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ビビちゃんと奴らがいる部屋に来てみるとマジで檻の中に捕まってた。ナミさんはそれなりに冷静だったみたいだがリリナちゃんはあっちこっち見てて落ち着きがなかった。まあおれがバナナを蹴ったら今度は動かなくなったが。あのワニ野郎に何かされたのか。それとも煙野郎か。

「いけー!サンジ全部ぶっ飛ばしてくれェ!」
「っかー!出て来やがった次々と。何本でも房になってかかって来いよクソバナナ。レディに手を出す様な行儀の悪ィ奴らには片っ端からテーブルマナーを叩きこんでやる!」
「サンジとにかく時間がねェぞ秒殺で!瞬殺で頼む!!」
「今、三番目に部屋に入ってきた奴を仕留めろ。てめェらの耳は飾りか?……今の声。カギ食ったヤツと唸り声が同じだろ」
「あーあー、分かったよ」

前の二本を蹴り倒してその後ろのバナナの腹を目がけて蹴りを入れると口から丸い玉を吐きだして倒れた。鍵ってこんなにでけェのか。中から変な声が聞こえたもんだから様子を見てるとひょろひょろした男が中から出てきてブツブツひとり言ほざき始めた。なんだこいつは。

「我ながら素晴らしい作戦だったガネ。ん!?しかしこのドルドルボールに付着した鍵の様なものは一体……!ギャーー!お前らは!」
「あーその鍵はー!よこせーっ!」

それからまたブツブツ言い始めたがこっちも急いでるから鍵を渡してもらわねェとな。

「てめェがMr.3か。大人しくその鍵を
「これでどうだーっ!」

あろうことか持ってた鍵を高く投げ捨てやがった。なんて面倒なことしてくれたんだあのメガネ野郎!

「フハハハハ!お前が誰だか知らんが奴らの味方の様だな!鍵が欲しくば探すがいい!……ただし、大人しく探せるかどうかは責任持たんガネ!」
「くだらねェ真似しやがって」
「ちょっと待てサンジ!そいつのドルドルのちからでこの檻の合鍵造れねェかな」

ウソップの提案に焦りだしたメガネをシメて合鍵を造らせるとカンタンに開いた。やるもんだな、ロウソク人間。

「急ごう時間がねェ!」
「ええ、奴らがいったん行こうとした通路がきっとアルバーナ方面よ。……でもあの通路にはまだバナナワニがたくさん!」
「心配ないみたい」
「うらァ!もういねえのかァ!!くそー水に浸かってちゃ本気でねェ!」
「リリナちゃん、怪我はないかい?」

ロウソク人間をもうひと蹴りしてくたばらせて未だ放心状態のリリナちゃんに声をかけると、やっと我にかえったみたいだ。

「う、うん。サンジくんかっこよかった!」
「囚われの姫も素敵だったぜ」
「うわあ!壁が壊れたァ!」
「アホォ!やり過ぎだ!」
「通路まで壊れた!脱出だ!脱出するぞ!」
「え、ちょっとま、みんな!」

カナヅチのルフィを抱えて勢いよく流れこむ水の中に飛び込むとき、リリナちゃんの声が聞こえたような気がしたが気のせいだろうか。

「おい生きてるか?ルフィ!ったく能力者ってのは厄介なリスク背負ってんな」
「うわっ!スモーカー!おいおいゾロてめェ何敵連れてきてんだよ!」
「うるせえ不本意だよ。どうせくたばり損ないだ」
「リリナがいない!」

ナミさんのその言葉に全員が声をあげた。やっぱりさっきの声は気のせいじゃなかったか。

「そういやあいつも能力者だろ。カナヅチなのもあたり前だな」

ゾロが言い終わる前にまた湖の中に飛び込んだ。周囲を気にしながら来た場所に戻ると、ちょうど水の中へ飛び込んだリリナちゃんを見つけた。ジタバタと手足を動かしてもがいているが少しずつ沈み始めてる。腰に腕を回すと閉じていた目がパチリと開いて綺麗な瞳がおれを捉えるとリリナちゃんの腕が背中に回されて体に絡みついてきて意識がまだある事に安堵して水面を目指した。

しかしすっかり頭から抜けてた。おれとしたことがリリナちゃんを危険な目に遭わすなんて。リリナちゃんだって能力者だ。水の中に入ればチカラが入らなく……なるはずだよな?ん?今おれにしがみついてるのはまさしくリリナちゃんの腕だろ?どういうことだ?

ひとまず水中からあがってリリナちゃんを救出すると、水を大量に飲みこんじまったみたいで咳こんでた。

「リリナ大丈夫?」
「う、うん。……ごめんね。サンジくんありがとう」
「あんたが能力者だってこと忘れてたわ」
「あたし能力者じゃないよ」

大方息が整ったところでリリナちゃんが言った言葉にみんなが口を開けて放心した。訳がわからない。

「だ、だってあんた風使うじゃない」
「あれは突然変異なの。あたしただのカナヅチなんだ!」
「紛らわしいわ!!」

けろっと言ったリリナちゃんにツッコミを入れるとまた謝った。おちゃめなとこも可愛いな。

「……まァいい。とにかく先を急ごう!」
「だいぶロスしちまったな。ビビちゃん間に合うか!?」
「わからない」
「ナミさん、ナノハナで買った香水持ってるか?それを吹きかけるんだ!」
「こう?」

ナミさんに香水をつけてもらうと程よくあまい香りが辺りに広がっておれを包みこむとフワッと脱力した。

「あーあの世の果てまでフォーリンラブ」
「いやマジでイっちまえ、お前」
「ロロノア!なぜ俺を助けた」
「船長命令をおれは聞いただけだ。別に感謝もしなくていいと思うぜ?コイツの気まぐれさ、気にすんな」
「……じゃあ、俺がここで職務を全うしようと文句はねェわけだな?」

見ろ!言わんこっちゃねェ。海兵なんか助けるからだ。睨み合ってるとルフィとウソップが気がついたみたいで騒がしくなった。

「うおっ!けむりっ!やんのかお前!」
「ぐあ!スモーカー!おいルフィやめとけ逃げるぞ!」
「スモーカーがそんなこと出来るとは思わないな?」
「……行け。だが今回だけだぜ。俺がてめェらを見逃すのはな」

リリナちゃんの一言に目を閉じて何かを考え始めたかと思うとそんな事を言い出した。

「……次に会ったら命はないと思え、麦わらのルフィ」

本当かどうかは分からねェがその言葉に甘んじてここは退散させてもらおう。

「さァっ!行こうぜ、海軍が来る!アルバーナはどっちだ!?」
「向こう!東へ真っすぐよ!」

海兵たちの声と反対の方向に走ってると前を走ってる奴らがこれからについて話し始めた。おれがそんなぬかりねェことするかよ。

「ご安心あれ。前を見な!」
「あっ!いたぞ!おーーい!みんなーー!」

ちょうどチョッパーが何かを動かしてこっちへ来たとこだった。あんだけデカけりゃ上等だな。

「乗ってくれよ!」
「乗れるのか!?うほーっ!」
「顔がでもちょっとヤラシーわよ!?」
「すっごくおっきい!」
「マツゲの友達なんだ!マツゲはこの町の生まれでこの辺には友達がいっぱいいるんだ!エロいけど」
「すごいっ!ヒッコシクラブはいつも砂に潜ってるからほとんど幻のカニなのに!」
「こいつけっこう速ェんじゃねェか?」

レディ達の手をとってカニの上に乗せる。残念な事にリリナちゃんは1人で跳び乗っちまったが。

「よーし、行くぞーーっ!出発!!」
「クロコダイル!」

リリナちゃんがワニ野郎の名前を叫んだ瞬間ビビちゃんがフックに捕まって連れ去られた。

「止めろチョッパー!」
「ビビ!あいつだ!」

血相を変えたルフィがビビちゃんをフックから離して、代わりに自分の腕をひっかけた。

「おいルフィ!」
「ルフィさん!」
「ルフィ!」
「お前ら先行け!俺一人でいい!ちゃんと送り届けろよっ!ビビをウチまでちゃんと!」

こっちの呼びかけも聞かねェで遠くなってくルフィの顔をみてゾロがチョッパーに指示をだした。あいつが大丈夫なら潔く進むしかない。

「いいかビビ。クロコダイルは、あいつが抑える。反乱軍が走り始めた瞬間にこの国のリミットは決まったんだ。国王軍と反乱軍がぶつかればこの国は消える!それを止められる唯一の希望がお前なら、何が何でも生き延びろ……!この先ここにいるおれ達の中の、誰かが、どうなってもだ!」
「ビビちゃん。コイツは君が仕掛けた戦いだぞ。数年前にこの国を飛び出して正体も知れねェこの組織に君が戦いを挑んだ。……ただし、もう一人で戦ってるなんて思うな」

ったくこのクソ剣士は、気の利かねェことしかいえねェんだよ。ウソップの奴は頼りねェし。

「ルフィさん!アルバーナで!!待ってるから!!」

目一杯叫んだビビちゃんの声はしっかり届いたようですぐに返事が返ってきた。いよいよ決戦ってとこか。