069

ビリビリして痛かった。全身が痺れて身体が動かなくなって……目の前にいたあいつがどんどん視界からいなくなってって倒れるんだとぼんやり考えてた。けど思ってた衝撃がなくて何かに寄りかかったような感覚がして。でもそこで目が開けられなくなって眠っちゃったんだ。今はどこにいるのかな?何だか、騒がしい……。もう少し眠ってたいけどみんな起きてるなら起きなきゃ。

「お……!……きろ!寝てる……てめェ!」

あれ?サンジくんの、声?起きなくちゃ。あたしに怒ってるのかも。長い間寝ちゃってたんだ、きっと。

「リリナちゃん……!」
「サン、ジくん……ウソップ……」

両手で重い体を支えて起きると身体中包帯だらけの2人と目が合った。ああ、2人ともあの後あいつにやられたんだ。包帯が巻かれてない顔が細かい傷でいっぱいだ。守ろうと思って前に出たのに結局何もできなかったんだ、あたし。

「リリナちゃん無理すんな。まだ寝てていいよ」

立ち上がろうとしたら上手く力が入らなくてよろけた身体をサンジくんが支えてくれた。サンジくんの方が傷だらけなのに。そういえばこの感触、さっきもあったな。そっか、サンジくんがさっきも支えてくれたんだ。

「あたしも、行かなきゃ。みんな、動いてる。上の方にあいつと……ナミがいる……」
「だけどよお前フラフラじゃねェか。そんなんじゃ歩けねェだろ。おれ達先行くからお前は後から来いよ」
「おれらはとにかくナミさんを助けに行く。……リリナちゃんは無茶しない程度にロビンちゃん達と合流してくれ。居場所は分かるんだろ?」
「うん……」

大事なときに一緒に行けないなんて悔しい。悔しいのに体が思うように動かない。2人とも自分で立ててるのにどうしてだろう。支えられながら名前を呼ばれたら肩を力強く掴まれて正面にいるサンジくんを反射的に見上げたら、まさかあたしを見てると思ってなくてまっすぐあたしを見る目とばっちり合って驚いて息がつまった。

「……リリナちゃん。目の前にいたのに……結局おれは見てるだけで守られちまった。こんなに恥ずかしい事はねェ。それにまだおれはリリナちゃんを守れるほど強くねェ。……だが今は少しだけでも守らせてくれ。次は必ず、リリナちゃんを堂々と守ってみせる!!」

真っ直ぐな目で見つめられた。そんな真剣にならなくてもあたしもそれなりに戦えるから大丈夫なのに。サンジくんの負担が増えるだけなのにどうしてあたしを守ろうとしてくれるんだろう。



少し休んでからあたしも船から出たら、空に舟が飛んでた。あんな大きな、空飛ぶ舟なんて……。どこに行くつもりなんだろう、あいつ。あんな奴の事なんてどうでもいいけど、こんな事したんだからただ見送るなんて事しないからね!パンチ一発くらいもらってからのぼってほしい。

ロビン達と合流するためにみんなのいる方に向かってるんだけど……ちょっと歩くだけで息が苦しくなる。包帯が巻かれてて動きづらいし。どれくらい時間がかかったか分からないけどやっとロビンが見えた。みんなもいる、あとゲリラもいる。みんなやられちゃったの?

「ロビン」
「風使いさん!傷だらけじゃない……」
「へへ。あたしも、みんなと一緒」
「他の航海士さん達は?」
「みんな、あの舟に……あれ、落ちてる」

みんながいるところまでロビンに連れてってもらって重い足を休めるように座りこんだ。あ、ルフィが下に……。

「ロビーン!!」

いきなりルフィの声が聞こえてきたら上から女の子とお爺さんの鳥が降ってきたのをロビンが腕を咲かせて受け止めた。

「そいつら頼む!」
「ルフィ!」
「リリナ!お前もボロボロだな!そこで休んでろ!」

ルフィよりも大きい黄金に先に目がいった。なんであんな黄金がルフィの腕にくっついてるんだろう。とても重そう。

「その腕の黄金はなあに?」
「ロビン!この蔓のてっぺんに黄金の鐘があるんだな!?エネルはその鐘を狙ってるんだな!?」
「それは……鐘楼があるとすれば……そこしかないわ。だけどもう……」
「よし!」

ロビンに聞きたい事だけ聞いたルフィは空にのびる大きい蔓をのぼってく。ここからあんな上にいるエネルに追いつく気なのかな。

「風使いさん、今も航海士さんは舟の上?」
「ううん、あそこ」

ちょうどウェイバーに乗ったナミ達が見えて指差す。

「アイサ!よかった!無事なのね!?」
「サンジくん!」

ウェイバーに乗ってきたナミとウソップと気を失って担がれてるサンジくん。ボロボロな姿に一瞬きゅって心臓が小さくなって苦しくなった。ごろっと雑に転がされたサンジくんに駆け寄って顔を覗くとさっきよりもボロボロだった。こんなに、ボロボロになって……どんな無茶をしてきたの?サンジくんがこんなにボロボロになるならあたしだって一緒に戦うよ。こんな姿見たくないよ。

さっきの真っすぐあたしを見てた目を思い出しながら心の中で呟いて目を瞑って動かないサンジくんのほっぺに手を当てるとカサカサしてて電撃でやられたせいなのか、ただ生きてるからなのか、どっちもだからなのか分からないけど温かかくてちょっとだけ安心した。

「ルフィなら今ナミを助けに蔓を登ってったよ!エネルの所に行ったんだよ」
「ええっ!?しまったすれ違い!?」
「たった今よ。止めようとしたんだけど……」
「間の悪ィやつめ……!もう時間がねェんだぞ!すぐに脱出しねェと!」
「……いいわ。私がすぐウェイバーで追いかける!!みんなは何とか先にメリー号へ!」

ルフィを追いかけようとナミがウェイバーで蔓を登ろうとすると遠くに雷が落ちた。一回だけじゃなくて何回も。ただならない状況に立ち尽くしてるあたし達のいるすぐ近くに落ちた雷は遠くではあんなに小さく見えたのに近くでは思ってたよりも大きかった。

「なんてでっけェ雷……!ここにいちゃ空の塵になっちまう!!」
「みんな!船へ急いで!!私もルフィを連れてすぐに行くから!!」
「よ!!よよよし!!わかった!!」
「急げリリナ!ロビン!こいつらを何とか船まで運び出すん……!?」

ナミが蔓をのぼってくのを見てから船に移動しようとすると静かにゲリラが立ち上がって、それと同じときにゾロとお爺さんが目を覚ました。

「……剣士さん」
「変なおっさん!」
「よかった気がついた!おい!時間がねェんだ歩けるか!?」
「始めおったか……」
「急ぎましょう。ここにいても何もできない」

動こうと思えば動けるはずないのにゾロもゲリラも動こうとしない。ゲリラは森が見える方を見て立ち尽くしてて、女の子が手を引っ張って何を言っても動こうとしない。その間にも空を覆う真っ黒い雲から雷がいくつも落ちてきてる。