224

短い間に血だらけになった侍を心配して、あたしの中のチョッパーがいつも背中に背負っている鞄を持って寄ってきた。

「お前絶対痛いとか寒いとか言わねェんだな」
「武士、ゆえ!」
「いたーー!お前らーー!!」

道具を取り出そうとボタンに手をかけたとき、遠くの方からルフィとブルックの声が聞こえてきたのを気を取られて立ち上がった。

「ルフィ達だー!ゾロー!ウソップ!ロビン!ブルックー!」
「見てー!変な奴見つけたんだよー!」
「会えてよかったぞコンニャロー!」

手を振ってルフィ達を迎えた。みんな揃ったけど、何故か変な足をした人の背中に乗っていた。
それに気を取られていると後ろで鈍い音がしたから振り向くとナミが白目をむいて倒れていて、フランキーが可愛らしく泣いていた。

青い顔をして気絶しているナミの中のサンジくんを気の毒に思いつつ、その場を離れずに見守った。なんでか分からないけど体が動かなかった。



侍の体は3つに分かれているようで、ルフィ達と一緒に下半身が戻ってきたことに涙を流して喜んでいた。腰の上に頭を乗せた変な組み合わせになって怪しさが増した気がする。
その傍らでルフィは酷く落ち込んでいて、ウソップから話を聞くとドラゴンの体にくっ付いてるのを見つけたときからとても気に入っていたらしい。

「そんじゃ説明するぞ。まずはおれがフランキー。ケガしてもおれには頼るな」
「おれがチョッパーだぞ!ケガはおれが治してやるぞ!」
「あたしがリリナ!食べものは作れないよー」
「私がナミ。ビームなんか死んでも出さない」
「そして我らが、んナミさ〜んだ!」
「いよォ!待ってました〜!」

衝動を抑えきれないサンジくんは着ているコートの上半身部分をはだけさせて大きな胸を主張してみせた。それをブルックとウソップが囃し立てる。

「私そんなに品がなかったかしら……!」
「うおお!もうしねェ!ナミさんをこれ以上傷つけないでくれ!」
「やめろナミ!ナミが死んじまう!」

それも一瞬で鬼のように目をつり上げたフランキーの怖い顔と大きな拳が迫ってきて、サンジくんは素早く乱れたコートを身につけた。

「私の体に触れたら20万ベリーよ。のぞき10万!」
「そんな殺生な!」
「いつまで笑ってんのよ!人ごとだと思って!」

側でお腹を抱えて笑い転げてるルフィとウソップにも怒るけれど、既にツボにはまってる2人にはナミの声は届いていないみたいだ。


騒がしさが落ち着いたところで、それぞれ分かれていた間に起きたことを話し合った。

まず船で拾った救難信号はルフィ達が遭遇した下半身がワニの男へ向けたものだったこと。そのときに言っていた侍というのは、あたし達が出会った侍ではなくて七武海に加入したトラファルガー・ローのことで、この侍も体を3つに切り離された被害者だった。


「ナミさんの美観を損ねる!」
「なかなかス〜パ〜!」
「もうどうでもいい……」
「ありがとうウソップ!」
「あたしの顔だ!変なの!」
「変とか言うな!そうでもしねェとおれ達が混乱しちまうよ!」

周りはもちろん本人達も誰が誰だか分からなくなってきたところで、見かねたウソップが頭に付けるお面のようなものを作ってくれた。自分としては外が入れ替わってるだけで何ら変わりないから、これを付けたところで、という諦めもある。

「ちゃひげー?」
「そうだ。聞いたことあるだろう、おれの昔の通り名だ!」
「知らねェ」
「何だとてめェ!」

ルフィ達を乗せてここに来てからほんの少ししか喋らなかった男が急に話し出した。

「お前らはもうすぐ殺される。ローがおれを助けに来てくれるからな、ウォッホッ!おれはお前らの世代の海賊達が大嫌いだがローは別だ」

ローって誰だ。そう思ったけれどすぐに隈のある目つきの悪い顔が飛び込んできて思わず顔を顰める。

「なんだ、おれ達の世代って」
「知らねェのか!?バカめ。2年前シャボンディ諸島に一堂に会した11人の億越えルーキー達に黒ひげを加え、世間じゃあおめェらを最悪の世代と呼ぶんだ。

一度口を開くと今までの分とばかりにペラペラと喋り出した茶ひげは、うちの無知な船長ルフィに自分達が世間から言われる通称を教えてくれた。あたしも黒ひげに関わることはマルコ達から教えてもらってるから思い出した。

「白ひげ亡き後新世界へ飛び込んで海を荒らしに荒らし、大事件が起きたと思えば火中にいるのはいつもこの世代の海賊達だ!黒ひげ、キッド、ロー、ドレーク、ホーキンス!おれの茶ひげ海賊団をバラしやがったのはバジル・ホーキンス!」

ホーキンスと戦った茶ひげは足を失って海賊をやれなくなり、仲間と命からがら逃げ出してきたのがこのパンクハザードだという。
元々ベガパンクの実験施設で兵器や薬物の開発と実験が繰り返されていた場所で、監獄代わりに囚人達が連れて来られてモルモットのように人体実験されていたらしい。

あたし達が今いるところは4年前に化学兵器の実験に失敗して吹き飛んだ研究所跡だという。
研究所の爆発は高熱と有毒物質をまき散らして島に生きていたものの命を奪った。研究をしていた政府の人間達は囚人達を置き去りにして揃って逃げ出した後、島を完全に封鎖していった。

囚人達はかろうじて残っていた研究所で島に充満していた毒ガスから身を守っていたものの、強力な神経ガスのせいで下半身の自由を奪われた人が多く、未来に希望はなかった。

1年過ぎた頃、島へやってきた人をマスターと茶ひげは呼んだ。島中の毒ガスを浄化させ、歩くことも出来なくなっていた囚人達に科学力の足を与え、部下として受け入れた。


茶ひげの話を理解できなくなってきて、マスターが登場すると情に熱いフランキーとチョッパーが盛大に歓声をあげた。


それから更に1年後。今なら2年前にこの島へ上陸した茶ひげはかすかに残っていた有毒物質にやられて、生きる力もなく諦めていたところにマスターと囚人達が現れた。茶ひげも同じく命を救ってもらった。

「同志達の足を奪ったベガパンクが悪魔なら、マスターは心優しき救いの神だ……!」

話が進むにつれてフランキーとチョッパーの涙がついに溢れ始める。
チョッパーとして見ていたから何とも思わなかったけれど、仮にもサンジくんが涙を流している光景をまじまじと見るととても不思議に思える。

「更に数ヶ月前のことだ。2人目の救いの神、七武海の称号を得たトラファルガー・ローが島にやって来た。自由に歩けねェおれ達に対して奴はその能力で足をくれたんだ。生きた動物の足をな!もう二度と歩けねェと思ってたおれ達は喜びに涙がこぼれた!」
「いい話だぜェー!」

ルフィはあいつのことをやっぱりいい奴なんだと笑っているけど、頂上戦争で遭遇したときの第一印象が悪かったから今そんな話を聞いても素直に信じられなくて疑ってしまう。いかにも裏がありそうな目つきをしてる。

「あたしあんまり好きじゃない」
「あんたが人を嫌うなんて珍しいわね」
「そんなことないよ。悪い顔してるもん、あいつ」
「……おいなんでこっち見てんだテメェ」

目線は自然と動いてゾロを捉えていた。ゾロがどうとかなにも思ってないけど、失礼な奴だと睨まれてしまい言い訳もしないで目をそらす。


「とにかく、この島で誰が偉いか分かったな?今や誰も寄りつかねェこのパンクハザードは我らがマスターの所有地だ。ウォッホッホッホ!喜べ!マスターは人類の未来のため研究を続けている……!その為にわずかばかり必要な実験体にお前達はなれるんだ。決して逃げられやしねェぞ!」

茶ひげの笑い声が高い空間に響き渡った後、シンと静まり返った。


「リリナちゃん!」
「はい」
「……。野暮用で少しいなくなるが……おれの身体なら身の安全は大丈夫だろうが。平気か?」
「もちろん」

話を聞き終えた後サムライがいなくなっていることに気付いたサンジくんが、ブルックが残りの胴体を見たという話を聞いて出て行ったサムライを追うことになった。

いつもは見上げているナミを見下ろすのは新鮮だけど、自分自身に見下ろされているサンジくんは何とも言えない表情をしている。

「じゃ私案内しますから、パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」
「おういいぞ!そうだ、この機にカメラを……」
「ちょっと待てェーー!」

あたしに確認をとった後ブルックと2人で走り出したのはいいものの、良からぬ会話を聞いたナミによってフランキーの大きな拳はブルックにだけ落とされて、2人の見張り番として強制的にゾロが駆り出された。
ゾロとサンジくんの言い合う声が遠くなっていくのを聞きながら、どうせなら自分もついて行けば良かったと後悔し始めた。

(体が入れ替わってからサンジくんナミの体ばっかり気になって、やっと話せたと思ったらどこか行っちゃうし……)

サンジくんが女の人の体に入ったらああなることは分かりきってることだけど、ナミの体となると余計に暴走するに決まってる。なんでよりによってナミの体に入れ替わっちゃったんだろう。トラファルガー・ロー許すまじ……。

(……寂しいのか、悲しいのか、怒りたいのかも分からない)

感情のはけ口が見つからずに、手っ取り早くサンジくんの頬を思いっきりつねってみたけど痛いのは自分で涙が浮かんできた。