007

いよいよ冬島が近くなってきたことを知らせるように降り始めた雪は少しずつ甲板に積もっていった。ウソップと見張りを交代して、その代わりにまだ苦しそうに熱を出してるナミの部屋に来た。

「ナミの熱どんどん上がってくよ。大丈夫かなァ、ルフィ」
「んーな心配すんなって!もうすぐ島に着くから平気だ!」

そう言われても苦しむナミを見てしまうと不安は消えなくて、口元に力が入る。少しでも楽になるように、こまめにタオルを変えてあげるけどそれもあんまり効果がなさそう。

「島があったぞー!」

タイミングよく聞こえてきた外からの大きい声に反応する。あたしもルフィもさっそく島が見えたことをナミに伝えて、でも早くその島を見たい衝動に駆られて居ても立っても居られなくなる。島をこの目で確認したいけどナミのことは見てなくちゃ、という葛藤と戦ってると、そんなあたし達を見兼ねたゾロがナミはおれが見てるから行ってこいって言ってくれて、2人で外に出た。

「うーおお!しーまだあああ!!白いな、雪だろ!雪島か!」

一目散に船首の上に乗ったルフィを追いかけてあたしも船の先端のとこに身を乗りだした。まだ遠くに見える島は白くて、煙突みたいなものがいくつも見える。煙突にしては大きすぎるけど、なにか工場でもあるのかなって想像が駆けめぐる。寒いのは嫌いだけどやっぱり雪は好きだな。

サンジくんがルフィに何かを言ってたけど、島を見るのに夢中でなにも聞こえてないみたい。それよりルフィの格好寒いんだけど何か着てくれないかな。

「ちょっと待てよ。大丈夫か!?雪ってことは雪の化け物とかいんじゃねェのかァ!?そもそも人がいるかどうかが大問題だ!まずいっ!島に入ってはいけない病が!」
「なに?その病気。それならウソップも診てもらったら?」

そう言って笑いかけるとウソップの顔が青ざめた。もしかして今ので悪化した?ウソップの異変にいち早く対応しようとじっと見つめてたら、サンジくんに上陸の準備をするようにって言われたからナミに借りてる帽子を被りに部屋に戻る。

「ナミー、冬島だったよ。早くドクターに診てもらおうね。早く良くなろうね!」

声をかけながらまたタオルを濡らして新しくしてあげる。ナミとは会ってからほとんど苦しそうな顔しか見てないから早くお話ししたい。脱いだブーツを履いていると、外から銃声が聞こえた。
慌てて外に出たら、ちょうどビビの肩に銃弾が掠って倒れてる光景が目に飛び込んできて思わず息を呑んだ。それを見たルフィが血相を変えて応戦しようとしたのを、撃たれたビビが体を起き上がらせてルフィの体にしがみ付いて止めた。

「ちょっと待って!戦えばいいってもんじゃないわ!傷なら平気、腕を掠っただけよ!」

そう言ってルフィを止めたビビは銃を構えたままの人達に向かって膝と手をついて床に頭をついて土下座をした。

「上陸はしませんから!医者を呼んでいただけませんか!仲間が重病で苦しんでいます!助けてください!……あなたは船長失格よ、ルフィ。無茶をすれば全てが片付くとは限らない!このケンカを買ったら、ナミさんはどうなるの?」
「……うん、ごめん。おれ間違ってた!医者を呼んでください、仲間を助けてください」

ビビに並んで一緒に膝をついてゴツンと音を立てて頭を下げたルフィ。海賊はまず手が出るのに対してビビは言葉で分かってもらおうと穏便に済ませようとした。詳しいことは知らないままだけど、ビビは自分と違う立場にあることがなんとなく理解した。


それから二人の誠意が伝わったおかげで村へ案内してくれることになった。サンジくんがナミを負ぶってゾロは船に残るみたい。

「ゾロ行かないの?1人で大丈夫?あたしも一緒に残ろうか?」
「お前と一緒にすんな、さっさと行け!」
「てめェクソ剣士!リリナちゃんの気遣いを邪険に扱うな!リリナちゃん、あんな奴と一緒のほうが危ねェからおれ達と行こうな」
「……じゃあおみやげ持ってくるからね!」

わかったわかったと軽くあしらわれながら、ゾロに手を振って案内してくれる人の後を歩いていく。途中でハイキングベアっていう大きい熊に遭ったり町まで楽しい道のりだった。寒いけど。


町の中にもたくさんの動物たちがいて、さすが雪島だと興味を惹かれるまま町を観察していると同じことをウソップが言っていた。
そんなとき町の真ん中にハイキングベアが現れた。発見したウソップとその隣にいたあたしとルフィが慌ててお辞儀をしたのに、案内してくれるドルトンや他のみんなは知らんぷり。おかしいな、と襲われるんじゃないかとざわざわしているとサンジくんが嬉しそうに声をかけてきた。

「リリナちゃん、寒いから中に入って温まろう」
「おいリリナ!雪であそぼーぜ!」
「うん!サンジくん、後から行くね!」

ルフィが遊びに誘ってくれたから、サンジくんは先に中に入ってもらった。遊ぶ内容は雪で自分の傑作を作るというテーマ。傑作か。あたしにも作れそうな、そんなに難しくないやつ。悩んでる間にルフィもウソップも雪を集めて形を作り出したから、慌ててあたしも頭に浮かんだものを形にし始める。
最初に完成したのはルフィで、その後にウソップ、最後があたし。なかなかいい出来だ。

「ハイパー雪だるさんだ!」
「雪の怪物、シロラーだ!」
「ホワイトメリー号!」

それぞれ作品のタイトルを言うとちょうど窓からこっちを覗いてたサンジくんに怒られてしまった。

「……で、リリナちゃんそれ何だって?」
「ホワイトメリー号!メリーだよ、上手くできてるでしょ?」
「それメリーか?団子じゃねェのか?」
「ばかっルフィ!」

ルフィに言われた言葉にもう一回ホワイトメリーを見直してみた。首から伸びた丸い顔と羊の特徴的なツノ。真っ直ぐ前を見据える勇敢な瞳まで再現したのに、これがお団子に見えるなんてルフィ目が悪いんじゃないかな。
ルフィだってあたしと変わらないのに。でもウソップのシロラーはとっても上手。ウソップは手先器用なんだなーってまじまじとシロラーを見てたらサンジくんに今度こそ中に入るようにって言われて、ルフィとウソップも誘って中に入った。出してもらったホットミルクがじんわり身体に染み込んでくるようで美味しい。