さっそく出て行こうと足を向けると、サンジくんが振り返り床に置きっぱなしの生首に話しかけた。
「お前どうすんだ。おれ達が海賊じゃなきゃ一緒に逃げたかったんじゃねェのか?」
「黙れ!行け海賊」
「一人で首だけで逃げられる見込みはねェだろう?」
素直じゃない生首は口をへの字に曲げてそっぽを向いた。その態度にため息をつき、組み立てていた生首の顔の上と下のパーツを外し、そのまま上下逆になるように付け直した。すると以前見たことのある特徴のある髪型に変わり、無意識にあ、と声が出た。
「なァ、ワノ国の侍!」
「えェ!?」
「サムライィ!?そいつが〜!?」
髭と髷の位置が逆になったことで、ぴったりと顔がくっついた。さっきまでのもしっくりきていた、と思っていることは外に漏らさずにしまい込んだ。
「このチョンマゲはワノ国特有のヘアスタイルだ」
「じゃあ、電伝虫の人斬りはコイツなのか!?」
「無差別に斬るから誰かにやられたのかな?」
ここへ来る前に電伝虫の向こう側の人が言っていたサムライというのはこの人で間違いないだろう。ワノ国の人間が外の海に出ることなんて早々ないはず。
サンジくんが連れて行こうかどうかと決めかねていると、廊下の先から何人もの人の声が聞こえ始めた。捕まるわけにいかないため早く行こうとナミが急かすけれど、頭を掴んで離さないサンジくんはその場を動こうとしない。
「おれ達はお前に斬られた奴らからの緊急信号を受けてここに来るハメになったんだ、侍!」
「サンジ急ごう!コエー侍置いてってくれよ!」
「拙者、己を恥じるような人斬りはせぬ!……この島に、息子を助けに来た!!邪魔する者は何万人でも斬る!!」
声を荒げてきつく睨みを利かせる侍を、じっと見下ろすサンジくんはそれでも動こうとしない。
「行こう、サンジくん」
複数の気配が近くまで来たのを感じ取り、急かすように声をかけた。すると一度こちらへ視線を向けたサンジくんは行こう、と短く口を開いてあたしの背中にそっと手を添えて促した。
道は分からないけれど、とにかく追っ手から逃げるように反対側へ向かって走り出した。
「連れてきたのかよ!?危ねーよーそいつ!」
「責任はおれが取る!」
少し走った先にあった扉を蹴破るとぱっとカラフルな色が飛び込んできて、その次にたくさんの子ども達が視界に映った。子どもといっても普通の大きさの子もいれば、巨人族の子どもなのか体の大きな子もいる。
「でけェ子供!?」
「ガキだらけ!何だここ!」
「誰なの!?」
「知らない人たち……!」
「でも、ロボがいる!」
こんな建物の中にたくさんの子どもがいることに困惑しているあたし達を見て、向こうもあからさまに不安げな表情を浮かべている。
「氷った人たち!?逃げてきたの?」
「氷った人?」
男の子達はフランキーの姿を見るなり、いつものルフィ達のように目を輝かせて騒ぎ始めた。
「大きさが様々だね」
「そうね。そんなに大きくない子もいる」
「ロボー!」
「クワガタ!」
「みて!タヌキのぬいぐるみ!」
「あ、まゆげぐるぐる」
「うっせーガキィ!」
「おいおぬしら!モモの助という子を知らぬか!?男子でござる!」
サンジくんに抱えられている侍がいきなり声をあげたせいで、驚いた子ども達は一斉に背中を向けて逃げ惑うようになり、一気に部屋中が悲鳴でいっぱいになった。
「バカ黙ってろ!何も聞けなくなるだろ!」
「おい追っ手が来た!とにかく奥へ進め!」
奥にももう一つ繋がった部屋があるようで、子ども達と一緒に奥の部屋へ向かった。少しでも落ち着いてもらいたいのに侍が叫ぶせいで一向に騒ぎが収まる気配がない。
そうしている間に追っ手がこの部屋に入ってきた。
「ねえロボットさん!島の外から来たの!?」
「ああもちろんだ!だが少年、おれはサイボーグ!」
「船持ってるの!?」
「そりゃおめェ、うちのサニー号は世界で……」
「助けて!!……ねえ!」
「!?」
思いもしなかった助けを求める言葉に一味のみんなは揃って眉を顰めた。フランキーへ助けを求めた男の子を皮切りに、他の子ども達も不安げな表情に涙を浮かべてあたし達を引き止めた。
「ぼく達もう病気治ったよ。みんな元気だよ!」
「病気……!?何のだ?」
「おうちに帰りたいよー!ねえ助けて!」
「な、なんか変じゃない?」
「リリナちゃん!」
こんな可愛い装飾がされている部屋に、こんなにたくさんの子どもがいる。しかも外は安全とは程遠い島。保護していると考えられるけど、それが逆に怪しくもさせる。サンジくんに前へ進むよう急かされても後ろにいる子ども達が気になる。
「よーしよし子供達!そこ行くのはコワイ人達だ。こっちへおいで。その人達に眠ってもらうからね!そこにいたらケムリ鉄砲撃てないよー!」
声のトーンをあげて呼びかけると、子ども達は部屋の壁の方へ避難していく。子ども達が避けたことで追っ手との間に遮るものがなくなった。
「やってくるなら先にやろうよ」
「おめーあんまり暴れすぎんじゃねェぞ」
「ゴメン……。今追われてるから!」
「……じゃあ、あとで助けにきて!知ってるよ、この建物から出たことないけど!この島何もないんでしょ?町も誰もいない!……だから助けも来ない!お父さんとお母さんに会いたいよ!お姉ちゃん戻ってきてね!あとで助けにきてね!」
助けてとお願いしてきた女の子は走って離れようとするナミを見てついに涙を流してしまった。それほど必死に訴えかけてきた女の子にナミは走るのをやめて子ども達を見つめた。
「助けよう!子供達!」
「何言ってんだナミさん!理由がねェよ!病気とも言ってたしここは病院かも知れねェ!たった今会ったばっかで何の事情もわからねェ!人助け稼業じゃあるめェし!」
「それは、わかってるけど……子供に泣いて助けてって言われたら!もう背中向けられないじゃない!!」
ナミもきっと子ども達の言葉を全部信じきれているわけじゃないと思う。けれどこんなにも助けを求められて見過ごすことは出来なかった。
「ガキ共がどかねェ!このままじゃ逃げられる!」
「構わねェ、ガキごとやっちまえ!」
「WヴィルベルヴィントW」
「W
追っ手の会話が耳に届いたときには既に体が動いていて数人まとめてなぎ倒していた。それと同時にサンジや、チョッパー、フランキーも敵を圧倒して攻撃を防いだ。
「子供に優しいナミさんも素敵だ。またホレちまうぜ!」
「こやつら、海賊と言っても相当な海賊!」
「チョッパー、お前先行ってナミさんのお供しろ!それからリリナちゃんも連れてってくれ!」
「わかった!ホチャーー!」
「おいガキ共!キレーなお姉さんと可愛いお姉さんと、それからカンフー狸についていけ!追っ手はおれ達が食い止める!……だが間違えるな!おれはお前らを救いたいというナミさんの美しい心に応えるだけだ!ナミさんに庇われるお前らなんかむしろ大嫌いだ!」
「ぐるぐる兄ちゃんありがとう」
「ウッセークソガキ!」
子ども達には見向きもしないで敵と対峙するサンジくんに堪らず小さく吹き出した。ナミのためとは言ってても結果的に子ども達を助けることになっているんだから、優しい人だなってつくづく思う。
(ナミのためか……)
気持ちを伝えて通じ合っても、あたしが変わらないようにサンジくんも今まで通り女の人に優しい紳士であることに変わりはない。それは当然のこと。
(……モヤモヤして気持ち悪い)
いつか感じた答えはないのに吐き出したい衝動に駆られた。何を言いたいのかは分からないのに。正体不明のざわつきが鬱陶しい。