035

「クソ!何てこった!砲撃を止めたのに砲弾が……」
「時限式!?」
「直径5kmの破壊力がありゃあ、結局広場も町も助からねェぞ!」

念には念を。二段構えの用意周到さは、クロコダイルらしいけれど思いもしなくてみんな焦りを隠せない。

「上みてくる」
「リリナちゃん!」

だいぶ楽になった体を起こして、時計台の中に行くと砲弾の前にビビがぽつんと1人でいた。中に入って砲口を覗くと時計と取っ手が見えた。さすがに大っきいかな。

「リリナさん……」
「懐かしい場所ですね。砂砂団の秘密基地……」

いきなり男の人の声が聞こえて振り返るとさっき見た人が血を垂らして立ってた。

「ペル……」
「まったくあなたの破天荒な行動には毎度手を焼かされっぱなしで」
「ペル聞いて!砲弾が時限式で今にも爆発しちゃいそうなの!」

慌ててるビビとは裏腹に、ペルと呼ばれた人はいやに落ち着いていて胸騒ぎがした。

「ビビ様。私は、あなた方ネフェルタリ家に仕えられた事を、心より誇らしく思います」

それだけ言って鳥に変身して中の砲弾の取ってを掴んで空に飛んでいくペル。

「ちょ、ちょっと待って!あたしにもできることがっ!」
「我、アラバスタの守護神ファルコン。王家の敵を、打ち滅ぼすものなり」

そう言われて立ち尽くすしかなかった。名前を呼んで引き止めるビビをよそにペルはぐんぐん空に登ってって小さくなっていく。そしてものすごい爆発音と一緒に空が光って地面が揺れた。

だんだん晴れていく空を見ていると下からまた争う音が聞こえてきた。

「戦いを!やめて下さい!!」
「ビビ……」
「戦いを!!やめて下さい!!」

脇目も振らずに外に向かって大声で叫ぶビビの背中をみて急いで地面に降りると、既にみんなも争いを止めに入ってたからあたしも加わった。

「"ヴィントホーゼ"!」

剣がぶつかりそうなとこ、銃を発砲しそうな人、殴りあいをしてる人達、今まさに止めを刺そうとしている人もまとめて風の渦に巻きこんだ。これだけ大きければだいぶ時間稼ぎになるはず。
次の技をかけようとしたとき、少し離れたとこの地面からいきなりクロコダイルが飛んできた。どうしていきなり地面から、と考えているうちにクロコダイルの体はみんながいる地面へ落ちてきた。

「ルフィが、勝ったんだ!!」
「戦いを……!!やめて下さい!!」

ビビの声が風に乗って響き渡ってから雨の匂いがし始めて、ポツッと一滴頭にかかった。

「雨?」
「もうこれ以上……!戦わないで下さい!!」

雨がどんどん降りだすと周りの人達も動くのをやめて武器をおろしだした。

「今降ってる雨は……!昔の様にまた降ります。悪夢は全て、終わりましたから……!」

その声を聞いた途端に肩の力が抜けて眠気が襲ってきた。このまま寝られたら幸せなんだけど、頑張って頑張った後ベッドで寝るととっても気持ちいいんだよね。それまで我慢しよう。

「リリナ!ルフィ探しに行くわよ」
「うん!」
「リリナちゃん大丈夫かい?おれがおぶってあげるよ」
「大丈夫。さっきよりは辛くないし」

さっきよりもずっと傷を増やしたサンジくんの手を借りることを遠慮して、前を歩き出した。自分より重傷な人に助けてもらったらバチが当たりそうだ。


「お、いたか」

しばらく歩いてたら前からおじさんがルフィをおぶって歩いてくるのを見つけた。

「君達は?」
「……あぁ。あんたのその背中のやつ、運んでくれてありがとう。ウチのなんだ引き取るよ」
「では君らかね、ビビをこの国まで連れてきてくれた海賊達とは」
「あ?おっさん誰だ?」

ビビの事を知ってるおじさんが誰なのかわからなくて首を傾げていると、ビビが走って来ておじさんをパパって呼んだから、みんなで驚いた。

「パ、パパ!?ビビちゃんのお父様!?」
「あんた国王か」

なんでおじさんがルフィと一緒なのか、すぐに疑問に思ったことを包み隠さず経緯を話してくれた。

「一度は死ぬと覚悟したが彼に救われたのだ。クロコダイルと戦ったその体で人2人かかえて地上へ飛び出した。信じ難い力だ」
「じゃあその毒ってのはもういいわけだ」
「ああ、中和されたはずだ。だがケガの手当てをせねば。君達もな」
「それよりビビ早く行けよ。広場へ戻れ」
「そりゃそうだ。せっかく止まった国の反乱に、王や王女の言葉ナシじゃシマらねェもんな」
「……ええ、だったらみんなのことも」
「ビビちゃんわかってんだろ?オレ達ぁフダツキだよ。国なんてもんに関わる気はねェ」
「おれはハラがへった」
「あたしは早く寝たい」
「勝手に宮殿に行ってるわ。ヘトヘトなの」

頷いたビビとおじさんを見送って宮殿に行こうとしたとき、前にいたみんながいきなり力をなくして倒れた。

「み、みんな?」

慌てて様子を確認したらみんな眠ってるだけみたい。ビックリさせないでよ。でもギリギリまで頑張ってたんだね。それならあたしももう少し頑張ろうかな。

「あともう一仕事。そしたらベッドが待ってるね。"アップ"」

チョッパーを抱えて他のみんなを浮きあがらせて宮殿までを歩く。疲れた体に雨が染みこんでくるみたいでなんだか気持ちいい。今まで雨ってあんまり好きじゃなかったけど今なら全然いいや。雨ってこんなに気持ちよかったっけ。