「ねえねえ、サンジ」
「……ん?」
キッチンに入ってサンジくんを呼ぶと笑顔のまま固まった。それから目を何回も瞬きをして首を傾げた。
「喉が渇いたの。アイスティーが飲みたいな」
気にしない素振りでカウンターの椅子に座って笑いかけた。向こう側を覗くと夕ご飯の仕込みをしてたのかお肉が綺麗に捌かれているところだった。
「シュークリームあるよ。食べる?」
「うんっ!」
ここ最近アイスティーの美味しさに気付いてそれを飲みにキッチンに通うようになった。そしてサンジくんは合わせるように何か甘いものを用意してくれる。この前食べたいとリクエストしたものを今日は用意してくれたみたい。まったり出来るこの空間が幸せだ。
「リリナちゃん」
「ん?」
「今日は誰と遊んだの?」
「ルフィとウソップとチョッパーと釣りしてチャンピオンごっこした!」
あとフランキーが海の中の魚を見せてくれたと付け足すとどんな魚がいた?って聞いてくれて、同時に仕込みを再開するために手も動き始めた。話聞きながら手も動かせるなんてサンジくんは器用な人だと思う。
「海の水と同じ色した魚とか、骨だけみたいな模様した魚とか。唇がすごい魚もいたよ。あとでサンジも見て!フランキーが可愛い魚捕まえてくれたんだ」
規則正しく聞こえてきた包丁の音が止まるとサンジくんはまたあたしを見つめた。そして包丁を置いた。
「リリナちゃん?」
「ん?」
グラスの中の氷が綺麗で見ながらシュークリームを食べようとするとまた名前を呼ばれた。カウンターの奥にいるもんだと思ってたのにいつの間にかすぐ隣に座っていた。驚いてシュークリームを手からこぼしてしまったけど、サンジくんが受け止めてくれて台無しにならずに済んだ。
あたしを見つめたまま動かないサンジくんが少し怖く見えてきた。もしかしたら怒ってるのかもしれない。
「わざと?」
「わ、わざとじゃないよ。サンジが隣にいたの気付かなくてびっくりしちゃって……。シュークリーム落としてごめんなさい」
「怒ってないよ。それにそっちじゃない」
困ってる顔も可愛いって言うサンジくんは助けたシュークリームをあたしの目の前に運んだ。食べていいんだと理解して素直に口を開ければ半分くらい入り込んできた。あたしの口に入りきらなかった残りはサンジくんが食べてしまった。
「リリナちゃん仕様だから少し甘いな」
「ねえサンジ。何に怒ってるの?」
「いや、分かったよ。だけどリリナちゃんの思惑には乗らねェ」
肩があたるくらい距離を縮めてきたサンジくんは口角をあげて楽しそうに笑っている。これは怒ってなさそうだ。だとしたら何の話をしてるんだろうか。
「なァリリナちゃん。もう一回」
「え?」
「呼んで、おれの事」
「…………」
この事かと気付いたときにはサンジくんの顔が近すぎて恥ずかしいのと、触れてる肩がムズムズしてどうしようもなくて今すぐ逃げ出したい。
それに今更だけど意識すると呼びにくい。本人にリクエストもらうなんて思ってもみなかった。ああまた心臓がうるさい。
「言ってくれねェの?」
「………、」
口を開く事は出来るのに声を出す事が出来ない。さっきまではあんなにスムーズに言えてたのに。
「……、サンジ……」
どうにか絞り出してみると急にサンジくんのほっぺが赤くなった。と思ったら距離をとって腕で顔の半分を隠した。
「死ぬかと思った!なんつー可愛さだよリリナちゃん」
さっきまでの余裕さが無くなったのかカウンターに顔を伏せて騒ぎ出した。一人で自問自答しているサンジくんはどうやら顔を見られたくないらしい。
サンジくんだってさっきまでドキドキさせてたくせに自分だけ隠れるなんて卑怯だ。