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「政府はまだまだお前達を軽視しているが……細かく素性を辿れば骨のある一味だ。少数とはいえこれだけ曲者が顔を揃えてくると後々面倒な事になるだろう。初頭の手配に至る経緯、これまでにお前達のやってきた所業の数々……その成長の速度。長く無法者共を相手にしてきたが末恐ろしく思う……!」

さっきまでの態度とは打って変わったように表情を硬くして、でも同じように一人で淡々と話す青キジを見てこめかみを通って冷や汗が垂れたのがわかった。どうしよう、そんな考がぐるぐる頭の中を回っているのに解決策は浮かんで来ない。

「そ、そんな事急に!見物しに来ただけだっておめェさっき……」
「特に危険視される原因は…お前だよニコ・ロビン」
「お前やっぱりロビンを狙ってんじゃねェか!ぶっ飛ばすぞ!」
「懸賞金の額は何もそいつの強さだけを表すものじゃない。政府に及ぼす危険度を示す数値でもある。だからこそお前は8歳という幼さで賞金首になった。子供ながらにうまく生きてきたもんだ。裏切っては逃げ延びて……取り入っては利用して……そのシリの軽さで裏社会を生き延びてきたお前が、次に選んだ隠れ家がこの一味というわけか」

俯いていた顔を少しあげたと思ったら影の差した目であたし達を見上げてきた。その視線にぞくっと背筋が凍って意識はハッキリしてるのに、体も動かそうと思えば動くはずなのに動かす気にならなくて、傍から見たらあたしはゆらゆら揺れてるんじゃないかって思うくらいぼんやりする。少し気持ち悪く感じる。

「おいてめェ聞いてりゃカンに触る言い方すんじゃねェか!ロビンちゃんに何の恨みがあるってんだ!!」
「やめろサンジ!」
「別に恨みはねェよ。因縁があるとすりゃあ、一度取り逃がしちまった事くらいか……昔の話だ。お前達にもその内わかる。厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くはねェさ。それが証拠に…今日までニコ・ロビンの関わった組織は全て壊滅している。その女一人を除いて、だ。何故かねえニコ・ロビン」
「やめろお前!昔は関係ねェ!」

あたし達を挑発してるのか癇に障るような言葉を選んでいるように思えるくらい、イライラが増してくる。でもきっとこれは青キジの作戦かもしれない。あたし達の出方を見てるのかもしれない。ぼんやりしてる意識は意外と冷静で青キジに飛びかかりそうになる体に力を入れて踏みとどまっていると、ルフィが気持ちを抑えずに言い返した。

「成程……うまく一味に馴染んでるな」
「何が言いたいの!?私を捕まえたいのならそうすればいい!"三十輪咲きトレインタフルール"!」
「あららら……少し喋り過ぎたかな、残念。もう少し利口な女だと買い被ってた……」
「ロビン待って!」
「"クラッチ"!!」

今度はずっと黙って聞いていたロビンが耐えきれなくなって青キジの体と地面から手を咲かせて技をかけようとした。止めさせなきゃって思って声を挟んだときにはもう青キジの体は普通の人じゃ無理な体勢で体を曲げられていた。けど、すぐに砕けて地面に転がってた氷の塊から青キジの形をした氷が起きあがってきた。ロギア系の能力者には意味がない。青キジの体がバラバラに砕けたときにどこかでホッとしてた自分がバカに思える。

「んあァ〜……ひどい事するじゃないの。"アイスサーベル"……命取る気はなかったが……」

生えていた草を引きちぎって凍らしてそれを刀の形に変えて振りかぶったのを見てゾロが2人の間に入って氷の刀を自分の刀で受け止めた。

「"切肉スライスシュート"!!」
「だめっ!待って!!」

動きが止まったその一瞬にサンジくんがすかさず氷の刀を蹴りあげて青キジの手から離した。それと同時にサンジくんとゾロに触ろうとした手を遠ざけるように旋風を青キジの体の中心に命中させると、風に押されて距離があいて阻止する事ができた。


「おーおー、懸命だな風弄ふうろうのリリナ」
「……ふうろう?」
「仲間の素性くらいちゃんと知っといた方がいいぜ。同じ海賊だっつってもこの嬢ちゃんは白ひげ海賊団のクルーなんだからよ」
「"ヴィント・ダス・メサー"!」

いちいち青キジの動作を確認してる暇はない。どんなに青キジの身体を切り裂いても何回も何回も元の姿に戻っていく。そんな持久戦はすぐに崩れて、元に戻る青キジにばっかり気を取られて間合いが思ってたよりも近かった。背の高い青キジが手を伸ばせば触れられてしまう距離。手が伸びてくる前に距離を置こうと足に力を入れて後ろに下がろうとすると地面から足が動かなくて、そのまま尻もちをついた。そこで大きく息をのんでそのまま吐きだすのを忘れたように止まった。

「リリナちゃん!」

青キジを見上げる前に足元が氷で凍らされてるのが見えて、足が動かなかった原因が分かったのと一緒にやっと足の骨の芯まで冷えていくのを感じた。こういうところで鈍いからあたしってダメなのかもしれない。1つの事にしか集中できないなんて。

「嬢ちゃんと対峙するなんて初めてだったな。だが……まだまだおれには勝てんよ」

その言葉ははっきり聞こえたのに、その声が聞こえなくなった途端に目の前が真っ暗になった。それと一緒にサンジくんが、みんながあたしを呼ぶ声が聞こえた。やばいって頭では分かっていてもどうやっても体が動かなくて、もがけばそれだけ体が冷えて動かなくなっていくみたい。

空島でもあたしは力にならずに終わったんだよな。青キジには敵わないからあたしがどうにかしなきゃいけないのに、こんなに呆気なく負けちゃった。みんなの前では強がっててもやっぱりあたしは弱いんだ。ごめんね、頼りなくて。でも、みんなは無事でいて。