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エースが見えなくなるまでずっと船べりに掴まって見てた。今になって無理矢理にでもついて行けばよかったと思ってジワリと涙が浮かんできた。でもそれは邪魔になってしまうだろうし、やっぱりストライカーに二人で乗って海を渡るのは無理だ。溢れそうになる涙を抑えるように大きく息を吸って吐いてうんと背伸びをした。あたしはやることあるし、そっちに集中しなくちゃ。


「リリナちゅわーん!これ着て!」
「なにこれ?」

白い何かを両手で掲げながらくるくると器用に回転しつつ、あたしの方へやってきたサンジくんはピタリと動きを止めると、持っていたものを誇らしげにあたしに見せた。

「俺たちが海賊だってカモフラージュするための服さ。リリナちゃんに似合うような色を選んできたんだぜ!」
「ありがとう!」

ニヤニヤしているサンジくんから衣装を受け取って、さっそく部屋に入ってもらった服を広げると、白い生地に綺麗な品のある黄色の刺繍が施されている。渋々着替えると肩もお腹も隠すものがないし、何より胸の大半が晒されててスースーする。これは落ち着かない。せめてもの救いである下半身は足首の辺りまでの長いスカートのようだけど、これじゃあ動きづらい。

「リリナどうー?」
「……、うーん」

これで人前に出る勇気はない。本当に落ち着かないし、どうしたものかと悩んでいるとナミが遠慮なく部屋の中へ入ってきた。

「なんだ似合ってるじゃない」
「ほんと?おかしくない?」

念を押すように、もう一回聞くと大丈夫よって親指と人差し指でマルを作って言ってくれた。ナミが言ってくれるならちょっとは気持ちが楽になる。と、思ったけれど。

「さっ!サンジくんに見せましょ!」
「え!いいよ見せなくて!」
「ダメよ。用意してくれたのサンジくんなんだから」

ナミは外に出ようとしないあたしの腕を掴んで引っ張る力に抵抗して後ろに体重をかけるけど、結局引きずられながら甲板に出る羽目になった。すぐに大きい袋を抱えたサンジくんとチョッパーがいて、サンジくんは抱えてた袋を落として固まってしまった。

「おおー似合ってるぞリリナ!」
「ほ、ほんと?」

大人っぽくなったと褒めてもらって気を良くしたあたしはチョッパーを抱えて頬ずりをした。なんだかいつもより気持ち良さが倍増してる気がする。

「あんた髪おろしてたら暑苦しんじゃないの?やってあげるからおいで」

ナミがいつも無造作になってる髪を三つ編みにしてくれたから、すっきりしてそれだけで涼しくなった。

「踊り子っぽくなった!」

一部始終を見てたチョッパーが嬉しそうに言ってくれたから調子に乗ってくるっと一回転すると、ぼーっとしてたサンジくんが鼻から血を流しててぎょっとした。

「どう?サンジくん。リリナはお気に召したかしら?」
「そりゃあもう似合いすぎて目が離せねェ」

そう言うサンジくんは本当にあたしを見つめたまま顔をそらそうとしない。ちょっと恐いから早く普通に動いてほしい。

「踊り子バンザイ!」

嬉しそうにくるくる回ってはしゃぎだしたサンジくん。こんなにみんなに褒めてもらえるならエースにも見てもらいたかったなあ、なんて思ったりもする。