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うっすらと意識が回復すると、心地よいトーンの話し声が聞こえてきた。このままもう一度寝てしまいたい、と思ったけれどチョッパーの弱々しい声が聞こえたことで眠気は少しずつ飛んでいった。

重たい瞼を擦って辺りを見渡しても何もなく、何があったんだっけと考えるとあくびが出た。船に残っていた仲間達だけが閉じ込められているように集まっていた。

「おう起きたか」
「どんな状況でもアンタが最後ね」
「みんないる……」

足を抱えて座り込んでいるナミの横で、先程聞こえた声の通りやっぱり怯えた目をしているチョッパーがいた。そして目を覚ましたことで側へ来たサンジくんが優しく髪を撫でてくれた。優しい手つきとは別で、表情は固くて穏やかではなさそう。

足や手を拘束されているわけでもなく、この部屋の中では自由に動き回れるらしい。意識がなくなる最後に心配したサンジくんも、他のみんなもとりあえず無事そうで良かった。


「ここは?」
「催眠ガスで眠らされて攫われたのよ。壁が頑丈に出来てるみたいで出られないし、ここがどこだか分からない」
「おれ達売られちまうのかも……」
「バカ言え。なんとかなる」

窓がない無機質な壁に覆われた部屋は大きな扉が1つあるだけで、部屋と呼べるような場所ではなさそうだ。壁には凹みが出来ていて、サンジくんがやったんだろうとすぐに分かった。

「おぬし達、判じ物は好きか?異国語でパズル」
「え?誰か喋った?」
「いや……おれ達じゃねェ……」
「たぶんコレだ!」
「これとは何だ!」
「わーー!」
「ぎゃーー!おばけーー!」

急に知らない声が聞こえて周りを見渡すと、チョッパーが放置されているブロックのようなものを見つけた。すると威嚇するように飛び跳ねたものだから、驚いてあたしにぶつかってきた。あたし自身もびっくりして飛び込んできたチョッパーをそのまま腕の中に収めた。

「何だこりゃ……」
「新種の電伝虫か?」
「8匹もいるぞ。気付かなかった」

低いところで喋る得体の知れないものを座り込んで観察するサンジくんとフランキーの陰に隠れて覗き込んだ。

「虫畜生ではない!おぬしらそう悪党ではないと見受ける。これら全て拙者の顔でござる!すまんが、ちと組み上げてはくれんか?」
「顔?……そういやこれは口、これは目で……」

確かに転がるブロックが喋るたびにぱくぱくと動く口のようなものがある。よく見ると目が2つに鼻と、耳も2つ。それをフランキーが組み立てると顔が完成した。

「本当だ!顔になった!」
「だいぶパーツが余っておるでござる!」
「……こうじゃない?」
「全然違うぞ!」

パーツが余っていると指摘を受けてナミが横から現れて組み直した。言われた通り余りを全部使ったから余計に顔らしくなった。

「これがいいよ」
「だはは!」
「あたしもやりたい!」
「遊んでおらんか!?」

パーツを組み合わせて遊んでいるとフランキーが閃いたのか、最後に手早く組み立てると一番近い顔の形になった。

「出来た!こうだ!人の顔になったー!」
「少々顎と頭に違和感を感じるが……まあいいでござる!かたじけないっ!」
「生首が喋ってるー!!」
「遅いわ!」

顔が平然と喋ったことに驚いて飛びあがった。やっぱりおばけだったかともう一度距離をとる。

「何で生きてんだ!?悪霊か!?」
「拙者にもわからん!好きで首だけでおるのではない。名も知らぬある者に斬られたのでござる!死んだと思いきやこのあり様。敵に斬られて生かされるなど武士の恥!腹を切って朽ち果てたいところではあるが、今は生き恥晒しても成し遂げねばならぬことがある!」

何か小難しいことを言っているけど、この首だけにもやることがあるみたいだ。


「ところであんた、ここがどこだか知ってんの?」
「あんただと!?女身空が武士である拙者にィ!?何だその物言いは!女なれば男の後ろ三歩下がって淑やかに慎ましく物を申せ!」
「なによコンニャロー。生首のくせに生意気よ!顔を組み立ててあげた恩人に対して!」

文句を言ってきた首だけを指で摘んだナミに女が暴力など、と怯むことはなく、更に服装が薄着なところを見て身ぐるみを剥がされて気が荒れているんだろうと推測してきた。

「別に身ぐるみなんか剥がされてないわよ。こういうファッション!」
「何と淫らな!乳バンドのみではないか!」
「あら、お嫌い?」
「お好きでござるっ!」

ナミが笑って問いかけると今まで顔を一変させて頬を赤くして変態顔になったところに、すかさずサンジくんの足で痛めつけられ、最後に壁に蹴り飛ばされた。チョッパーは頭蓋骨が折れるかもしれないのに痛くないのか、と顔を青くしている。


「さておぬしら一体何者だ!?船から連れて来られた話は聞いていた」
「おれ達は海賊だ」
「……海賊!?海賊かおぬしら、道理で野蛮!拙者、吐くほどに海賊が大嫌いでござる!」

海賊と分かった途端、眉毛をつり上げ恐い顔をし始めた首に忙しい人だと呆れた。嫌われることなんて慣れてるから別に気にはしない。

「時同じくこの氷の島に居合わせた縁で共に脱出をと考えたが残念。海賊ではな!」
「んん?おいおい氷の島って何なんだ。ここは燃える炎の島じゃねェか!」
「そうだそうだ!海まで燃えるボーボーの島だ!」

どうやらナミは船にいた時点で島がおかしいことに気付いていたらしい。炎が燃え盛る島の向こう側は、氷で覆い尽くされた極寒の島だということだ。そしてあたし達は誰かによって炎の反対側まで連れて来られている。

部屋を出よう、と話題が変わるとすかさずフランキーがビームを出す構えをとった。

「どいてろ、コーラは満タンだ!」
「おいおい、ちょっと待て!」
「Wフランキー ラディカルビームW!!」

コーラ満タンの威力は絶大で、重くて頑丈そうな扉を破壊して残った瓦礫をフランキーがどかすと、ぽっかり綺麗な通り道ができた。