223

外で待ち構えていた海軍とトラファルガー・ローに背を向けて別の出口を探すために走り出した。そういえば、とそこであのトラファルガー・ローは七武海に入ったんだとマルコから聞いたのを思い出した。

「WシャンブルズW」

別のフロアに行く前に、いきなり心臓が飛び出たんじゃないかというくらいドクンと脈打ち、その感覚に違和感を覚えると口の中にも異様な苦味が広がり苦しくなって咳き込む。

「……?何だ、変な感じだったが」
「とにかくさァ急いで走れ!クソガキ共!……アレ、煙草落としたか」
「ホチャー!ワチョー!おれについて来いー!うっ、寒い」
「ちょっとリリナふざけないでよね!」
「あいつら追ってこないといいね。うえっ、ゲホっニガイ……」
「今週のおれはスーパー!裏口くらいすぐ見つける」

異変にはすぐ気付いたけれど、何がどうなっているのか理解するのは時間がかかった。いつもは遠くの方から匂うだけの微かな煙草の煙が、直に鼻に入ってきて咳が止まらない。
煙草といえばサンジくん。という結びつけから隣を走るサンジくんを見るつもりが、反対側で忙しなく動く人物にひかれて視線を移したらまさかの自分がいた。

「!?」

自分がいることに驚くと口から何かがこぼれ落ちた。そして走っていた足が自然と止まると、隣にいた自分も少し前で足を止めた。それに続くようにナミやフランキーとチョッパーが立ち尽くす。子供たちも今のあたし達の状況を見て戸惑っているようで、じっと動かなくなった。


「あたしが2人いる!!」
「バカね!増えたりなんかしてないわよ!どうなってんのよこれ!」
「おれ、リリナになっちまってる!」

少し先にいるフランキーの変な喋り方に気持ち悪さを感じたから、なるべく触れないようにしていると目の前の自分が頭を抱えて左右に行ったり来たりし始めた。

突然のことに戸惑っていると、ナミがいきなり盛大に鼻血を吹き出してこちらに倒れてきたから咄嗟に支えた。

「うわー!ナミが鼻血噴いた!」
「違うそれ私じゃない!」
「フランキーの変態が増したー!」
「アウ!そりゃ好都合だが、おれじゃねェ」
「やだチョッパーの顔が悪いー!」
「悪くないぞ失敬な!」

名前を出した人と違う人物が反応する事態に何がどうなっているのか頭が追いつかずパンクして目眩がした。よく見るとみんな人相が変わって変な顔をしている。

「……どうやら入れ替わってるみてェだな」
「認めたくないけど……」

いち早く冷静になったフランキーとナミが見つめ合って状況を確認した。フランキーの体に入っているナミは悲しい表情をして静かにアロハシャツのボタンを留める。

「私はフランキーで、フランキーはチョッパーで、チョッパーはリリナで、リリナがサンジくん。……それでサンジくんが、私……」

ややこしいな、とうんざりした様子でフランキーの大きい体ごと前に倒すナミの横で、状況を飲み込めたあたしは内心ドキドキしていた。

(サンジくんになっちゃった……!)

落ち着きを取り戻すと自分がサンジくんの体の中にいるという事実を理解し始めて、どうにもはしゃぎたい気持ちが沸きあがってきた。
手を確認すると綺麗な手が目の前に。着ているコートの裾をめくると長い足が伸びていていつもより目線が高い。すぐにでも体を動かしてはしゃぎたいのをぐっと堪えると、ナミの体に入っているサンジくんは人目を気にせず、目の前にある大きな胸を堪能していた。

垂れ流しになっていた鼻血はあたしの体に入っているチョッパーが手際よく鼻に詰めものをして塞いだ。口からヨダレが出ているけどそれは放っておこう。


そんなとき自分が手になにかを持っていることに気付いた。無意識のうちにしっかり握られていたのは侍の生首。

「ぎぃやあぁ!!」
「ぶふっ!」
「あっごめん!」

咄嗟に腕を振ると侍は顔面から叩きつけられた。すぐ我に返ってまず謝って顔を起きあがらせると鼻血が出ていた。

「死ぬほどの寒さ!?どうでもいい!侍もガキ共も、もうどうでもいいっ!とにかくどこかにカメラはねェか!?戻っちまう前に何とか写真を!」
「何を撮る気よ!それに人の体で鼻血ばっかり吹かないで!」
「そんなことよりナミ!おれの姿でアロハのボタン止めんじゃねェ!」

騒がしさが増したけど、それでも走り続けていると1人の子どもが転んでしまい、それに続いて他の子達も立ち止まり赤くなってしまった手に息を吹きかけて涙を流している。

「……くそ、やっぱアテもなく連れ出すのは無謀だったか。この体だと全然寒くねェが。……とはいえ、こんなとこにあったけェコートなんかねェし!どっか山小屋でも見つからねェか!?」
「あとカメラと、鏡!」
「あんた縛り上げるわよ!」
「かくなる上は……おのおの方!頭上に葉っぱをのせよ!」

どうしようかと悩んでいると下から声があがって、みんなから見えやすいようにと顔を同じ高さまで上げた。

「あ!?何言ってんだこんなときに!ガキが凍えて倒れてんだよ!」
「それにこの島草木一本生えてねェよ!」
「では代用に石でもなんでも構わぬ、急げ!」

強い口調で急かされるまま、近くにあった石を拾い頭に乗せて、ついでに岩の上に侍の顔を置いた。

「やったぞ、これがなんだ!」
「寒くなくなるまじないウソくせェマネしやがったらハリ倒すぞ!?」
「"ドロン"!」

侍の変な掛け声で一瞬にしてみんなにコートと靴と手袋が着せられた。魔法のようですごいと喜んでいると、得意げに鼻を鳴らして口角をあげた。

「拙者実は……世に珍しき果実を食し、以来己・他人を問わずいかなるものにも変装できる妖術を使えるようになったのでござる!」
「能力者なんだね!」
「異国の服はよく存ぜぬがこれでよいか?注意しておくが妖力ゆえその服は脱げば消える」

風や冷たい空気に晒されなくなり、芯まで冷えていた身体が少しずつ温かくなっていくのが分かる。

こんなこと出来るなら早くやれとチョッパーの中のフランキーが蹄をはたき落とすと痛そうな音をたてて侍の頭に大きなたんこぶを作った。
そして今になってやっと能力を使ったのは、ナミの胸を隠したくなかったとボロボロの状態で呟いたものだから、もう一度今度は硬いフランキーの拳で拳骨を食らっていた。痛そう。