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「……あたし、みんなと離れて麦わらの一味に加わることにした。エースの、やり残したことをあたしがやる」

やっとの思いで平穏を取り戻した残された白ひげ海賊団のみんなに、あたしは別れを切りだした。夕飯の後、みんなが部屋に戻る前に立ちあがって勢いのまま言うと、しんと静まり返ってしまって雰囲気を壊した罪悪感に襲われた。


たくさん考えた結果。気持ちが揺らぐ前に思いきって言ってしまおうと決めた。だけどみんなの顔を見ることができなくて、顔をあげられない。

「決まったか」
「エースの弟にゃ嫁にくれって言われたしな。譲らねェわけにもいかねェよなァ」

軽く笑ってあの日のことを話せるほどになったのは時間が経過したおかげでしかない。自分達で整理しようと動いてもどうにもならなくて悔しい思いはただ増すだけだった。

「ルフィのお嫁さんになるわけじゃないよ」
「んなの知ってるさ」
「でもお前、女らしくなって帰ってきたから男でも出来たのかと思ったぜ」
「エース一筋じゃなかったのかよ」
「そりゃお前らが勝手にからかってただけだよい」

あたしはここまで毎日ずっと考えてたのに。エースがいないからみんなと別れるなんてことしたくなかったし、みんなとずっと一緒にいたい。……でも麦わらのみんなとこのまま会えなくなるのも嫌だ。きっとみんな生きてシャボンディでまた会えると思うから。
でもここのみんな達とお別れなんてしたくない。……どうやっても決められないと思ってた。どっちかに決めることがこんなに辛いなんて、思いもしなかった。

「みんな寂しくないの?」
「……寂しい?なにも一生の別れってわけじゃねェし、お前がやること終わったらまた会えるだろ」

あたしは結構頑張って言ったのに、軽く返されたことに拍子抜けした。少なからず、引き止められると思っていた。自分だけあんなに必死に考えてたんだと思うと取り残された気分で寂しい。

「なァ、リリナ。オヤジも言ってたろ。この海は広いが繋がってんだ。会おうと思えば必ず会える。だから、お前は先へ進め。そんで全てが終わった後にでも話を聞かせてくれよ。なにかあったら、助けに行くさ」

ビスタがにこやかに諭してくれた。その周りのみんなも揃って笑顔を向けてくれる。きっと、ここから白ひげ海賊団はなくなってみんなバラバラの道を選んでいくことになるんだ。

「おれ達は、お前の家族だ。それはこれからも変わらねェよい」

みんなから離れて違う一味に加わるというこんなあたしに優しい言葉をくれるこの人達に、家族と言ってもらえることがたまらなく嬉しくて出会えて良かったと改めて感じた。ありがとう、と感謝の気持ちでいっぱい。


「あたしに、戦い方を教えて!麦わらの一味に加わるために、力をつけたい。まだ傷治ってないけど……お願いします!」

深く頭を下げるとまた静かになってしまった。重ね重ねのお願いだからだめなのかな、と少しだけ顔をあげると困ったような顔をしていた。

「……ダメ?」
「だ、ダメじゃねェよ!なァ!?」
「お、おう!知らねェけど今なんかビスタが涙めっ
「おい!隠すつもりが逆にバラそうとするな!」
「リリナ、おれがちゃんと稽古つけてやるからな。心配するな」

急に慌てだして、話しているラクヨウはヘッドロックをきめられてそれを阻止された。マルコとハルタはあたしに隠すようにビスタに背中を向けさせた。
不自然な行動に首を傾げる。ビスタがなんだか泣いてるような声に聞こえたのは気のせいかな?

「と、とにかくお前のことはちゃんとおれらが見てやるからよい!あーお前を鍛えるとなると本腰入れねェとなァ!そうだ恥ずかしくないように世界情勢も教えてやらねェと!」

いつも落ち着いてるマルコでさえ話し方がわざとらしくて演技臭い。もしかしたらこの人達なにかを隠してるのかもしれない。
目を細めるとみんな揃ってギクリ、といっとようなリアクションをとった。一人だけ知らないことが悔しいけど、ここはみんなの広い心に免じてこれ以上気にしないことにした。


ルフィ。あの新聞から一年経ったけどあと一年、十分に修行をつけてシャボンディに行くから。あたしはルフィがオヤジに言ってくれた言葉を信じて行くから、もう一度仲間にしてください。