片思いさんは思う

アラバスタを過ぎたあたり 。



リリナちゃんと出会ってからもうどれくらい経ったもんか。陸に下りてるといっても海の上にいることの方が多いから感覚なんてねェし。バラティエにいた時は人の出入りが多かったから失われる事はなかったが、今じゃニュース・クーから届く新聞が頼みの綱だ。

初めてリリナちゃんをこの目で見たときにおれのレディセンサーはビビッと来た。小さな島にぽつりとあの小さくて華奢な体と手を目一杯大きく振っていた姿に目を奪われた。今思えばナミさんに言われるまで気づかなかっただけであの時点でもう心さえ奪われていたのかもしれない。

リリナちゃんにはナミさんの美しいボディラインやロビンちゃんから漂うディープな大人の雰囲気はないものの、あの世界最強と呼ばれる白ひげ海賊団の一員だったのかと疑ってしまうような無垢さだからこその笑顔とどこか抜けた部分は他のレディにはない彼女特有のものだろう。

そんな彼女にどうアタックしようかというのが日頃の悩み。できる事なら遊んでいたいと楽観的なところのあるリリナちゃんはだいたいルフィやウソップ、チョッパーと一緒に遊んでいる。あいつらと遊んでいる時のリリナちゃんは心底楽しそうだ。時にはナミさんと本を読んでいたりロビンちゃんとお茶を飲みながら談笑していたり、気に食わねェがゾロの奴のトレーニングを見守ったり手伝ったり並んで一緒に鍛えてたりする。他の野郎と一緒にいて笑っているリリナちゃんを見ると無性にその場から連れ去りたい気持ちに駆られちまうんだが、そんな事したらきっとリリナちゃんから笑顔は無くなるだろうから出きるはずねェ。何よりもリリナちゃんの気持ちを優先しねェと……。

そりゃ正直なところ今すぐにでも抱きしめて好きだと言って唇さえ奪ってしまいたい。だがそんな乱暴に扱えばリリナちゃんはおれを避けちまいそうだから。それだけは嫌だ。こんな臆病で弱気になる自分に嫌気が差すが自分でどう感じていてもリリナちゃんに嫌われなければいいと、思っちまう。それくらいリリナちゃんの存在はデカくて、おれは彼女の虜だ。

「サンジくーん、おやつ食べに来ましたよ!」
「……いらっしゃいませ、レディ。あなたのために作った本日のリラックスおやつはクリームとフルーツで彩るワッフルでございます」

リリナちゃんの好きな甘めのクリームと酸味のあるフルーツをたくさん乗せたワッフルを出すと嬉しそうに声を漏らすリリナちゃんの表情だけで今は満足できる。だから今はまだ、おれのこの気持ちには気づかなくていい。君の意識がおれに向いてくれるまではこの気持ちを密かに温めることにするよ。