093

ロビンにさよならって言われた。信じられなくて理解できなくてただ俯いて地面を見つめる事しかできなくて、何も考えられない。

「チョッパー。……お前、リリナちゃん連れてルフィ達と合流して今あった事、全部話して来い。一言一句漏らさずな」
「サンジは?」
「おれは少し、別行動を取る。まァ心配すんな……無茶はしねェから」

サンジくんの隣から動けないでいたら頭に心地良いくらいの重さが乗っかって、それから優しく撫でてくれた。サンジくんを見るとあやすように笑って大丈夫だからって小さく聞こえた。小さく頷いて立ち上がると、サンジくんも一緒に立ち上がって上着を羽織り始めた。ネクタイもしっかり締めて煙草に火をつけて、すっかりいつも通りのサンジくん。

「………」
「リリナちゃん」
「うん……」

いつも通りだけど怖かった。ロビンがああやっていなくなっちゃったから。もしかしたらサンジくんもいなくなっちゃうんじゃないかって思って怖くなった。

「どうした、チョッパー」
「ロビンは、おれ達が嫌いになったのかな……」
「チョッパー……、一つ覚えとけ。女のウソは許すのが男だ」

それだけ残して先に歩きだしたサンジくんの背中を少しの間見つめてから、チョッパーとルフィ達のいるとこに走り出した。サンジくんは大丈夫。だって無理はしないって言ってくれたもん。そう言い聞かせるしかない。


チョッパーと他のみんなを探してたら、何故か橋の下にいた。覗いたら驚かせちゃったみたいで水路に落ちてったから、引き上げてたら町の人に見つかってまた追いかけ回された。なかなかしつこかったけど、また屋根の上に逃げたら呆気なく撒けた。それからロビンが一味を抜けるって一方的にいなくなった事とサンジくんが別行動をとった事を話した。あたしは聞いてただけだけど。

「全員、覚悟はあったハズだ……。かりにも敵として現れたロビンを船に乗せた。それが急に恐くなったって逃げ出したんじゃ締まらねェ。落とし前、つける時が来たんじゃねェのか?……あの女は、敵か味方か……」

敵か、味方か。もちろんあたしは味方だと思ってたし、今だって疑ったりしない。ロビンだって怪しい事なかったし、変な事あったわけじゃない。みんなだって同じだと思う。でもロビンの事だから上手く隠して誤魔化すのだってお手の物だろうから、あたし達が気付いてないだけでって事もあったのかもしれないけど。

「……ロビンは確かにそう言ったんだな、チョッパー」
「うん」
「今日限りでもう会う事はねェってんだから、今日中に何かまた自体を悪化させる様な事をするって宣言してる様にも聞こえる。市長暗殺未遂でこれだけ大騒ぎになったこの町で、事態を更に悪化させられるとすればその方法は一つだ……」
「今度こそ……市長暗殺」

今日は町中その人の話でもちきり。アイスバーグさんが銃で撃たれた濡れ衣を着せられてあたし達も追われる身になっちゃったんだもんね。

「そう考えるのが自然だな。ただし、わざとおれ達に罪を被せてるとわかった以上、これはおれ達を現場へおびき寄せるワナともとれる。今夜また決行される暗殺の現場におれ達がいたらそりゃ罪は簡単にふりかかる」
「ちょっと!それじゃあもう本当にロビンが敵だって言ってるみたいじゃない!」
「可能性の話をしてるんだ。別におれはどっち側にも揺れちゃいねェ。信じるも疑うも……どっちかに頭を傾けてたら、真相がその逆だった時、次の瞬間の出足が鈍っちまうからな」

ゾロは大事なときはいつだって冷静だ。冷静すぎてちょっと怖いけど。でもそういう精神力ってのも大事だったりするよね。あたしだったら少しだってロビンが敵だなんて思いたくない。

「事が起きるとすりゃ今夜だ。現場へは?」
「行く」
「行くのは構わないけど、問題があるのよね。サンジ君はロビンが誰かと歩いてるのを見たと言ってたでしょ。アイスバーグさんも、同じ証言をしてるの。仮面を被った誰かって。それは私達の中の誰でもない。急にロビンが豹変したのもそいつが原因なのよ!」
「そいつに悪い事させられてるんじゃないか!?ロビンは!」
「そいつとロビンが本当の仲間ってのが凶だ」

そうだ。サンジくんと歩いてたときもロビンは誰かと歩いてた。その人達に何か言われたのかな。この前の、青キジみたいに。そうだとしたら、海軍か何かが動いてるって事になる?

「かと言って仮面の誰かじゃ何の手掛かりにもならない。私達の目的は何?」
「ロビンを捕まえるんだ!!じゃなきゃなんもわからねェよ」
「確かに、考えるだけ時間のムダだな。……だが確か、世界政府が20年、あの女を捕まえようとして未だムリなんだっけな」
「でも真相を知るにはそれしかないわね」
「よし!おれも頑張るぞ!」
「あのさ……!」

チョッパーの声と一緒にみんなが立ち上がって歩き出したから止まってもらおうと思って声をかけた。気になってる事があるんだ。

「何?どうしたの分からない事でもあった?」
「そうじゃなくて。サンジくん……一人だから心配で……」
「ああ………」

そういうとみんながそういえばそうだった、とでも言うような顔をしてた。薄情だとかそういう事言うつもりはないけど、みんな意外と素っ気なかったりするんだよね。こういうちょっとした事は。

「ならあんたが行ってあげなさいよ。私達はもうアイスバーグさんのとこに行くって決まってるし、サンジくんがどこにいるかなんてあんたしか分からないだろうし」
「うん……」
「リリナ、サンジ頼むな」
「うん。分かった!」

ルフィにそう言われて背中を押されるようにサンジくんを探しに走りだした。さっきよりも風が強くなりだして、遠くの方の海は白波が見えるほど荒れ始めた。サンジくんが何をしてるのか分からないけど早めに合流しなくちゃ。