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「もう追って来ねェな、海軍の奴ら」
「んーー……」

今海軍のしつこい追っ手をなんとかふり切ってひと息ついた。本当にしつこくて諦めが悪くてうんざりしてたけど、こっちも戦力的に勝ってたからどうにか退散してくれた。

「つき離したんだろ!?」
「んーー……」

さっきまで慌ただしかったから分からなかったけど今こうやって静かにしてると物足りない感じがする。ビビがいない。

「……あのな、何だよその気のねェ返事は」
「さみしーー……」

ゾロはどうしてそんなにサッパリしていられるのか不思議で仕方ない。あんなに一緒に頑張ってきて、大きなことを成し遂げたビビをそう簡単に諦めきれるもんか。仲間だって笑いあっていたのに。

「めそめそすんな!そんなに別れたくなきゃ力づくで連れてくりゃよかったんだ」
「うわあ野蛮人……」
「最低……」
「マリモ……」
「無神経……」
「三刀流…」
「待てルフィ。三刀流は悪口じゃねェぞ」
「四刀流……」
「増えてどうすんだよ!いいか、ナットウあるだろ。ナットウにお前腐ってるとか言ってもよ」

大きくため息をついて隣のルフィの服で涙を拭いたら寂しいよなーって呟いてたからそうだね、って返して頭ぽんぽんって撫でてあげといた。

「わかったよ好きなだけ泣いてろ」
「……やっと島を出たみたいね。ご苦労様」
「ああ」

自然な流れで会話が進んでいったけれど、よく考えると聞き覚えのない声だった。少しの沈黙の後、声のした方を見たらワニの家で見た女の人がいたから、驚いて飛び起きたら手すりに頭をぶつけた。

「組織の仇討ちか!?相手になるぞ」
「何であんたがここにいんのよ!」
「キレーなお姉さまーっ」
「敵襲ー!敵襲ーっ!」
「あ!何だお前じゃねェか!生きてたのか」
「そういう物騒なもの私に向けないでって前にも言ったわよね?」

それぞれ武器を構えたナミとゾロの体から手が生えて、抑え込まれる。不思議な光景に目を丸くすると、女の人は不敵な笑みを浮かべた。

「あんたいつからこの船に」
「ずっとよ。下の部屋で読書したりシャワー浴びたり。これあなたの服でしょ?借りてるわ」
「何のつもりよバロック・ワークス!」

物置きから椅子をだして寛ぎだしたお姉さん。数で勝てないはずなのに、とても余裕のある姿に調子が狂う。敵意はないみたいだけど、何が目的なんだろう。クロコダイルに何か言われてきたんだろうか。

「モンキー・D・ルフィ。あなた私に何をしたか、忘れてないわよね?」
「な、ナニっておいルフィてめェキレーなお姉さんにナニしやがったんだオォ!?」
「おいお前!ウソつくな!おれはなんもしてねェぞ!」
「いいえ。耐え難い仕打ちを受けました。責任、とってね」
「意味わかんねェ奴だな。どうしろっていうんだよ」
「私を仲間に入れて」
「は!?」

突然そう言われてみんなの声が揃った。サンジくんに至っては目がハートだし、ゾロは呆れたようにしてる。

「死を望む私をあなたは生かした。それがあなたの罪。私には行く当ても帰る場所もないの。だからこの船において」
「何だそうか。そりゃしょうがねェな。いいぞ」
「ルフィ!!」
「心配するなって!こいつは悪い奴じゃねェから!」

不思議なオーラを纏う女の人は、ルフィから許可を得るとみんなに笑顔を見せた。完全にあの人のペースに持っていかれているあたしは、今後のことを考えるのに精一杯だった。

「ようし、こうなったら取り調べだ!大人しく応じてもらうぞ!」
「ええ、いいわよ」
「リリナ来て!」
「なにー?」

ルフィとチョッパーが前のほうで何かいじってるからそっちに行ったら床から手が生えていた。一度足を止めてから意を決して恐る恐る触ってみると、手の感触がして感動した。

その甲板に生えた手に夢中になっていると、いとも簡単に転ばされて身体中くすぐられ、手から逃げるように転げまわってたら何かに動きを止められた。顔を動かすと柱が目の前にあり、どうやら追突を阻止してくれたみたい。
助けてくれたその手が差し出され、よく分からないままあたしの手を伸ばすと優しく握手をしてくれた。

「ロビンよ。よろしくね」
「うん、あたしはリリナ」

照れ臭くて紛らわすように笑うと、同じように笑顔を向けてくれた。優しいお姉さんみたいでなんだか心地いい。