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生け贄として連れていかれたナミさんやロビンちゃんを取り戻すために、試練ってのを与えられたおれ達は生け贄の祭壇に向かうための支度を早々に済ませた。

「リリナ、お前もうそれ外していいんじゃねェか?」
「ダメだよ!ちゃんとお医者さんに許可貰ってから外さなきゃ!」
「……さっき邪魔だって言ってたよな?」
「お医者さんは絶対!あたし我慢する!」

さっきチョッパーに診てもらってた時は確かにうんざりしてたようだが、無断で外す気はないらしく頑固に勢いよく首を横に振るリリナちゃん。あの強情なとこもまた可愛い。

「律儀だな。……だけどよそんなんで道歩けんのかよ」
「心配ご無用!おれがいる!」

リリナちゃんを遮る障害物はおれが排除する!何のためにおれがいると思ってんだ!おれはリリナちゃんの目になる!

「いや、お前がいるっつってもよ」
「リリナちゃん手を繋ごう!」
「手?」
「手を繋いでおれがエスコートしよう。何なら腕を組んでもいいよ」
「じゃあお願いします」
「よーろこんでえ!リリナちゃんは必ずおれが守る!!」

首を傾げてたリリナちゃんはおれのラブアタックを受け止めて笑った。ぐう⋯⋯また撃ち抜かれた。瞳が隠れてるのが非常に残念だが、あの澄んだ瞳だけがリリナちゃんの全てじゃねェ。一部が隠れてるくらいでおれは怯みはしねェ。ああ、このまま抱きしめて2人だけの世界に連れ去ってしまいたい。リリナちゃんでフィーバーしてるおれのハートをそのままに少しもじもじして手を繋ぐのを躊躇ってるリリナちゃんに手を差し出した。

「えへへ、お願いします」
「……!?」

それを見て照れながら少しずつのばされた手は差し出した手を通り過ぎて控え目におれの腕に絡まった。え?いやいや確かにさっき腕を組んでいいとは言ったがありゃちょっとした冗談で言ったつもりだったんだが。ま、まさか本当にこうなるとは思ってなかった。リリナちゃんまじでおれのハートを射抜きにきてるのか。絶対そうだろ。

ゆらゆら揺れる心情のまますぐ隣のリリナちゃんを見下ろすと遠慮がちにおれを見上げてきた。それもその包帯で覆ってなきゃきっとものすごい破壊力の上目遣いでおれを見つめていたんだろう。マジで残念だ。



コニスちゃんの案内でいざ祭壇を目指してしばらく歩いてやっとおれの心が落ち着いてきたとこで繁華街に入った。賑やかな声や音に反応してリリナちゃんの顔を右や左に忙しそうに動き始めた。

「うーわー!いいなココ!見ろよ店が浮いてるぞ」
「ラブリー通りはエンジェル島唯一の繁華街なんです。島雲の特性を活かした作りになってますから」
「……なんか、完全に避けられてねェか?おれ達」
「……あァ。もう知れ渡っちまってんだろうよ、犯罪者だと」

おれ等に向けられる視線は気持ちのいいもんじゃなく完全に警戒した目だ。可愛い天使達もおれが目を合わせようとする前に、視線をそむけて目が合わないようにしている。

「みんなこっち見てる」
「……?」

ぽつりと呟いたリリナちゃんの声にまたおれはリリナちゃんへ視線を落とす。たまに不可解な事が起きるんだ。今まであんまり気にしちゃいなかったが空島に来てから、ていうよりリリナちゃんが目を怪我してからそれが目立つようになってきた。包帯で目を覆われてるのに今みたいな事を言うし、仮面の男に狙われた時も普通に応戦してた。まるで目が見えているかのようだ。

「しかし変なもんがいっぱい売ってあるな。いーなー金あったらなー!宝払いじゃダメかなァ」
「ルフィ!こんなトコで油売ってる場合じゃねェだろ!ナミさん達は生け贄にされるんだぞ!助ける気あんのかてめェ!」

本来の目的を忘れて店に飾ってある色とりどりの食いもんに目を奪われるルフィ。あいつが能天気なのは分かってるが今はナミさんとロビンちゃんの危機だからルフィを好き勝手にして時間を食われるのはごめんだ。

「せめてどんなとこなのかくらい見たかったなー。終わったら来れるかな?」
「ショッピングのお供にはぜひおれをどうぞプリンセス!」
「オイ」

町の様子が気になるみたいでまだ忙しくあっち見たりこっち見たりしてる。瞳さえ隠れてなきゃ最高のロケーションだったのにな。

「お?通りの真ん中になんかある。へんなかお、なんじゃこりゃ。オットセイかな」

道の真ん中に透明なもので囲われたデカイ像が佇んでる。近くで見れば見るほど何をモチーフにしてんだか分からなくなる。

「……ただの変なドロ人形にしか見えねェがきっと宗教的な像だろ」
「ばかめこれは芸術さ!おれにはわかる」

コニスちゃんが言うにはこいつはこの空島に住んでる奴らの永遠の憧れらしい。コニスちゃんには悪ィがこんなもんに憧れるなんて理解し難いな。そもそもこいつが野郎なのか女性なのかも分かりゃしねェし。