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海面にあがってすぐ見えた島に行こうと言い張るルフィを、指針が指していない異常な島だからと説得をしても、逆にルフィの好奇心が煽られるだけでほとんど聞く耳を持っていない。
島を取り囲む大きな炎の壁によって近づくことも出来ずに荒波に耐えていると、いきなりダイニングから悲鳴のような声が聞こえ始めた。

すぐに走ってダイニングに駆けつけるルフィを追っていくと、いつもの定位置で電伝虫は大粒の涙を流して泣いていた。

「プォッホーーホホホォーー!」
「おーいコレなんだ。電伝虫が泣き出した!おいどうした、ハラでも痛ェのか!?」
「バカそりゃ緊急信号だ!誰かが助けを求めてる!」
「じゃ、取れば通じるのか?」

可哀想なくらい涙を流している電伝虫は何度か見たことはあるけどいつ見ても慣れないもので、どうにかしてあげたい気持ちを押し殺してじっと鳴り止むのを待っていた。

「待ってルフィ!緊急信号の信憑性は50%以下よ!海軍がよく使う罠の可能性も高い!出て盗聴されれば圏内に私達がいるとバレるわ!」
「さすがロビン!おいルフィ、ここは慎重に考えてから」
「もしもしおれはルフィ!海賊王になる男だ!」
「早いし喋りすぎだァ!」

ロビンの忠告を聞かないで受話器を取ってしまったけれど、罠だと思い込んでいた電話の向こうからは切羽詰まったような声が聞こえてきた。

『助けてくれェーー!あァ……寒い。ボスですか?』
「いや、ボスじゃねェぞ。そこ寒いのか!?」
『仲間達が……次々に斬られてく!サムライに殺されるーー!』
「おい!お前名前は!?そこどこだ!?」
『誰でもいいから助けて。……ここは、パンクハザード!!』

居場所を告げてすぐ悲鳴をあげて通信が切れた。苦しそうな表情をしていた電伝虫は、またいつものように目を瞑って寝てしまった。

電話の向こうで完全に事件が起きていることと、ゾロやブルックが話していたサムライというまだ会ったことのないワノ国の人達に興味を持ったルフィは、一番近いあの島から通信かもしれないロビンの後押しによって、あの島に上陸することを決めた。


行きたくない側と行きたい側に分かれたことで公平にくじ引きで決めることになり、ルフィを除いた面々で行われた結果ゾロとロビンとウソップが付いていくことになった。

「あたしも行きたい!」
「じゃあおれと代わってくれ!」
「リリナちゃん、この後おれが深海魚でデザート作るから楽しみにしててね〜!」
「デザートやった!」
「気が変わるの早すぎ!!」

涙を流してウソップが赤い印のついたくじを差し出してきたけれど、横からサンジくんがデザートを作ってくれるというから楽しみに待つことにした。


ミニメリー号に乗り込んだ4人は、ナミのミルキーロードという新技で雲の道を作って、その上をつたって高い炎の壁を越えて島を目指していった。

「いいなー楽しそう。ミニメリーまだ乗ったことない!」
「あの雲島まで届いてるんですか?」
「さァわかんない」
「あ〜……ルフィのお供くじ外れてよかった〜。暑いのダメだおれ」
「1人で行かせるわけにはいかないからね。何もないって分かったらすぐ帰って来るわよ」

ワイワイ騒ぎながら見えなくなっていく偵察隊を見送ってから、ダイニングへ向かうサンジくんの後に続いた。
中へ入ったところでサンジくんがあたしの存在に気付いて首を傾げた。

「どうした?」
「お腹すいたの。あたしもお弁当食べたい!」
「でも残りものしかないよ?」
「平気!」

キッチンに立ったサンジくんに笑いかけて、久しぶりに定位置であるカウンターに座った。用意してもらった料理を口に運ぶと中で広がる美味しさに、思わず頬が緩んだ。

「そういえばサンジくんのご飯久しぶりだね。やっぱり美味しい」
「そうかい?嬉しいよ」

ボウルで何かかき混ぜながら微笑む姿にドキッとした。その後魚人島での出来事を思い出して恥ずかしくなって、用意されていたコップの水を飲んだ。

(サンジくんは思い出したりしても恥ずかしくならないのかな……)

一口頬張った後、甘い香りを漂わせているサンジくんを盗み見ながら考えてみた。そしてまたあの場面を思い出して顔が熱くなる。

(あんなこと出来るんだもんね……。恥ずかしさなんて感じないか)

最後の一口を食べた頃にはだいぶ落ち着きを取り戻していた。そしてタイミングよく差し出されたデザートに手を伸ばす。

「さっきから百面相してどうかした?」
「えっ……!?」
「何か考えごと?」
「う、うん……そんな感じ」
「へぇー。……。」

いろいろと考えていたときを見られていたらしく、ひと段落ついたサンジくんは隣に座って顔を覗き込んできた。嬉しそうな顔をしてじっと見つめてくるもんだから、恥ずかしくて誤魔化すように甘いものを口に運んだ。

「空島じゃ至近距離になったって気にもしてくれなかったのに」
「そうだっけ?」
「覚えてもないんだ……」

肩を落とすサンジくんを励まそうと言葉を探しているうちに、ぱっとあがった顔は満面の笑みを浮かべていた。

「でも今こうして可愛いリリナちゃんが見られるなら努力の甲斐あったわけだ」
「……サンジくんも可愛いね」

笑顔を絶やさないサンジくんはなんだか子どもみたいで可愛い。率直に口に出すと目を丸くした後困ったような笑顔に変わった。

「可愛いは嬉しくないけど、リリナちゃんに言われんのは満更じゃねェかもな」

なにかを思い出したサンジくんはキッチンの方でたくさんのお皿を手に持ってこちらへやってきた。今度はクレープだといって目の前に置かれたものは綺麗に盛りつけされている。
メインの横で控えめに主張しているハートマークの形をしたソースが目にとまった。咄嗟にダイニングを出ていくところのサンジくんを振り返ると、さっきのパフェにもあったんだよ、とウインク付きで言われてしまった。

出て行ってしまったサンジくんに謝ることも出来ず、大事に切り分けて口に運んだ。


「……ん、」

いきなり近くに見知らぬ気配を感じ、開けたままの扉の方を向くといきなり視界が揺らいだ。一気に瞼が重くなり意識がぼんやりしてくる。

「サンジ、くん……」

上手く動かない口で名前を呼ぶと外でガラスの割れる音がした。ちょっと遅かったかな、と思いつつ気持ち悪さも感じるほどの睡魔に勝つことも出来ずに目を閉じた。