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ジンベエから輸血してもらいルフィの血が充分に巡った頃、珍しく静かに目を覚ました。そして突拍子もなく、元気な声でジンベエに仲間になれ!と勧誘した。
少し驚いたようで目を瞬かせたジンベエは穏やかな顔で、そうじゃな、と曖昧に返した。

「じゃが、今すぐに返事はできん」
「はァ!?なんでだよ!!」

ジンベエの返事に対して起きあがって掴みかかりそうになるルフィを、チョッパーが止めに入った。理由を話そうとしているジンベエに聞く耳を持たないルフィにうんざりして、ウソップはため息をついた。

「とりあえずよ……どこか場所を移さねェか?なんか居心地悪くて仕方ねェや」
「そうね。船もこんなところに置いておくわけにもいかないし、移動しましょう」


しらほしにお願いをして手助けをもらい、サニー号ごと広場を後にした。風来クー・ド・バーストと違ったゆったりとした空中移動は気持ちが良かった。

「なんで断るんだよォジンベエー!一緒に冒険しよう!」
「そうだ仲間になれ親分!」
「元七武海がいたら心強ェー!あとルフィ絶対安静な」

船べりに掴まって街の風景を眺めていると、未だにジンベエに詰め寄るルフィの声が邪魔をしてきた。

「じゃから今は無理だと言うとるだけじゃ!誘ってくれたことは本当に嬉しく思う。お前さんらと海を行くのはさぞ楽しかろう。……しかしわしにはまだやらにゃあならんことがある!現在の立場というものがあるんじゃ。……今はそこを離れて来ただけ。人の道に仁義を通し、すっきり身軽になったとき、今一度わしはお前さんらに会いに来ると約束しよう。そのときにまだ今の気持ちのままでおってくれたなら、もう一度誘ってくれんか。麦わらの一味に!」
「……、絶対だぞお前!」

やっと話を聞く態勢が整ったことで、ジンベエが理由を話してくれた。ちゃんと筋を通すと言っているけど、今すぐ仲間にならないことが不満なのかルフィは笑顔に戻らない。
けれど約束はできた。ジンベエと同じ船に乗るなんて考えただけでワクワクする。


この後どうするかとゾロが話を切り出したところで、国の兵士があたし達を呼び止めた。電伝虫を通じてネプチューン王から、当初の予定だった宴の仕切り直しをしようと持ちかけてくれた。

サニー号を港へつけて、案内されるまま竜宮城の中を進んでいくと広くて暗い広間に通された。こんなところでやるのか、と思っていると正面にスポットライトがあたり、ステージが照らされた。そこに立っている女の人がなんとも綺麗な歌声を披露し始める。それがスタートだとばかりに周りが騒がしくなり、マーメイド達があたし達を囲むように踊り出した。もちろんサンジくんはいち早く反応してシャボンにへばりついている。

「アウ!こんな席だ、お前もたまには飲んだらどうだ!ナミには内緒にしてやるからよ!」
「いいの!?ありがとうフランキー!」

渡されたグラスで乾杯を交わして勢いよく喉へ流し込むと、カッと奥が熱くなるのを感じた。久しぶりのお酒に一瞬視界が揺らいだけれど、目の前に用意された料理が目に映り、さっそく口の中に運んだ。

「いい飲みっぷりじゃねェか。なんでったってナミの奴はこいつに禁酒させてんだ?」

フランキーと豪快に笑いながら注がれるお酒を何杯も空けていった。そんなとき、一升瓶を片手にやってきたゾロがあたしがお酒を飲んでいることに驚いて目を丸くした。

「お前、何ともないのか?」
「なにが?」
「なにがって、お前酒飲むとすぐに潰れんだろ」
「そうだっけ?」

あっけらかんと首を傾げると呆れたようにため息をついた。飲めるなら飲めと空いたグラスに持っていた瓶の中身を注いだ。ゾロも上機嫌になっているようでニコニコしている。

「おめーは嫉妬とかするのか?」
「しっと?……なんでいきなり〜?」
「あのメロメロコックを見て何とも思わねェのか?」
「ん〜……」

嫉妬ってヤキモチだよね。上手く回らない頭でいろいろと考えてみる。始めからサンジくんはナミやビビ、ロビンに対してメロメロしてたし、あたしに対してもそうだったから普通だと思ってた。自分の気持ちが変わってもそれは変わらないと思うんだけど。
けれどどこかに心当たりがあるのか胸のあたりがモヤモヤして、答えなんて出てないのに吐き出してしまいたくなった。

「おめーはあんなの見せられて何とも思わねェわけねェよな。我慢してんだろ?」
「…………」
「おい、」

フランキーが言うあんなのというのは、今まさにニコニコと笑う人魚達に囲まれて全身溶けきっているサンジくんのことだろう。

「ううん……」

何も思わないわけはない。けれどサンジくんのことを考えていると、だんだん睡魔に襲われて瞼が重くなってきた。グラスを置いて離れたところで人魚達に囲まれるサンジくんも、少しずつぼやけて見えなくなる。それ以降のことは覚えてない。



目を覚ましたときには毛布がかけられていて、宴は今も続いていた。起きたか、と側にいたハチとケイミーが気にかけてくれて、ジュースの入ったグラスをくれた。

「ニュ〜〜。すまねェな、ナミにもう飲ませるなって釘刺されてんだ」
「リリナちん、たこ焼きあるんだけど……食べる?」
「食べる!」

手土産として持ってきたはいいが、豪華な食事を前にして出すに出せなくなったとケイミーは残念そうに、ハチも手土産としてたこ焼きは失敗だったと眉尻を下げている。

冷めてしまっているけど美味しい。寝る前に出されたものを全部食べたのに、たこ焼きも貰った分は全て食べてしまった。


やっと満腹になったところで一息つくと、目に入ったのは離れたところで手を振っているサンジくんが目に入った。手を振り返すより側に行きたいな、と立ち上がろうとするとフカボシとマンボシが来て調子はどうかと気にしてくれた。もう大丈夫だとお礼をして、一通りの会話をしてからサンジくんの方へ視線を向けたけど、しらほしと楽しそうにしていて、さっきまでのドキドキした気持ちは削がれてしまった。