058

「それにしてものろいな、コレ」
「そりゃウェイバーの数倍重いボートだから仕方ねェよ。贅沢いうな」

船着き場を出てからちょっとして、思ってたよりもゆっくりゆっくり進む船についにルフィから文句が漏れた。

「そうだ!ウェイバーはあの風吸いこむ貝を使って動かしてんだろ?リリナがウェイバーみてェに風起こせば速くなんじゃねェのか!?」
「リリナちゃんにそんな雑用押し付けようとすんじゃ……
「レッツゴーー!!」

手探りで後ろのブレスダイアルまで行って掌を雲の中に入れて来た道に向かって風を起こすと、勢いがありすぎて転覆しそうになってウソップが悲鳴をあげた。ルフィは大事な麦わら帽子を抑えて嬉しそうに声をあげてる中、船は猛スピードでミルキーロードを駆けてった。


「おい見ろ!何だ!?あのバカでけェ森は……」
「スッゲー!地図にこんな森描いてあったか?」
「いや……森なら描いてあるけどこういう印象は受けねェな。普通の森だ」
「その地図を持ってた奴らが200年前の人間だろ?その時点で古地図だった可能性もある。1000年くらいなきゃこん大樹は育たねェだろ……」

みんなの話しを聞いてる限り、相当大きい森みたいだ。目を怪我してなかったら見られたのに。……怪我してなかったら!

「入り口だ……!」
「さァ引き返すなら今の内だぞ。覚悟はできたか?ウソップ」
「え!じゃあできれば帰らせて貰
「行くぞ!!」
「聞く気ねェんじゃねェか!」

ウソップがいつも通り不安気な声で何かブツブツ言ってる間にどんどん周りが異様な雰囲気になってきて、あたし達以外の気配も感じるようになった。

「わ!ななんかいるぞ!」
「そりゃおめー森だもんよ……」
「いややっぱり待てお前ら周り見ろよ。コレ船の残骸じゃねェか!?」
「そりゃ森だもんよ」
「関係あるかァ!」

何か音がする度に怯えるウソップとは対象的にルフィはルフィらしくいつも通り能天気に受け流してる。

「あっ、まただ!」
「だから色々あるよ森なん」
「違う!あァ……アクセル全開!オールだ漕げ!漕げ早く!船を進めろ!リリナさっきのやれ!」
「何だどうしたんだよ!」

いきなり慌て出して全力でオールを漕ぎ始めたウソップに状況が理解出来なくて、気持ちだけ置いていかれる残りのあたし達。尋常じゃない慌てっぷりに首を傾げると横から何かが向かってくる気配がしてさっきと同じように風を起こして船を前に進めた。

「うぎゃああっ!!」
「……!鎌の化け物……!」
「油断するなもう一コ来る!」
「いや一コじゃねェ……。思いっっきり漕げーーっ!!」

ウソップと同じように焦り始めたルフィの号令と同じタイミングで、さっきと同じルフィ曰く鎌の化け物が左右から振り掛かってくるのに冷や汗を垂らしながら船を進めた。いきなりこんな攻め立てられて息つく暇がない。

「前!前見ろブレーキだルフィ!」
「ダメだ間に合わねェ、運転かわれウソップ!」

後ろにやってきたルフィが足を船縁に固定させて腕を後ろに伸ばし始めた。

「ゴムゴムの……!バズーカ!!」

ルフィの腕が狙ったのは鎌の化け物じゃなくてミルキーロードで、その反動とタイミングでぶつかりそうになってた鎌を跳び越える事ができた。おかげで鎌の化け物から抜けられた。

「ああ、でもなんてこった。入り口がもう、あんなに遠くに……」
「ここで降ろそうか?」
「アホ言え!死ぬだろ!!」
「……だと思うね」

一難去ってまた一難、今度は蛇みたいな長い生き物がこの船目がけてやってきた。また騒ぎ始めるウソップだけどそれはサンジくんのひと蹴りで蛇みたいなやつはミルキーロードに沈んでった。

「何だ!?ヘビか!?」
「ヤツメだ……空ヤツメとでも言うのか。血を吸われるどころじゃ済まねェぞ、あのデカさじゃ……。この雲の川ミルキーロード止まってウダウダやってたらエライ目にあうぜ。進み続けるしかなさそうだ……!」


少し進むと4つの分かれ道が現れた、らしい。目が見えないのはなんて不便なんだろう。最初は見聞色使えるしって思ってたけどあたしの見聞色じゃ限界があるし、気配が読みとれるって言っても人とか生きてるものだけだし、段差とか食べものとかの位置までは把握できなかったし。4つの入り口にはそれぞれ沼の試練、鉄の試練、紐の試練、玉の試練って書かれてあるみたい。

「どうする……!?」
「よし!玉行こう!楽しそうじゃねェか?」
「試練だぞどれも楽しいもんか!」
「いや……だが玉はおれも賛成だ!唯一暴力的な響きがない。……様な気がする」
「まァいい!決まりだな!だが油断するな、ここは上空一万メートルの神の島!何が起きても不思議じゃねェんだ!行くぞ!!」

3人の審議の結果、玉の試練に進む事になりました。一番安全そうだから。

玉の試練に続く入り口に入ると長い間真っ暗な道が続いてる。

「あ、そうだ。こういうのもあるんじゃねェか?」
「ん?何だよ」
「入り口が4つあったろ?どれかがあたりでどれかがハズレ!」
「え!?何だよそりゃ今更言うなよ!ハズレたらどうなるってんだ!?」
「……ハズレだったら……そうだな、空島から落ちるとか」
「バカ言え落ちてたまるか!青海まで一万メートルだぞ!?」
「でも一万メートルも落下するって楽しそうだよ!」

一万メートルも落ちたら何があっても動じなくなりそう。あ、その前に死んじゃうか。

「楽しいわけあるか!死ぬんだぞ!落下中に人生何回振り返るんだよ、落下にも程があるってもんだ!」
「冗談だよ!さすがに一万メートルも落ちることになったらあたしも泣くよ!」
「アホな事言ってんじゃねェよ!まァもしそうなったらリリナちゃんは死んでもおれが助けるぜ!」
「おれも助けろ!」
「うっせー!つかそんなわけ……!」

ワイワイと冗談を言い合ってるうちにやっと暗い道から抜けられた!って心の中で安心して息を短くはいた。サンジくんが言葉を言いかけたまま止まった。みんなも言葉が出なくなった。……あたしははいた息をまた吸った。吸ったまま息するのやめた。

だって、だって……この浮遊感ってそういう事でしょ!?このまま一万メートル落下するの!?冗談は冗談のままにしておいてよ!目ん玉飛び出るどころじゃ済まなくなるよ!!