222

「わ!」

正体の分からないぼんやりしたものに気を取られて突っ立っていると、突然お腹周りに腕を回され後ろへ引かれた。軽い衝撃を受けて振り向くと、サンジくんの顔がすぐ近くにあって心臓が飛び跳ねる。

煩い心臓の音を聞いていると、サンジくんの口に煙草が咥えられていることに気付く。いつも煙草を咥えてるところなんてこんな間近で見られないから思わず見惚れてしまった。するとサンジくんが困ったように笑って、また強く引き寄せられた。

「そんな顔しないで」
「え?どんな顔?」
「んー、今度教える」

なんで今度なんだろう、と不満に思っていると腕の力が弱まり解放された。

「ひとまずリリナちゃんはナミさん達と先に行って」
「えー!」
「……マスク共はまだ沸いて出てくるだろうから、戦力を分散しときたい。あっちにはガキがたくさんいるから、リリナちゃんが必要だ」
「……分かった!」

サンジくんの思惑通りだとも知らず説明を受けて納得すると、子ども達を連れて先に進んでしまったナミ達を追いかけた。


先を行ったナミ達は思ったよりも進んでいて、やっと追いついたところでチョッパーが子ども達にここへ来た経緯を聞いていた。

「何の病気だ?みんな病人には見えねェけど……」
「お父さんとお母さんから病気を治すよう頼まれた人達に、ここに連れて来られたんだ!」
「じゃあここへは両親が行ってきなさいって?」
「ううん。家の外でその人達に突然そう言われて、そのままここへ……。お父さんやお母さんに病気がうつるといけないからって。行ってきますも言えなかった……」

話を聞けば聞くほど怪しさが増していく。というかほとんど誘拐されたってことで間違いはなさそうだけど。

「親に一目も会えずに知らない奴らに連れて来られた!?それ、もしかして……よっぽどの大病かな」
「あんたアホなの!?」

的外れな考え方をしているチョッパーにナミのチョップが後頭部に炸裂した。

「約束の1年ももう過ぎてるんでしょ!?チョッパー後で診てあげなさいよ。診ればわかる」
「うんわかった!」


安全に休めるところを見つけるために前へ突き進んでいると、また扉が立ち塞がった。それにチョッパーが打撃を加えると掛けられていた鍵が爆発して壊れ、簡単に扉が開いた。

「開いた!ハチャ〜!」
「わーすごいたぬきちゃーん!」
「パワフルになったわね」
「えへへ。たぬきじゃねェよ!」

扉が開いた先は明かりはついていないため真っ暗で、おまけに冷たい風が吹き付けた。急に冷たい風を受けた身体はこのまま固待ってしまいそうな気がしてチョッパーの後ろに隠れて身を縮めた。

「寒い寒い。ここ出口じゃないよゥ」
「なんだろう、ここ外!?冷凍庫!?暗くてよく見えないけど」
「ちょうどいい気候だ、おれには」
「あ!見えた扉が!進みましょ、行き止まりじゃない!」
「本当だ」
「やだー戻りたいー」
「…………」

暗い空間に少しずつ目が慣れてきて先の方がぼんやり見え始めた頃、同じような扉を見つけてナミが走り出した。
頭の上の方でキラリと何かが反射してそちらに視線を向けると、よく見えないけど厚い氷の中に何かが埋まっているみたいだ。

「お姉ちゃん!ここやだ、こわいよ!」
「え、どうしたの!?みんな」
「この道初めてここへ来たときに通ったの!」
「ホント!?じゃ、きっと出口に通じてる!相当寒いけど、我慢して!早く!」
「だって、まわりに……」

また目に涙を浮かべている女の子は何かに怯えていて、言いにくそうに言葉を詰まらせる。

「えーー何だこれーー!」
「この道凍った人達がいてこわいの!」
「何これ……氷づけの死体!?」
「上にも下にも!?」

何が見えるのかと視線を上へ向けたナミとチョッパーは、氷漬けにされたいろんな種族の人間に悲鳴をあげ2人してパニックになって叫び声をあげた。

「いやァーーー!!」
「あー!お姉ちゃん達待ってー!」
「置いてかないでーー!」

脇目も振らずに来た道を全力で戻って行ってしまったナミとチョッパーを子ども達は追いかけて行ってしまったから、あたしも一番後ろを走って戻った。

どこまで戻ってしまうのかと声をかけようとしたら、ちょうどサンジくん達が追いついたみたいで、ナミとチョッパーの暴走が止まった。

「あ、あんなところ通れないわよ!」
「目が!目が合った気がした!」
「2人とも落ち着け。何があった」

未だにパニックのままの2人とは対照的に落ち着いているあたしを見て、フランキーは片方の眉毛をあげた。

「何があった」
「なんかね、巨人とかいろんな人達が氷づけにされてたの」
「お前は怖くねェのか」
「あたし怖いのはオバケだけ!」

氷づけの部屋は子ども達は怖がっていたけれど、フランキーが何かを叫んだ後に変形した。機械の乗りもののような形に足が変形して、それを見た男の子達は目を輝かせ誘われるがままにフランキーに乗り込んだ。そしてわいわい賑やかな空気に巻き込まれたサンジくんもついでに侍も、恥ずかしそうに赤い顔をしながらフランキーの背中に乗って先へ進んだ。

陽気な歌を歌って通り過ぎたおかげで、氷づけの部屋もすんなり通れた。

「恐かったよー!氷った人達ー!」
「でも見てほら!扉よ!ここから出られる!」
「やったー!」

階段を降りた先に外へ繋がる扉を見つけた。隙間から外からの光が漏れる扉をチョッパーが蹴破った。途端に勢いよく外気に晒された肌がチクチク痛み出した。

「建物を出たぞ!おうちに帰れる!」
「パパとママに会えるー!」

歌の仕上げにいつものポーズを決めたフランキー。外に出られたことに喜んでいると、自分達の他にたくさん人がいることに気付いた。人というか海兵達だ。他とは違って人相が悪い奴らばっかりで本当に海兵か疑わしいけど、そんな奴らがたくさんいる。

「あんた見覚えある!」
「そうだ、シャボンディにいた奴だぞ!」
「まさか子供達閉じ込めてたのあんた!?この外道!この子達返さないわよ!」

そして同じ位置にはシャボンディに続いて頂上戦争とき、何故か突然戦場に現れたトラファルガー・ローがいた。あいつは初めて話したにもかかわらず嫌な言い方をしてくるような奴だから好きじゃない。

「どこの極悪人かと思えば……スモーカー!そしていつものカワイコさーん!マズイぞ、まさかの海軍だ!ここは無理だ、出口を変えよう!」
「みんな中へ!」
「わあああ!あれ!?海軍ていい人達じゃないの!?」
「そうだな、じゃ行け!」
「やだ!あの人達ヤクザみたい!」

よく見ると海兵の集まりの先頭にはスモーカーとたしぎがいた。どうしてこんな島にこれだけの人が揃っているのかは分からないけど、海兵がいるんじゃここに逃げ場はないと建物の中へ引き返し、別の扉を探して走り出した。

「リリナちゃんこれ着て」
「あたしは大丈夫だよ」
「いいから!」
「……ありがとう!」

スーツのジャケットを脱いで差し出したサンジくんに遠慮したけれど、強引に持たされて渋々袖を通そうとしたところで、上半身ほぼ裸状態のナミが目に入った。

「ナミ、これサンジくんが貸してくれたから寒そうなナミに貸してあげる!」
「えっいいの?」
「うん!ナミ裸だから!」
「言い方が気になるけど……ありがと」

ナミが羽織ったのを見届けると、隣から視線を感じた先を振り返るとばっちりサンジくんと目が合った。

「ごめん。勝手に貸しちゃった……」
「いや、リリナちゃんがいいんならおれも別に」

握られた手は同じくらい冷たくて、これじゃ温めてあげられねェな、とくしゃっと笑った。