サンジくんに自分から好きだって告白して、そしたら俺もだよって抱きしめてくれて、それから……。
優しく唇を重ねてから、包むようにぎゅっと抱きしめられてからそれなりの時間が経っただろう。始めのうちは心地よさに夢中だったけれど、ふと我に返って一気に恥ずかしさに襲われる。そして意識するだけ、さっき唇に感じた柔らかさが蘇ってくる。顔を横に振って振り払うと、心配したサンジくんが顔を覗いてきた。
「酒がまだ残ってるとかない?」
「ないよ!もうスッキリしてる!」
ギクシャクしながら全力で否定すると困ったように笑っていた。そんな顔をしてるサンジくんにも心が弾み、ストンと落ち着くようにキスした事実を素直に受け入れられた。
サンジくんは2年経った今でも変わらずあたしのことを好きでいてくれた。やっと気持ちを伝えられたことも、サンジくんからも好きって言ってもらえたことも、今までで一番サンジくんを一人占め出来たことも今になって嬉しさがこみ上げてきて、緩む頬を抑えることが出来ない。
「そろそろ戻ろうか」
サンジくんはゆっくりを体を離してくれた。名残惜しい気もしたけれど、一度頷くと座った体勢からあたしの手をとって一緒に立ち上がった。
「愛してる」なんて言われたの初めてだし、好きとは違う特別な感じがした。あたしもサンジくんに言ってあげなきゃ、と思ってもなかなか口から出てこなかった。
(ちゃんと、自分から言えるようにならなきゃ)
隣を歩くサンジくんを見上げると、すぐに目が合ってにっこり笑顔を向けられて、慌てて目をそらした。いざサンジくんと対面すると恥ずかしさに負けて、今すぐには無理だと弱気になって言葉にすることは出来なかった。
来た道を戻っていると、横を通り過ぎるナミとウソップを見つけて追いかけた。ナミは珍しく足取りが覚束ないし、ウソップはお腹が膨れすぎて歩くのが辛そうにしている。
「なんだお前ら2人して。どこ行ってたんだよ」
「……えっと、」
「バーカ、デリカシーないわね」
口ごもっていると鋭く察したナミが、ウソップの背中を叩くとバランスを崩して床に転がってしまった。それを気にする素振りも見せずに、にっと歯を見せて笑ったナミに顔が熱くなった。
大きな扉が見えると、シャボンはそこで途切れていて行き止まりになっていた。扉の前に続く階段を数段下りてシャボンが遮る海中に手を伸ばすと、その先で泳いでいた魚達が寄ってきた。けれど何かを察すると俊敏な動きで泳いでいってしまう。
その後チョッパーがほぼ寝ているゾロを抱えて合流すると、それに続くようにルフィとジンベエがたくさんの食べものを抱えてやってきた。
世界情勢をルフィに教えるために宴の席からここへやってきたと言うジンベエは、まず赤犬と青キジがセンゴクの後任として元帥の座をかけて決闘をしたことを話し始めた。センゴクは海軍だけど話を聞いてくれる人だったけれど、赤犬はそうはいかない。すごい石頭の大っ嫌いな敵だ。
「ええかお前達。この2年の新世界でも最もデカイ変化を2つ覚えておけ。サカズキ率いる海軍本部はより強力な正義の軍隊になっておるということ。もう1つは黒ひげ海賊団の進撃じゃ」
「黒ひげ……モックタウンで会った奴らね」
「おれの故郷、一度潰した奴!」
「赤髪、カイドウ、ビッグ・マムに並び、四皇の1人と位置づけられておる。憎たらしい男よ……!」
オヤジを殺し、グラグラの実の能力まで奪った裏切り者だ。長い時間が過ぎてもあいつを憎む気持ちは少しも薄れたりしない。それはこの一味に加わったとしても変わらない。
「噂によると奴ら今、能力者狩りに奮起しとる。どういう訳か、能力者を殺しその能力を奪い取る術を奴らは持っておるんじゃ……!黒ひげ達の狙いはより強い悪魔の実の能力。気をつけろ」
頂上戦争で黒ひげがグラグラの実の能力を手に入れて、敵としてその能力を目の当たりにしたときは手が震えた。力が大きすぎて敵に回すとこんなにも恐ろしいものなんだと痛感した。
「ルフィくんに至っては黒ひげティーチとの因縁も深い。それに一味にリリナも加わったとなれば、何をしでかすか分からん。充分に……ルフィー!聞いとんのかワレァ!」
深刻な話をしているのに背中を向けて、甘いものを食べ漁るルフィに気付いて大声をあげたジンベエをサンジくんが宥めた。どんなに大声をあげても、意識がお菓子にいってしまっているルフィには届かない、
「まージンベエ、楽に行こう!おれ出たとこ勝負好きだし!」
「……お前ら大変じゃのう」
「そうなんだよ」
無駄だと分かったジンベエは脱力して肩を落とした。人の気も知らないルフィは何かを探すように辺りを見渡した。
「おいゾロ、サンジ!この城猛獣でもいんのかな……」
「……確かに」
「なんかいるな」
「なっリリナもそう思うだろ?」
「間違いないね!」
気になるから散歩がてら行ってくると、ゾロとサンジくんを連れて歩き出したルフィを追いかけようとすると、ナミに腕を掴まれて引き止められた。
「あたしも行きたい!」
「アンタは駄目!ほらケーキ食べて待ってるの!」
「……」
側にあったケーキが目の前に来て、誘惑と戦っていると既に3人は離れたところを歩いていた。負けた悔しさにじっと3人を睨むと、サンジくんが笑顔で大きく手を振っていった。あんなに笑顔ならサンジくんも加勢してナミを説得してくれたら良かったのに。
「危なかった!重ね重ね礼を言う!財宝泥棒め、まだ場内におったとは!普段はメダカ1匹侵入不可能の城だが戦いの最中、門は開いたままで……」
3人が戻ってきてしらほしがカリブーに襲われていたと報告すると、兵士が深く頭を下げた。
「見ろ。この竜宮城、右側の塔などスッパリ斬られておる。おそらくあの財宝泥棒が我らの留守に……」
「いや、あの塔斬ったのはコイツだ!檻からの脱出に柵も部屋もまーハデにぶった斬りやがって」
「あいつのせいにしとけよバカヒトデ」
戦いの前に檻から出るときゾロが大胆に斬ったあの塔のことを蒸し返された。誰にも見られていなかったのであのカリブーのせいという話になっていたのを、横からパッパグによってバラされそうになった。ゾロからツッコミが入ったけど、そっぽを向いていた兵士の耳に届いていなかったようでホッとした。
「ちょっと待って、右大臣ちゃん!財宝泥棒って何!?」
金目の話になり、すかさずナミが話に割り込んできた。広場での戦闘中の手薄なときを狙ってカリブーが城に保管されていた財宝を全部盗んでいったらしい。お金の話にうるさいナミは兵士達や国王よりも騒ぎ始める。
「イヤナ予感……」
「国の財宝でしょ!?追わないの!?」
「命ある国民達が救われた後では財宝も軽く見えてな……」
「じゃあ私たちが取り返したら?」
「全部やろう。国の恩人に渡るなら本望じゃもん」
話が進み手に入る方向に持ち込んだ途端に目がベリーなったナミに、勘が働いたゾロとルフィは冷や汗を垂らす。
「あんた達何であいつ吹き飛ばしたのよ!なぜここで殴って縛り上げなかったの!?」
「え」
「さっさと探してらっしゃいよー!」
お金パワーでもの凄い力を発揮したナミは帰ってきたばっかりの3人を蹴り飛ばして、無理矢理奪い返しに行かせた。
(あーあ、いなくなっちゃった)
またサンジくんと離れてしまったことを内心残念に思いながら、まあナミのことだからしょうがないと気持ちを切り替えた。