021

「サンジくんどうかしたの?」
「え?どうって?」

食材の買い出しと海賊弁当の支度を済ませて後片付けをしてたら、テーブルで本を読んでいたナミさんが急に口を開いて聞いてきた。

「なんか最近調子悪そうね」
「そんな事はねェさ」
「じゃあ悩みごと?」

読んでいた本をぱたりと閉じて頬杖をついておれを見て怪しく口角をあげて聞いてくる姿に、おれのハートは爆発寸前だ。いやもう爆発してるか。

「ん?んー、これといって悩んでる事もねェしなあ」
「ほんとかしら?何かありそうな顔してるけど。……リリナのこととか」
「リリナちゃん?」

この話の流れでリリナちゃんの話を出されて、心臓が嫌に反応した。

「なーんか最近リリナのこと気にしてるでしょ?ドラム島の後から変よサンジくん」
「え!?そりゃリリナちゃんは可愛いプリンセスだしな。見てないと危なっかしいおてんば具合だけど……」
「……呆れた。サンジくんって意外と鈍いのね」

話が理解できてないおれに、言葉通り飽きれたように口を尖らせたナミさんに小首を傾げる。久しぶりにナミさんから話しかけてくれたのに噛みあわないなんて、不甲斐ない。

「鈍いって、そりゃどういう意味?」
「いっつもリリナのこと目で追って、恋でもしてるのかと思ってた」
「おれはレディ達にはいっつも恋してるさ。それにナミさんやビビちゃんのことも」
「バカねー、本気でってことよ。私を見る目とリリナを見る目じゃ違うわよ?」

そんなはずはない。おれはちゃんと他のレディ達のことだって平等に気にかけてるのにナミさんとリリナちゃんとで見る目が違うだと。

「私が寝込んでる間何があったのか気になってたのよ。リリナがいないときは探してたわよ?ナノハナでも。気付いてないなんて相当なんじゃないの?」
「おれが?」
「私はいいと思うわよー?抜けてるリリナにはサンジくんくらいしっかりしてる人が必要だと思うし。そっちのほうが私達も助かるしね」

頬杖を付く手を変えて口角をあげてまた笑うナミさんにドキドキし始めた。だがナミさんを見てるけどナミさんにじゃないような感じだ。確かにリリナちゃんは可愛くて可憐でおちゃめさんで放っておけなくて意外と心配性で笑った顔がクソ可愛いし、瞳がすっげェ綺麗でどんな表情でも魅力的だが……。

「サンジくーん!喉乾いた!」
「おれもおっ!」
「っはいはい、いま作りますよ」

リリナちゃんのことを考えているとちょうどキッチンに駆けこんで来てまたドキリとした。そこで何故かナミさんに目が行っちまって、目が合うとこの状況を楽しんでるかの様に笑ったもんだから慌てて手元に目線を戻す。余計なゴムが一緒だがリリナちゃんはおれの作業場に一番近いイスに座って興味津々だというようにこっちを見てる。


おれが1人のレディだけを好きになるなんてあるのか?いやバラティエにいた時もそりゃー何回か綺麗なレディが来たときは目を奪われたことあるし、恋だって何回もしてきたんだ。

悶々と考えながらドリンクを作って3人分のグラスに注いでパインをそれぞれ淵に添えて出す。

「ピーチとパインのスムージーです。どうぞ」
「あら、ありがと」

グラスに手を添えてドリンクを飲むリリナちゃんはルフィと美味いって話し始めた。と、思ったらおれに顔を向けて首をかしげてどうしたのかと聞いてきたのがクソ可愛かった。おれは立ってるからリリナちゃんは自然と上目遣いになるわけで、それが余計に引き立たせている。

「あたしの顔に何か付いてる?」
「いや、なにも。相変わらずかわいい顔してるが、それがどうかしたのか?」
「どうかしたっていうか、サンジくんあたしのことずっと見てたから」

リリナちゃんは可愛いって言われると恥ずかしがって目線を外すんだが、それも可愛い。今回も例外はなくその仕草にニヤついていたら続いた言葉に固まった。ナミさんに言われたばっかりの事だ。リリナちゃんが気づくほどって事は相当見てたことになる。無意識ってもんは怖いな。

「なんだ?リリナの顔変なのか?」
「えっ、そうなの!?さっき転んだとき擦りむいたかな」

ちょっとの沈黙を破るように口を開いたルフィは隣に座ってるリリナちゃんの顔をのぞき込むように見るとリリナちゃんは確認するように両手で顔を触った。それを見てたナミさんが大丈夫だってフォローすると安心したようにひと息ついてストローに口をつけた。

「しっかしさっきのお前すげェ面白かったな!」
「やめてよーもう」

落ち着いてドリンクを飲んでたリリナちゃんにルフィが横でさっきの事を思い出して笑うから、口を尖らせた。

「おいクソゴム!リリナちゃんに危ない事させたんじゃねェだろうな!」
「おれじゃねェよ!リリナが勝手にシーツかぶったんだ!」
「ケガしちまってたらどうすんだ!リリナちゃんの大事な玉の肌が台無しになっちまうだろうが!」
「ごめんねサンジくん。気をつけるからあんまりルフィ怒らないで……」

おれがルフィに食ってかかると間のリリナちゃんは眉尻を下げて謝ってきた。

「……リリナちゃんに謝られたらもう何も言えねェよ」

リリナちゃんの困った顔をみたら怒りが無くなって頬を掻いた。そんなおれを見てにっこり笑ったリリナちゃんの向かいでナミさんは、さっきみたいに笑っていた。