095

あああ、言っちまった。告白するつもりはなかったんだ。断じてなかった。いやでも限界は来てた。だが勢いで言うなんてそんな事には絶対しないつもりでいたのに。なのに!リリナちゃんが今までにないくらいの反則をおかしてきたもんだから言わざるを得なくなったんだ。全部が全部、おれのせいじゃねェんだ。いやレディに罪をなすりつけるわけにはいかねェ。

だがまさかここでボロが出るとは思わなかった。それぐらいリリナちゃんは可愛かったんだ、許せおれ。その代わり顔の真っ赤なリリナちゃんが見られたんだから、それはそれで結果オーライだろ。すげェ可愛かったじゃねェか。あれに敵うもんは何もねェだろ。許せおれ……!


「ところで、あの壁の文字はサンジくんが書いたの?」
「あっ!あれはつい……というか、条件反射というか……深い意味はねェんだよ!?」
「わ、分かってるよ大丈夫」

走り出す前に汽車に向かって歩き出していたら不意にリリナちゃんからおれがナミさん宛てに書いたラブ……いやメッセージを見つけちまって慌てて弁解したが、困った顔をしてるあたりあんまり効果は期待できなさそうだ。

しかも心なしかさっきから視線を合わせてくれないような気がする。さっきの事で照れてんのか?照れてんのかな?だとしたらクソ可愛いじゃねェか。好きだって言ったらこんな特典ついてくるんだったらもっと早く!……いや、それは良くねェな。そんなのはダメだ!


発車し出した列車の最後尾に手頃なスペースがあったから乗りこんだんだが、波は被るわ風は八方から吹いてくるわで落ち着いて一服も出来やしねェ。リリナちゃんの前で吸うつもりはねェけど。

「風も波もすごいね。苦しいよ」
「大丈夫かい?もし良かったら空気送ってあげるぜ?」
「髪が濡れてるから顔に張り付いて邪魔だよ」

床にしゃがみ込んで柵にしがみついてるリリナちゃんは綺麗な長い髪を鬱陶しそうに退けている。そんな仕草にそういえばと思い出してポケットを漁って、中から茶色いゴムを取り出した。

「あ、おれこんなゴムならあるぜ」
「ほんと?貰っていい?」
「もちろん」

揺れの激しい中で取りこぼさないようにとしっかりリリナちゃんの掌に渡すと恥ずかしそうに肩を竦ませた。可愛い。すげェ可愛いし、ちょっかいを出すのが少し楽しい。しかも高い位置で髪を結んだ事によっていつもは隠れてる項が現れておれの心は更に擽られる事になった。短い後れ毛がなんとも言えん……!
そんな甘い雰囲気をぶち壊すように後ろの扉が開かれて、中からヒゲの男が出てきやがった。

「いやァ外はすごい嵐……」
「"首肉コリエシュート"ォ!!」

リリナちゃんと二人っきりの甘い時間を返しやがれクソ野郎。私怨を込めて蹴りをかましてやりながら車内に乗り込んでみたら思ったよりも人数がいた。

「誰だ貴様ァ!!」
「ぎゃーーっ!」
「まさか最後部にずっと乗ってたのかっ!」
「何者だ貴様ァ!」
「今の蹴りを見たぞ!ただの民間人じゃねェな!コイツァ只者じゃねェぞ!」
「……そんな事正面きって言われてもてれる」
「褒めてねェよ!」

んだよ、冗談きかねェのか。ノリの悪い奴らだな。これくらいの人数だったらとりあえずの準備運動くらいにはなるだろ。ま、やっと煙草が吸えるな。これだけ人数もいりゃリリナちゃんの負担も減るか。

「あっ!ちょっと待て!そっちの女、白ひげんとこの末娘風弄ふうろうのリリナじゃねェか!?」
「…………」
「話聞いてねェし!」

おれの斜め後ろにいるリリナちゃんは何やらどこかそっぽを向いてるみたいで、奴らの相手はしない。あたり前だ、さっきまでおれとラブラブだったんだぜ。てめェらみたいなクソ共なんか相手にするかってんだ。

「ナメてやがるな……おい、すぐにルッチさんに報告しろ!不審者が潜入してると!」
「待ちナイ!ゲホ。わざわざCP9の耳に入れる様な事じゃないジャナイ。ゴホ……どんな乱暴な不審者だろうとも恐るるに足らナイ!なぜならこの車両には……おれがいるジャナイ!!ゴホ……うっぷけむてェ!」
「ジェリーさんっ!」
「どうやって入って来たの?」

上を見てにこやかに話すリリナちゃんにつられると真上に顔があった。なんだなかなかでけェやつも乗ってたのか。

「ハッハッハッハッケホ!おれは南の海サウスブルーの空手のさかんなある島の王者なんだぜ?……そうおれはボクシングチャンピオン!」
「カラテやれよ」
「おい!そんな殺生な!!」
「"ジェリーオーロラフリッカージャブ"!!」

いきなり攻めてきやがるから少し驚きはしたがさらっと避けたが、あいつも意外と動けないわけじゃねェみたいで体勢が変わった。よし、リリナちゃんも無事だ。レディがいるってのに不意打ちとは礼儀知らずな野郎だな。

「ん!?逃げたか……。小僧、おれが長身だからってこの狭い車両で不利だなんて思ったらだめジャナイ」
「股の間からなんか注意されたの初めてだ」
「おれのボクシングは狭い場所ではむしろ有利!!ヨガ・スタイルだ!ヨガ1・2!1・2!」
「リーチ短くなったぞ!」
「そう見せかけて"スクリュードロップキック"!」
「もうボクシングルール無視かお前っ!」
「面白い人!」

ったく時間のムダだ。くそ、しかもリリナちゃんを笑わせやがって余計にムカつくぜ。さっさと片をつけちまおう。回転して蹴りを入れようとしてくる奴の上に飛び上がってタイミングを合わせて上から顔に足をぶち込めばちょうど頬に当たってぐりぐりとねじ込んだ。

「"串焼きプロシェット"!!」

穴があくように、まさに串刺しになるように。……一発で延びちまうようじゃまだまだなんじゃねェの。今のあいつを倒しちまえば後はもう同じような奴らばっかだ。後ろにいたリリナちゃんも前に出てうんと伸びをした。

「リリナちゃんのスタイルはこの中じゃ向いてないんじゃないか?」
「そう?そんな事ないと思うよ?ちゃんと風起こせるから大丈夫!」

おれが言ったのはそういう事じゃねェんだけどな……ぬけてるリリナちゃんも愛しいぜ。ほらっておれに証明するかのように風を起こして、車両にいた奴らを巻き込んで一掃した。何度か見てきたが、この技本来はかまいたちみてェに風圧で身を切り刻んでるようだが、今は狭くて座席も多いからぐるぐる回って切られては壁や座席に叩きつけられ、切られては叩きつけられで一石二鳥になってやがる。ちょっとした地獄絵図に嫌な汗が滲む。おれは絶対あの中に入りたくねェな。何も知らねェっての罪だよ、リリナちゃん。

……ちょっと待てよ。二人でこの列車に潜入してロビンちゃんを助け出すなんて、おれらかっこいいんじゃねェか!?も、もしかして恋人同士に見えてたりすんじゃねェか!?ぐふふっニヤける。絶対見えてるぜこれ。