デート

ウォーターセブンでの話 。


水の都ウォーターセブンに着いて船の上にゾロと2人でいて、クソ気持ち悪い思いをしてたら救いの女神リリナちゃんが現れたから、すかさずデートに誘った。おれから誘ったくせにまさかオッケーもらえるとは思ってなかったから驚いた。惚けて反応が遅れたおれにもリリナちゃんは笑いかけてくれたから本当に女神なんだと思うんだ。


「リリナちゃん、見たい店あったら遠慮なく入ってってくれていいからな」
「うん。サンジくんもね」

街中を歩き始めるとリリナちゃんの顔が右に左に動いて止まる気配がない。そんな事なら片っ端から店に入ってった方がいいんじゃないかと思えるくらいだ。

繁華街を抜けていくと客の呼び込みがない静かな通りは服屋やアクセサリー屋が立ち並ぶ小洒落た通りに入った。その光景に一層目を輝かせるリリナちゃんは一番近くにあったアクセサリー屋に入ってった。残されたおれもその後について行く。そんな時にふと考えた。リリナちゃんがおれの手を引いて歩いていたらどれだけ幸せだったかと。きっとリリナちゃんの事だから早く店を見たくておれの手を引っ張るんだろうな。いや手を繋ぐより、おれの腕を掴んでくれてた方がおれの好みだ。普段はおれがエスコートする立場だからな。

「サンジくーん?」

リリナちゃんは手を繋ぐ方が好きだろうかと考えてたら店の中から顔を出しているリリナちゃんに呼ばれた。どうやら長い間一人で考え込んじまったらしい。急かされるままに店の中に入ると思ったより品数が少なく、その代わり一つ一つが綺麗に飾られている。なかなか雰囲気のいい店だ。

「このお店オーダーメイド出来るんだって。どれも可愛いよねぇ」

言われてみるとカウンターのところで何やら店主が作業をしている。ちょうどオーダーを受けたものを作ってる最中のようだ。

なるほど、好みのものを作ってもらえるならプレゼントに最適だな。それならおれもリリナちゃんにプレゼントしようか。何なら喜んでもらえんのかな。リリナちゃんはピアスはつけないしネックレスもしない。ブレスレットもしてない。リングもしてない。……これはなかなか決められそうにないな。
リリナちゃんに似合うものを選んでも、リリナちゃんが気に入ってくれないかもしれない。そういえば食いもの以外の好みがまったく分からねェ。いや待て諦めるな消去法で考えろ。

まずリリナちゃんの耳にピアスホールはあいてないからピアスはなしだ。あんまり胸元の開いた服は着ねェからネックレスもなし。リングはリリナちゃんの指のサイズ知らねェから作れねェ。それに最初は結婚指輪だって決めてるしな。そうなったらブレスレットだ。よし、リリナちゃんの好みっぽいものを作ってやるぜ!

「行かないってば!」
「何でそんなにつれないんだよ」
「あたし一人じゃないの!」
「今は暇そうにしてたじゃん」
「そんな事ないからあっち行って!」

なんだなんだ。外からリリナちゃんの声がする。また考え込んでいたようだ。様子を伺うように店の陰からこっそり顔を覗かせるとリリナちゃんの背中が見えて、その奥にデカい男が2人リリナちゃんの前を塞ぐように立っていた。

「もうしつこいなぁ。あっちの通りに綺麗なお姉さんたくさんいたよ」
「生憎おれらは君みたいな子の方が好みなんだよな」
「………」

リリナちゃんがクソ野郎共に絡まれてるってのに何故か体が動かないのは、もう少しピンチになったとこで出て行こうとするおれの強欲なところが勝っているからだ。そんな時、一人の男がリリナちゃんの肩に手を置いた。その事実に我慢ならなくなってやっと止めに入ろうと店を出た。

「しつっこいよ!」

おれが止めに入る前にリリナちゃんが肩におかれた手を払った瞬間、男二人の体が浮いてそのまま痛そうな音を立てて顔から地面に落っこちた。ロビンちゃんやナミさんなら、よほどの事がない限り構わずにあんな野郎共無視してその場から離れるだろうがその場で振り払って一撃を加えるとは。血の気が多いのは海賊のトップに立つ白ひげ海賊団の連中といたせいなのかもしれねェな。おれは何にも知らないが。

「あっサンジくん!」

今の一部始終を目の当たりにして虚しく固まっていたおれを見つけたリリナちゃんが、振り返ってキラッキラの笑顔を向けてくれた。クソ可愛いけど白目むいて足元に転がってる奴らが何とも言えない。とにかく邪魔だ。

あんなに可愛くて華奢に見えて、自分の体よりずっとデカい野郎共を一瞬で捻り潰しちまうリリナちゃんも魅力的だ。さすがおれの惚れたレディ!