022

船に乗ってナノハナから移動して下りたエルマルという町は砂に埋れてて人の気配がなかった。町にはいる前にクンフージュゴンに絡まれたけど食糧をあげて手を引いてもらって、やっと町の中に入れた。

ビビ達が少し難しそうな話をしているのを、少し離れて聞きながら町の景色を見ていると近くを歩いてたルフィが砂の中から、人の頭の骨を掘りあてたのを見て背筋が凍って、チョッパーと先を歩いてるみんなのほうへ早足で逃げてきた。

「さっきの港町は大丈夫だったのか?」
「ナノハナは隣町のカトレアというオアシスから水を供給してるから無事なの。降雨ゼロなんてアラバスタでも過去数千年あり得なかった大事件。だけどそんな中一ヶ所だけいつもより多く雨の降る土地があったの。それが首都アルバーナ、王の住む宮殿のある町。人々はそれを王の奇跡と呼んだ。あの日事件が起きるまではね」

それからビビはそのあの日の事を話してくれた。ナノハナの町に大きい袋を積んだ荷車の車輪が壊れて積んでいた袋が破けて中から緑色の粉が出てきて、それがダンスパウダーだったんだって。

「ダンスパウダーが?」
「なんだ知ってんのか?」
「……別名は雨を呼ぶ粉」
「雨を呼ぶ粉!?」
「昔、どこかの雨の降らない国の研究者が造り出した代物でね、その粉から霧状の煙を発生させて空に立ち上がらせる事で、空にある氷点下の雲の氷粒の成長をうながして降水させるの。つまり人工的に雨を降らす事ができる粉。それがダンスパウダーよ」

難しい話は苦手だから詳しい事は分からない。とりあえず人工的に雨を降らせる粉なんだって事は分かったけど。

「ん?だったらこの国にはうってつけの粉じゃねェか」
「最初はね。ダンスパウダーを開発した国もその名の通り踊るように喜んだと云うわ。だけど、それには大きな落とし穴があったの。風下にある隣国の干ばつ。……わかる?人工降雨はつまりまだ雨を降らすまでに至らない雲を成長させ雨を落とすというものだから……」
「そうか……!放っときゃ隣国に自然に降るハズだった雨さえも奪っちまってたってわけかっ!」
「そう。それに気づいたその国はついに戦争を始め、たくさんの命を奪う結果になった。以来世界政府ではダンスパウダー製造・所持を世界的に禁止してるの」
「使い方1つで幸せも悪魔も呼んじまう粉か……」

さらに続いた難しい話が理解できてないのはあたしだけみたいで、ルフィもけろっとした顔だった。幸せも悪魔も呼んじゃう粉なんだって事は分かったけど。

「そのダンスパウダーが大量に港町に運び込まれた時、国では王の住む町以外は全く雨が降らないという異常気候……!」
「王を疑うのが普通だよな。その粉で国中の雨を奪ってやがるんだと……」
「なんだビビ!そりゃお前の父ちゃんが悪ィぞ!」
「バカ!ハメられたんだよ!ビビちゃんのお父さまがそんなことナサルか!」
「……今思えばその時すでにクロコダイルの壮大な作戦は始まっていたの。当然ちちにはさっぱり身に憶えのない事件だったけど、たたみかける様に知らぬ間に宮殿には大量のダンスパウダーが運び込まれていた」

傍らにぽつりとあった人の頭の骨をビビは大事そうに両手で拾いあげておでこにくっ付けた。

「全てはクロコダイルが仕組んだ罠……!彼の思惑通り反乱は起きた!!町が枯れ、人が飢えてその怒りを背負った反乱軍が無実の国と戦い殺し合う!国の平和も王家の信頼も、雨も!町も、そして人の命までも奪ってこの国を狂わせた張本人がクロコダイルなの!……なぜあいつにそんなことする権利があるの!?……私はあの男を許さないっ!!」

強く言ったビビの言葉が強く刺さる。ほんとにその通りだけど、クロコダイルは罪のない人の苦しむ姿を見て笑うような奴だから、こんな事して平気でいられるんだ。その笑った顔がすぐに想像できる。あいつは嫌いだ。クロコダイルのことを考えて苛立った頭を落ち着かせるように静かに深呼吸をすると遠くで建物が崩れて、そこからルフィとウソップとサンジくんが歩いてきた。

「……さっさと先へ進もう。ウズウズしてきた」

ルフィは感情的だから理解できるし、ウソップはドルトンの事があったから、怖がりだけど心の中ではちゃんと燃えるものがあるの知ってたけど、その2人にサンジくんが混ざってるのに少し驚いた。こういう事には冷静だと思ってた。まだたった数日しか一緒にいないから、まだまだ分からない事だらけだけどね。