028

7時を回った。ビビと一緒に入ってきた女の人がそう言うと、どこからか低い地響きのような音が聞こえ始めて、それを聞いたのかクロコダイルが大口あけて笑いだした。

「どうだ気に入ったかねミス・ウェンズデー。君も中ほどに参加していた作戦が今花開いた。耳をすませばアラバスタの唸り声が聞こえてきそうだ!」

作戦が無事に始まったことに対して嬉しいのか分からないけど、クロコダイルはさっきよりも少し機嫌がいいみたい。ムカつくけど。

「……そして心にみんなこう思っているのさ。おれ達がアラバスタを守るんだ……!アラバスタを守るんだ!アラバスタを守るんだ!」
「やめて!!なんて非道いことを!」
「ハハハハ!泣かせるじゃねェか!国を想う気持ちが国を滅ぼすんだ!」
「……外道って言葉はこいつにぴったりだな」
「あの野郎ーっ!この檻さえなけりゃ……!」

ほとんどあいつの思い通りに進んでる。あのしたり顔がすごくムカつくけど今クロコダイルがいる前で動いたらあいつと戦わなきゃいけないし、そんなことしてる間にアラバスタの争いはもっと激しくなっちゃうし、ここを抜け出すならあいつがいなくなってからがいいはず。あたしだってあの顔ぶん殴ってやりたいけど、でも国王軍の人も反乱軍の人もこんなやつのせいで傷つき合わせたくない。ビビには悪いけど、もう少し辛抱しなきゃ。

「ふふ、思えばここへ漕ぎ着けるまでに数々の苦労をした……!社員集めに始まりダンスパウダー製造に必要な銀を買うための資金集め。滅びかけた町を煽る破壊工作。社員を使った国王軍濫行の演技指導、じわじわと溜まりゆく国のフラストレーション崩れゆく王への信頼。なぜおれがここまでしてこの国を手に入れたいか分かるか。ミス・ウェンズデー」
「あんたの腐った頭の中なんてわかるもんか!!」
「ハッ……。口のわりィ王女だな」

椅子に縛られてたビビが座らされていた椅子ごと床に倒れた。クロコダイルに何かされたんじゃないかと少しびっくりしたけれど、ビビが体を動かしてもがいてるみたいだ。

「オイオイ、どうした何をする気だミス・ウェンズデー」
「止めるのよ!まだ間に合う!ここから東へまっすぐアルバーナへ向かえば!反乱軍よりも早くアルバーナへ回り込めば……!まだ反乱軍を止められる可能性はある!」
「……ほぉ。奇遇だな、オレ達もちょうどこれからアルバーナへ行くところさ。てめェの親父に一つだけ質問をしにな」
「一体、これ以上父に何を……!」
「んん?親父と国民とどっちが大事なんだ。ミス・ウェンズデー。……クク!一緒に来たければ好きにすればいい」

話をしながら服のポケットから鍵を取りだして、あたし達に見せつけてきた。

「鍵!?それは……」
「鍵ィ!?この檻の鍵だな!?よこせこの野郎!」

檻の中から威嚇するルフィに構わないで持ってた鍵を床へ投げると、その床に穴が空いて鍵がその下に落ちてった。

「お前の自由さ、ミス・ウェンズデー。確かに反乱軍と国王軍の激突はまだ避けられる。奴らの殺し合いが始まるまであと8時間ってとこか。時間があるとは言えねェな。ここからアルバーナへ急いでもそれ以上はかかる。反乱を止めたきゃ今すぐここを出るべきだ、ミス・ウェンズデー。さもなくば……はは!何十万人死ぬことか……!無論こいつらを助けてやるのもお前の自由。この檻を開けてやるといい。もっとも、うっかりおれが鍵をこの床の下に落としちまったがな」
「バナナワニの巣へ!?」
「……まァ、そんなとこだ」

何がうっかりだ。早くこの部屋から出てってよ。窓の外をみると大きいワニがあっち行ったりこっち行ったりしてて、この部屋が水の中にある事が分かった。水族館みたいですごいけど、あいつのものだって思うと壊してやりたくなる!

「変なバナナだ」
「ばかだな、よく見ろ。ありゃワニからバナナが生えてんだろ。変なワニさ」

ルフィとウソップがのん気にワニのことを話してる間に水の中に落ちた鍵はワニに食べられてしまったみたいだ。

「追いかけて吐かせてこの檻を開けてくれビビ!」
「無理よ私には!だってバナナワニは海王類でも食物にするほど獰猛な動物なのよ!?近づけば一瞬で食べられちゃうわ!」
「あー、こいつは悪かった。奴らここに落ちたものは何でもエサだと思いやがる。おまけにこれじゃどいつが鍵を飲み込んだのかわかりゃしねェな」
「何ィ!?」
「くそ、この檻の鍵さえ開きゃあんなは虫類……!」
「ばかだなー、ゾロ。その鍵が食われたから出られねェんじゃねェか」
「わかってるよそんなこたァ!」

牢の格子を切ることが出来たら簡単に出られるのに。ゾロにやってと言ったら、もの凄い形相で睨まれた。

「さて、じゃあおれ達は一足先に失礼するとしようか。なおこの部屋はこれから一時間かけて自動的に消滅する。俺がバロックワークス社社長として使ってきたこの秘密地下はもう不要の部屋。じき水が入り込みここはレインベースの湖に沈む。罪なき100万人の国民か、さきのねェたった4人の小物海賊団か。救えて一つ、いずれも可能性は低いがな。いや、小娘がいるならこちらのほうがやや高いか?BETはお前の気持ちさ、ミス・ウェンズデー。ギャンブルは好きかね」

高らかに笑ってからあたしを見てまた口角をあげた。もうイライラしすぎて爆発しそうだ。オヤジに手も足も出ないくせにこんなことして笑うなんて。

「一刻の王女もこうなっちまうと非力なもんだな。この国には実にバカが多くて仕事がしやすかった。若い反乱軍やユバの穴掘りジジイ然りだ」
「何だと!?カラカラのおっさんのことか!」
「なんだ、知ってるのか。……もうとっくに死んじまってるオアシスを、毎日もくもくと掘り続けるバカなジジイだ。ハッハッハ、笑っちまうだろ?度重なる砂嵐にも負けず嫌いせっせとな」

なんでユバのおじさんのことを知ってるのか分からなかったけど、それを聞いてなんとなくユバの砂嵐を見たときの嫌な感じがまたした。

「何だとお前っ!」
「聞くが麦わらのルフィ。砂嵐ってやつがそう何度もうまく町を襲うと思うか……?」
「っやっぱりお前っ!!」

その言葉を聞いた途端、手の上で小さな砂嵐を見せるクロコダイルに何かの反動で勝手に体が向かって動く。それと一緒にあたしの周りから突風が吹き、煽られたみんなの体が仰け反る。檻があるからあいつには届かないから思いっきり檻を握りしめる。

「うおっ、リリナ!?」
「さすがだな、やはり勘付いていたか」

あたしの血相を見て理解したみんなは笑ってるクロコダイルを睨みつけた。なんでそんなことして笑っていられるんだ。お前に水を奪う資格なんか少しもないのに。

「クロコダイル!!」

叫ぶあたしを他所にクロコダイルは笑って踵を返してあたし達に背中を向けて歩き出した。ムカついてムカついてしょうがない。こんな檻の中にいるあたしにもムカつく。
そうしてる間にさっきの穴から水が吹き出してきて騒ぎ始めたウソップにも構わずにあいつを睨み続ける。やっぱりぶん殴ってやらなきゃ気が済まない。

「バカ野郎!これが騒がずにいられるか!死ぬんだぞ放っときゃァわかってんのか!?」
「その余裕なしたり顔を必ず消してやる。ルーキーが、どんなに恐ろしいかお前に教えてやる」
「……ビビ!何とかしろっ!俺たちをここから出せ!」
「クハハハ、ついに命乞いを始めたか麦わらのルフィ!そりゃそうだ死ぬのは誰でも恐ェもんさ」
「俺たちがここで死んだら!誰があいつをぶっ飛ばすんだ!!」

そのルフィの言葉は予想外だったみたいで歩いてた足を止めてこっちを見てルフィを睨みつけた。さっきのしたり顔はなかった。

「……自惚れるなよ、小物が」
「おまえの方が小物だろ!!」

なんでか分からないけど、ルフィが言った言葉にスカッとした。そうだ、ルーキーを舐めないでよね。ルフィはエースの弟なんだから。