049

大きいであろう渦はすごい音をたててメリー号を中心に引きずりこんでっていってる、みたい。海王類が苦しそうな声をあげてたのに静かになっていなくなった、みたい。……目が見えないってこんなに不安で何も分からないなんて。こんな経験滅多に出来ないだろうにもどかしすぎる。

「じゃあおめェら!あとは自力で何とか頑張れよォ!」
「ああ送ってくれてありがとなー!」
「待てーっ!勘弁じでぐれェ!恐ェえっつうんだよ!帰らせてくれゴノヤロー!即死じゃねェかごんなモン!」
「こんな大渦の話なんて聞いてないわよ!サギよサギーー!!」

サル2人とさよならすると余計に不安が煽られたみたいでウソップとナミとチョッパーが怖さに声をあげてる。本人達には聞こえないように笑ったはずなのに猛スピードで拳骨が飛んできた。

「引き返そうルフィ!今ならまだ間にあう。見りゃわかるだろ!?この渦だけで充分死んじまうんだよ!空島なんて夢のまた夢だ!」
「夢のまた夢……!そうだよな」
「そうよ!ルフィ!やっぱり私もムリだと思うわ!」
「夢のまた夢の島!こんな大冒険逃したら一生後悔すんぞ!!」

ルフィの嬉しそうに弾んだ声にナミ達が言葉を返さなかったから、もう諦めたんだと思う。こんな訳のわからない状況こそ何よりルフィが楽しめるものだって理解できるようになった。

「ホラ、おめェらが無駄な抵抗してる間に……」
「まに?何だ」
「大渦にのまれる」
「ああっ!」

ふわっとした浮遊感を感じてすぐ下に落ちてく感覚に思わず短い声がでた。どこまで落ちるのかって不安に駆られそうになったらすぐに海面に着水して水しぶきがあがる音と波に揺れる感覚が戻ってきた。もうほんと目が見えないって怖い。

「なに!?消えた!?何でだ!?」
「何が起きた!?」
「あんなでっけェ大渦の穴が!?どういうこった!?」
「……違う!始まってるのよ……もう。渦は海底からかき消されただけ……!」

かき消されたってどういう事?ナミの話が理解できなくて首を傾げていたら聞き覚えのある、今になっては聞きたくもない声が聞こえた。

「待ァてェーー!!」

あんな近くに来てたのに全然気づかなかった。久しぶりに感じの悪い笑い声を聞いてドキドキとワクワクと恐怖が一気にどこかに飛んでって雰囲気を台無しにされた。

「追いついたぞ麦わらのルフィ!てめぇの一億の首を貰いに来た!観念しろやァ!!」
「おれの首!?一億って何だ」
「やはり知らねェのか!ん?何でこの辺暗いんだ!?……おめェの首を傾げるとにゃ一億ベリーの賞金が懸かってんだよ!そして海賊狩りのゾロ!てめェにゃ6千万ベリーだ!」

えっルフィに一億!?アラバスタの一件でそんなにあがったの?確か前はそんなに高くなかったはずなのにすごい!いいな!

「……お?おいおいそこにいるのはリリナじゃねェか!?リリナ久しぶりだなァ!元気そうで何よりだ!」
「気安く話しかけてこないで!」

あたしに気づいたティーチが久しぶりの再会を喜ぶように、モビーで話してたときのトーンで声をかけてきてそれにムカついた。あんな奴の事なんか見たくないから目が見えなくてよかったけど。堂々と船べりに両足をつけて立ってティーチのいるほうを向く。あんたがサッチを殺したんでしょ。それなのに、平然と話しかけてこないでほしい。

「なんだ?会わねェうちにつれなくなっちまったか?……そうだ!お前おれの船に乗れ!お前は海軍に引き渡さねェし、船に華ができる!海賊王の船員になれるんだぜ!」
「誰があんたの船なんかに!自分のした事忘れたの!?仲間を殺してオヤジの名前汚した男なんかについて行くか!あんたなんかエースにやられちゃえばいいんだ!笑ってられるのも今のうちなんだからね!海に沈んじゃえ!!」

そこまで言いきると細かく船が揺れ始めて何事かと思ってたら、いきなり後ろからお腹に腕が回ってきてぎゅって体が固定されて船尾の方から少し温かい強い風が吹きはじめた。何があったの?これって上昇気流?上にのぼってるみたい!

「ど……!どうなってんだこりゃあ!?」
「水柱の上を船が垂直に走ってるぞ!」
「うほー!面白ェー!どういう原理だ!?」

水柱の上を船が垂直に走ってるってどういう事!?見たい。見たい。包帯とりたいのに⋯⋯もどかしすぎる。

「よーし!これで空まで行けるぞ!!行けェ!メリーー!!」
「ちょっと待った……!そううまい話でもなさそうだ」

サンジくんの声が真上から聞こえてやっと気づいた。あたしを捕まえてくれてたのはサンジくんだったんだ。ありがとう、もしサンジくんが捕まえてくれてなかったら海に投げ出されて今頃溺れてたとこだった。

「どうした!?」
「何だー?忘れ物でもしたのか!?」
「船体が浮き始めてる……!このままじゃハジキ飛ばされるのがオチだぞ!」
「そんな事言ったってお前!どうしろってんだよ、おれ達ァしがみつく事で精一杯だ!」

え?もうあたし達空島に向かってるの?今どんな状況?まったく状況が理解できない。ただサンジくんに掴まってるだけ。

「海王類!さっき渦にのまれたやつだ!」
「……見ろ。おれ達だってああなるのは時間の問題だ!」
「オイオイそんな事言ってもよ!こんなもん爆発の勢いで昇っちまってんだから今更自力じゃァ……」
「やっぱただの災害なのか!?」
「うわあ!色んなもんが降ってくるぞ!突き上げる海流ノックアップストリームの犠牲者だ!」
「ど、どうなってるの!?何がどうなってるの!?あたし何すればいいの!?」

みんな慌てふためいてるのが分かって何がなんだか分からなくて不安でいっぱいになるばかりで何もできない。ただサンジくんが掴んでてくれるから、あたしも離れないように必死に腕を掴んだ。

「リリナちゃん心配はいらねェ!おれに掴まっていれば安全だ!」
「う、うん!」

そっかサンジくんは頼りになるからね、ここは言う通りにしておこう。サンジくんの体に腕を回したら少し怖さが和らいだ。魔法かな?なんて一瞬呑気な事を考えてたらあたしを掴まえてくれてたサンジくんの腕の力が強くなった。あれ?これ少し恥ずかしい。

「あァおれ達ももうお終いだ。このまま落ちて全員……!海に叩きつけられて死ぬんだよ!」
「帆をはって!今すぐ!!これは海よ!ただの水柱なんかじゃない!立ち昇る海流なの!そして下から吹く風は地熱と蒸気の爆発によって生まれた上昇気流!……相手が海と風なら航海してみせる!この船の航海士は誰!?」
「んナミさんですっっ!!野郎共すぐにナミさんの言う通りに!」
「右舷から風を受けて舵は取り舵。船体を海流に合わせてっ!」
「イエッサー!!」

ナミの指示に動ける男クルーはみんな忙しなく足を動かし始めた。あたしはサンジくんに言われて階段の手すりにしがみついてる。恥ずかしくてこれまたどうしようか頭の中ぐるぐるしてたところだったから助かった。ちょっと心細いけど。

「わあっ!ヤバイぞ!水から船が離れそうだ!!」
「落ちるーーっ!落ちるぞナミ何とかしろォ!」
「ううんいける!」

チョッパーの声を聞いてもう落ちる覚悟を決めてぎゅっと掴まってると水の上を走ってた音がなくなって風を受ける音だけになった。

「え!?飛んだァーー!すげェ船が空を飛んだ!!」
「えー!なに!?」

飛んだって船が!?そんなはずない!気になる!見たいのに見られないもどかしさが山盛りになってく。こんなビッグチャンスなのにタイミング悪すぎるよ。

「この風と海流さえつかめばどこまででも昇って行けるわ!」
「おいナミ!もう着くのか!?空島!」
「あるとすればあの雲の向こう側よ」
「雲の上か!あの上に一体何があるんだ……!積帝雲に突っ込むぞォーー!!」

ついに下から見てたあの分厚い雲に入るのか。もふもふしてるのかな?目だけじゃなくてやっと体感できるんだね。早く到着するといいな。見られないけど。