突き刺さる槍はそれほど太くないので傷口は大きくないが、場所が悪いのか次々と血が流れ出ている。
2人で固まっていると手の中から槍が引き抜かれ、僅かな支えをなくした男の体がよろけた。けれど倒れる暇を与えないように払うように横殴りして飛ばされた。
「お前、何かの能力者か?刃物が効かねェとは、便利な身体だな」
「……」
飛ばされた男の側には心配そうに仲間と思われる数人が駆け寄った。目を滑らせて魚人の男を睨み付ける。何もなかったように口角をあげて話す神経は理解できない。少し前に味方を盾に使ったホーディが頭に思い浮かぶ。
片腕に風をまとい一点に意識を集中させた。競争相手が減った、案外脆いと騒ぐ男に向かって走り込み、顔面めがけて殴りつけると充分な手応えの後に、離れた広場を囲む壁まで吹き飛んで姿が見てなくなった。
一息ついて一層大きく見えるようになった舟の影を見上げた。広場に響く興奮した声はルフィがホーディに勝ったという知らせをくれた。
そんなとき目にとまったのは、味方を攻撃する幹部達。こいつらもやっているのか、と間に入ると、更に横から細い影が割って入ってきた。
「リリナさん!私がやらねばならないことです!お任せください!」
ブルックは自分の背中の遥か下にいるあたしを見下ろして言った。しかしあるものを見つけると裏返った声で叫んだ。
「キィヤアーー!リリナさん!それ、血じゃないですか!あなたがそんな……早く、早くチョッパーさんのところへ!」
「大丈夫だよ、自分のじゃないから」
「そんな痩せ我慢を!早く!ほら!」
ちょいちょいと大きな手であたしをその場から離そうとするブルックに押しやられて、渋々チョッパーのいるところへ向かった。
チョッパーの姿を見つけて声をかけようとすると、小さな体が一瞬のうちに大きくなり、シャボンディ諸島で見たあの怪物の姿になった。思わず短い悲鳴があがるが、どこか様子がおかしい。前は雄叫びをあげて暴走していたのに、今は普通に喋っている。どうやら暴走しないであの力を使えるようになったみたいだ。
麦わらの一味は圧倒的な強さをもって魚人海賊団の幹部達を打ちのめした。けれどノアの方舟は止まることなく、この広場に向けて未だに落ちてきている。
ルフィの姿は見えないけれど、気持ちだけでも届くようにと今いる広場からルフィを応援した。すると逃げ惑っていた島の住人達も、足を止めて上海にいるルフィへ声援を向け始めた。
「見てあれ!」
「あ、あんなでけェ奴ら……どこからやってきたんだよ!」
ルフィなら出来ると思っていても心のどこかで不安を抱えていると、突然離れたところからでもはっきり姿が見えるほど巨大な海王類が現れた。
何体もいる海王類はそれぞれ舟から垂れ下がっている鎖を咥え、落ちないように支えている。
『あ、あまりの出来事に一言では伝え難く……。しかし間違いのない事実!ノアは、止まりました!ノアを完全に破壊することもなく、魚人島は救われました!!』
実況された結果にわっと広場が歓声で沸いた。あたし達一味も両手をあげて喜びを分かち合う。
わいわいと会話していると変な声をあげてサンジくんがもの凄い形相で駆け寄ってきて、あたしの手を掴んだ。
「血だ!リリナちゃん怪我してるじゃねェか!早く手当てを!」
「ち、違うよ。これはあたしのじゃ……」
「そうでした!早くチョッパーさんに診てもらいましょう!」
乾き始めている血にさえ敏感に反応したサンジくんには違うと言っても届かない。そこへ第一発見者のブルックも加わり更に騒がしくなった。
もうこうなったらチョッパーに診てもらって事実を伝えてもらえば、2人は落ち着くだろうと思いサンジくんと連動して後ろを振り向くと、大きな姿だったチョッパーが元の大きさに戻っていて、しかも体はロビンの膝にぐったりと凭れかかっている。とても手当てをしてもらえるような状況ではなさそうだった。
「
「おめェに言われたくねェ」
まずはチョッパーを休ませてあげよう、と静かに見守ることになり、あたしも冷静になったサンジくんに説明をすると、やっと理解してもらえた。
そんなときフカボシが傷だらけのホーディとバンダー・デッケンを連れてきて、目の前で鎖に繋いで広場にいる人々に安全であることを示した。
広場にいたときと変わり果てた姿をしているホーディを見て住人だけでなく、魚人海賊団の手下達も恐怖を覚えた。
これで争うこともなくなるだろうとひと息ついていると、空からしらほしの泣き声が聞こえてきた。
「帰ってきましたよー!ルフィさん!」
「お助け下さいませ!ルフィ様の血がお止まりになりません!わたくし達の為に無茶をなさって!」
たくさんの涙を流しながら広場へやってきたしらほしの両手には、目を瞑って眠っているみたいだ。そっとチョッパーの側へ下されたルフィに駆け寄り、頬を突いてみたけれど反応はない。
体を上手く動かせないチョッパーの助手としてロビンが率先して名乗り出た。リュックの中から言われた通りのものを取り出して、主に顔を支えて動作をフォローした。チョッパーの顔は潰れて変形していて何か間違ってるような気もするけど、特に支障はなさそうだからあれで正解なんだと思うことにした。
「ルフィ様お助かりになられますか!?」
「血は止まるけど流血の量がすごい。血が足りねェぞ!誰か血液型F型はいねェか!?」
「うちにはルフィ以外Fはいねェからな」
「広場に誰かいるだろ」
「誰かーー!」
広場の周りにいる人々に呼びかけても1つも反応がない。そこでチョッパーが法律で人間に血を与えてはいけないと決められているんだと思い出した。それを聞いたナミが率直にひどいと声をあげる。
「わ、わたくし血液型違いますけど赤いです!ダメですか!?」
「うんよし!気持ちだけありがとうな!そうだ、人間の海賊がいる!」
切羽詰まった状況に、堪らずしらほしが名乗り出るけれどチョッパーはお礼だけ告げてやんわり断った。今度は人間達に呼びかけようと口を開いたところに、すっとジンベエが現れた。
「わしの血を使え。Fじゃ!いくらでもやるわい!」
「ジンベエ!」
法律は、と聞くと自分は海賊だ、と言って押しのけられた。
それなら、とさっそく輸血の準備を始めた。たくさんの血をもらうことになるからと、ルフィの隣に寝てもらう光景は心温まるもので、このリュウグウ王国が築かれてから初めてのことだろうと思う。