どこかの船の家族たち

ウォーターセブンの後の話 。


いつものようにニュース・クーが届けてくれた新聞を広げると何枚もの紙が床に落ちて散らばった。

「……ん?」

拾いあげるとこんな奴にも懸賞金がかかるのかと思うほど悪さをしなさそうなたぬきが大きく写っていた。他にも妙な面をかぶった奴と女二人、骨のありそうな男。一枚だけ下手な似顔絵のやつもある。それからこちらに屈託のない笑顔を向ける男のが一枚。これには見覚えがあった。前にエースの奴が嬉しそうに見せてくれた、あいつの弟の手配書だ。それからおれらの妹であるリリナの手配書。

「何かやらかしたのか?」

新聞の大きい見出しと写真が載っている一面を見ると、エニエス・ロビーを壊滅状態に追い込んだ一味の事が細かく書かれていた。CP9を倒しバスターコールから逃げ切ったと。記事を読み進めていくとリリナの事も少しだけ書かれていた。アラバスタのときもそうだったが何故あいつがこの一味と共にいるのかと謎に包まれているらしい。理由を知ってるこっちからすれば笑いもんだ。

「理由はどうであれエニエス・ロビーに突っ込んで行くとは……兄弟揃って向こう見ずな奴だよい」

手配書を見る限りバラエティに富んだ一味らしい。ペットまで連れて歩いてるとは。


そうだ、この事をオヤジに知らせてやらねェと。あいつの懸賞金もあがった事だし、無事にこの海をのぼってきてるならオヤジも安心するだろ。

「オヤジ、今日の新聞にリリナの事が載ってたぜ」
「あ?そうかあいつは元気にやってるのか。グラララ、そりゃ良かった」
「懸賞金もあがってるよい」

リリナの手配書をオヤジに見せると目尻を下げて慈愛の眼差しで見つめている姿はまさに子を思う親の顔だ。そんなときにどこから話を聞きつけたのか、他の奴らもやってきた。

「リリナがどうしたって?」
「今度はエニエス・ロビーに喧嘩売ったらしい」
「へー、相変わらずめんどくせェ事してんなァ」
「あーリリナの手配書こんなだったなァ。このしまりのない顔!」
「まだエースの弟と一緒にいんのか」

ここに本人がいたら怒られているであろうと思うと少し寂しい気もするが、着々とのぼってきてるなら心配する事もないだろう。そう簡単には戻って来られないだろうけどな。

「あいつ夜な夜な泣いてたりしねェかな」
「何日経ってると思ってんだよお前。さすがに泣きはしないだろ」
「予想を覆すのがあいつだろ」
「ホームシックになってんじゃねぇか?」

こいつらは。本当に本人がいないからって好き放題言って、リリナが帰って来たら告げ口してやる。

「素直じゃねェな、お前ら。帰って来てほしいんなら素直に言やァいいだろい」
「なっ!そんな事っ、思ってねェよ!そう思ってんのはマルコだけなんじゃねェのか!?」
「あ?……あたり前だろ。おれのたった一人の妹だろい」
「……は、はあ……」
「んな心配しなくなって、また笑って帰ってくらァ」

オヤジにきっぱりそう言われて惚けた顔をする奴をそのままにして構わないでいると、離れたところでフォローを入れた張本人が穏やかに笑った。

オヤジにとってもリリナは娘になる。傘下の中には何人も女はいるが同じ仲間としてモビーに乗ってるのはリリナだけだから、口にはしないが特別可愛がってるはずだ。なんてったってオヤジが親の顔をしてんだからな。

きっとおれらがいるところのもっと下ったあたりでエースの弟とやらと、その仲間達に手間をかけ合いながら上ってきてるんだろう。今頃なにしてんだか。泣いてはないだろうけど、おれらの事を思い出して早く戻りたいって思ってると良いが。