。オヤジも、強くなって帰ってきたお前を見られて嬉しそうにしてたよい。……おれも、他の奴らも悔しい思いをした。やらなきゃならねェことも出来た。……。お前も、ずっとこうしていられないだろ」

そう言うと墓を見ていた視線がおれへ向けられる。アホな奴だからおれが言わんとしていることを理解できていない顔をしてる。それに応えるように、おれは重い口を開いた。

「オヤジがいなくなった今、おれらはまずこの先のことを考えなくちゃならねェんだ。それと、やらなきゃならねェことに、お前を付き合わす気はない。お前は、お前で行くところがあんだろ」
「…………」
「エースの弟が、お前を一味に引き入れたいって……。オヤジは頷かなかったが、今どっちに行くかはお前が決めることだ」

おれが言葉を続けるうちに俯いて顔が見えなくなる。辛い選択をさせることになるだろうが、エースの弟がオヤジに直々に勧誘してきたんだハッキリさせないといけない。お前がおれらと一緒にいたいと思うならちゃんと歓迎する。お前がエースの弟の船へ行くというなら送り出してやる。どっちを選んでも、文句なんてない。


「そういやエースの弟がまたなんかやったらしい」

相変わらず無言のままのリリナに届いたばかりの新聞を投げ渡した。大きく記事に取り上げられているエースの弟は軍艦を奪って海軍本部に出向き、包帯を巻いた体で建てられた鐘を16点鐘し、更に黙祷を捧げた。あの戦争のすぐ後にやらかすなんてあいつは何を考えてるんだろう。
何かあるのかと記事を隅から隅まで読んでみたが、あいつがこんなことをした真意は掴めなかった。もしかしたらリリナには分かるかもしれない。

「……。白ひげ海賊団のクルーとして……ちゃんと、落とし前はつける」

静かに向けられた悲しみでいっぱいだったはずの目は鋭くなっておれを見ていた。予想外のところを指摘され言葉が詰まった。
おれとしてはリリナが口を開くたびに肝を冷やす思いをする覚悟で来ている。リリナがいる場所はもう、おれらのところじゃなくて麦わらの一味だ。だから、傷を負わせることなく渡してやろうと思っていたんだ。

「その先はないぞ」
「分かってる」

正直嬉しかった。おれらと気持ちを同じくしていることが。だがその反面、今度の戦いで次はリリナを失うことになるんじゃないかという不安とその先の絶望感が頭を過ぎる。表には出さないでいられてもエースが死んだ傷は癒えないまま残っている。

同じ過ちはしない。目の前の仲間くらい守ってみせる。