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「おれが勝ったらメリーは貰って行く」
「モンキー・D・ルフィ!おれと決闘しろォ!!」

ウソップが声を張って言った言葉が何回も何回も頭の中を駆けめぐるたびに、首を振って払う。約束の10時になる前に男部屋に行けばルフィがただ立ち尽くしてた。ルフィの名前を呼んだら帽子を傾けて顔が見えなくなって、それでも隠しきれなかった口は口角が下がってて力が入ってた。あたしを無視して横を通り過ぎて行っちゃいそうなルフィの、いつも着てる赤いベストの裾を強く掴んだら、ちゃんと止まってくれた。

「ルフィ……」
「………」

名前を呼んでも返事すらしてくれなくて、余計に寂しさが強くなる。決闘は大事なもの。男の人に囲まれていたからそういう男のプライドっていうか、けじめみたいな事に口出しするのは良くない事くらい分かってる。分かってるけど今回の事は……。裾を掴んでるあたしの手に手を重ねられて、何か言ってくれるのかと期待したけど少しだけ力を込められてやんわりと手を解かれた。


二人の決闘の勝敗は目に見えてるもので、しかも身体中今日できたばっかりの傷だらけのウソップとルフィが戦えばルフィに何倍も分がある。捲し立てるように次から次に攻撃をしかけてたウソップだけど、ルフィの一撃で倒れて負けた。


・・・・・



メリー号の荷物はとりあえず借りた部屋に移して、おれはまた岩場に戻った。岩に身を寄せる様に浮かんでるメリーはどこか寂しげに見える。夜になっても戻ってこないロビンちゃんは今一体どこで、何をしてるんだろうか。何か用事があんなら一言くらいくれてもいいのに。ロビンちゃんらしくない行動に心なしか心拍数が速い気がする。何もかも気のせいだったらいいんだが。


朝日が登って辺りが十分明るくなってきた頃、そこから足を離して借りた部屋に戻ると3つ並ばれた真ん中のベッドに横たわる小さな体を見つけた。その姿がまるでさっきまで見てたメリーのようで、寂しくなる。

うつ伏せで寝てるリリナちゃんの前ですぐ近くで顔を見えるようにしゃがんだが、眠りが深いようで起きる気配はない。長い髪を撫でると海風に吹かれたせいでなめらかさはないが、それでも見た目通り柔らかくて気持ちがいい。目元には涙の跡がある。目もいつもより腫れぼったい。疲れてそのまま眠っちまったんだろうか。

「ここにいたのか。せっかく宿とったのに部屋にいねェなんてよ」
「いただろ、寝坊助が」
「んな言い方すんじゃねェ」
「こんなときに寝られるとはとんだ肝の据わった女だな」
「泣き疲れたんだよ」

部屋から続くテラスに足を運べば最初にゾロのやつがいた。相変わらず物を考えずに口に出しやがるからいちいち癇に障る。繊細が故に感受性が豊かなんだよ、鈍いてめェとは違ってな。言ってやりたい気もあったが今は声を上げる気が起きないからここでその話は終わりだ。

「ルフィは?」
「あそこ」

チョッパーが指差したのはテラスの真ん前にある小さな細い建物の上。そこにこっちに背を向けてる小さなルフィがいた。いつもの騒がしさは残さずポツリとどこを見てんだか分からない。まるで話しかけるなと言ってるようだ。いつも見てきた背中とは大違いで一回りもふた回りも小さく見える。あいつも海岸沿いに浮かんでたメリーみたいだ。

「サンジどこ行ってたんだ?」
「夜中中、岩場の岬を見張ってた。ロビンちゃんが……帰って来やしねェかと思ってよ。……どこ行ったんだろうな。何も言わずに。おれは今日は町中を探してみようと思う。もし何かあってもこの宿を落ち合い場所にしとこう」
「お……!おれも行くぞ!探しに!」
「そうか……よし」
「ルフィ!」

チョッパーとそんな話をしていたらナミさんが大きな音を立てて現れた。息を切らして。

「大変なの!今町中この話で持ちきりで……!ルフィ!昨日の夜、造船所のアイスバーグさんが、自宅で撃たれたって!」

アイスバーグ?おれの知らねェ名前だな。どこのどいつだ?造船所のって事は造船所の誰かか?しかし自宅で撃たれたって……こんな町なのに物騒なもんだな。