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重い物が落ちるような大きい音がして顔を上げるとみんなの輪から離れてポツンと立っていたことに気付く。そして顔を上げた先で施設から連れてきた大きな子供が1人、地面に手をついて苦しそうな声を上げていた。大きな音の原因はこれだった。子供が1人跪いただけじゃあんな音は出ないけれど、目の前にいる子供たちはほとんどがあたしより背の大きな子達ばかり。


「苦しい……オエッ」
「大丈夫!?シンド」
「おいチョッパー、あいつ苦しいって!治してくれ」
「…………」

どうしたのかと様子を伺っているうちに他の子供たちも頭を抱えて苦しみ始めた。

「でけェ奴ら中心に倒れてくぞ……!?」
「どうなってんだ?」
「チョッパー今検査してたんでしょ!?この子達本当に病気だったの!?」
「……違う」

ルフィやナミが戸惑っている中で、チョッパーだけはどこか冷静に子供達をじっと見つめていた。

「お前達今欲しいものはないか?いつもこの時間何をしてる?」
「……いつも?検査の時間があって……その後、キャンディをもらうんだ」
「キャンディ?」
「シュワシュワと煙が出てきて、面白いしおいしいんだ」
「そうだ……アレ食べたら……!アレ食べたらいつも幸せな気分になるから……楽になるかも……!」

苦しそうな呼吸と時々えずきながらチョッパーの質問に答えるシンドと呼ばれた男の子の顔色は少しずつ悪くなっていく。話を聞いているうちに離れたところにいるチョッパーが眉を顰めた。自分が別の意思で動いているのがとてもおかしくて、ついまじまじと見つめてしまう。

「茶ひげって言ったか!?お前は何を知ってるんだ!?この子達は病気なんかじゃない!」
「何を言ってる。俺は外回りで研究所内のことはそう詳しくねェが、そのガキ共は難病を抱えてる!慈悲深いマスターはわざわざ他の島からそいつらを預かって、彼の製薬技術で治療を施している!愛の科学者だ!」

自分の怒った顔を見たのは初めてだけど、怒気を含んだ声色に茶ひげも負けじと声を荒げる。2人が対峙している間にも、子ども達は次々を頭を抱えて苦しそうに咳き込み始める。

「見ろ!その証拠に研究所を離れたガキ共が今日の治療を受けられずに苦しみ始めてる!」
「違う!」
「チョッパーどうしたの?何か分かったの!?」
「NHC10。子ども達の体内から出てきた。微量だけどこれは、覚醒剤だよ!!世界でも決められた国の決められた医師しか扱っちゃいけない!ドクトリーヌが使ってたから知ってるんだ。本来の用途、病気の治療でもこの薬を中毒に達する極量まで使うことはない!この子達は毎日少しずつ身体に取り込み続けもう慢性中毒になってる!この苦しみから逃れるために次の薬を欲する!なんのためだ!?こんな子どもに……!研究所から逃さないためか!?」

言葉を繋いでいくにつれ苦しむ子ども達が多くなり、もがき苦しむ声が増えていく。それに比例してチョッパーは目に涙を浮かべ声も荒々しくなる。

「お前達の救いの神は!こんな子ども達をどうしようとしてるんだ!」
「おめぇマスターを侮辱すると承知しねェぞォ!」
「チョッパーどうする!?どんどん倒れてくぞ!アメがいるのか!?あの建物にあるなら取って来ようか!」
「ダメだ!そのキャンディは二度と口にさせちゃいけない!きっとそれで知らず知らず子ども達は薬物を摂取してたんだ!」

ほぼ全員の子どもが倒れていくのを見兼ねたルフィがキャンディを持ってこようかと提案したけれど、子ども達が苦しんでいる原因がキャンディであるために、チョッパーはそれを止めて短く説明を入れた。

「麦わらのお兄ちゃん、キャンディ持ってきてくれるの?」
「ん?⋯⋯いや、ダメだ。チョッパーが言うならダメだ!あいつウチの船医なんだ。あいつを信じろ!」
「なんで⋯⋯」

手足をついて体を震わせていたシンドがゆっくり立ち上がると、明らかに顔色が悪く目の下には隈ができていた。その顔に他の子達は怯えるように声をあげ、心配して駆け寄る。

「さっき取ってきてくれるって言ったじゃんか!」

震えとふらつきに耐えながら立ち上がったときに見えたシンドの顔は青く汗を流し、目は血走っていた。

「言ったじゃんかぁ!!」

次の瞬間には顔つきを変えて目の前にいたルフィを殴り飛ばした。体が大きいとはいってもあまりの力にみんな驚きに声をあげる。

「なんなのこの腕力」
「わー!シンドやめてー!」
「こんな乱暴なシンド見たことないよ!」

あたりに転がっていた瓦礫を持ちあげて暴れ出したため、他の子達を後ろへ退がらせる。

「巨人族の子なら腕力もこれくらいあるだろう!」
「ここまでかァ!?」
「シンドは巨人族じゃないよ!おっきい子達もみんな違う!この島に来たときは全員普通の大きさだったの!」
「え!?」
「ねェ僕ら大きくなる病気なんじゃないの!?それ以外どこも悪くないよ!」
「ここにいる時間が長い子達ほど体が大きいんだ!」
「そんな!普通の人間が巨人族のようになる病気なんてないよ!でかい奴は始めからでかい!」

自分達が病気だから連れて来られたわけじゃないということに薄々気付き始めた子ども達は不安に駆られて涙声になる。

「脳下垂体のホルモンが異常高進してるのは元々じゃないんだ。⋯⋯だったらこの子達、実験されてる⋯⋯!何がしたいんだマスターってやつ。こんな幼い子ども達をドラッグで抑えつけて⋯⋯!」

ギリッと歯を噛み締めるチョッパーの横で暴れる子ども達を鎮めようとウソップがタネを飛ばした。

「W必殺 爆睡星W!」

暴れる大きい体の子供たちが煙に包まれるとすぐに騒ぎはおさまり、煙がはれたときには凶暴な顔つきが嘘のように健やかな寝顔で眠っていた。

「⋯⋯やっぱり誘拐された子達だったのね」
「ルフィ」
「ん?」
「こいつら可哀想だ。家に帰りたがってた。親に会いたがってた!助けてやろうよ⋯⋯!」

子どもたちの寝顔を見ながらやっと落ち着いて話し始める。
遠慮なしに寝ているシンドの顔に登り何か観察するように鼻を指で突いているルフィにチョッパーは悔しそうに投げかけた。

「んー⋯⋯じゃあ全員親のところに送り届けてやるか」
「バカ簡単に言うな!問題は山積みだぞ」
「そうね。それにまだ全てが予想でしかない。元凶に尋ねなきゃ何も確定しないわ」
「マスターってやつか⋯⋯。でもゾロ、サンジ、ブルックはサムライ捜しに行っちまったし。まーいいか、おれ達はさっきの研究所に行こう!マスターに会いに!」
「おれはここで待つよ。本当はおれマスターってやつ絶対許せねェ、ぶっ飛ばしてやりてェけど子ども達が心配だ。看てなきゃ⋯⋯」
「そうね!そ、そう!じゃっ私も残る!」
「おめェナミ汚ェぞ!コエェんだろ!」
「でもまた今みたいに暴れたら大変だなコドモ!」

と言ったルフィの一声で瓦礫に埋れていた鎖を寄せ集めて大きい体の子ども達の体に巻きつけた。

「でかいのだけでもこうしとこう!」
「ちょっと手荒ね⋯⋯」
「あたし達が誘拐したみたいだね!」
「仕方ねェ。暴れ方は重量ヘビー級だ」

確かにこれから戦力が分散するとなれば大きい子達が暴れてしまったら手間取ってしまうはず。でもこれなら安心できるだろう。引きちぎっちゃったら怖いけど。

「しかし入れ替わりの件はどうなる。予想じゃおれ達5人はまた揃ってトラファルガーに会わなきゃ元に戻れねェ」
「いいじゃねェかそのままで!」
「いいわけないでしょ!そこはちゃんとして!」
「そうだよ、戦力落ちるもん」
「ずいぶんと冷静ね」

サンジくんの体でいられるのは楽しいけど、この体じゃ落ち着かないしやっぱり自分は自分でいたいと思う。

そういうわけであたしの体のチョッパーと、フランキーの体のナミが残って子ども達を見守ることになり、残りのみんなでマスターのところへ向かった。