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ナミとチョッパーを残してやむ気配のない吹雪の山道をひたすら下る。さっき通った道が分からないくらいに一面真っ白で目印になるようなものもない。

そんな中一人でウソップが騒ぎ始める。

「ルフィ!今のやっぱり爆音だろ!」

強風に煽られながら進んでいるせいで、周りの音は聞こえにくくなっている。ウソップの言う爆音は聞こえないけど、ナミ達が残っている方向に何かの気配は感じる。

「私達が来た方向よね」
「この足跡の奴と関係があんのかもしれねェ!」

先頭を歩いていたルフィが来た道を振り返ったとき、見聞色が使えることに気付いた。これはサンジくんの身体のおかげ?それともこういうのは魂と一緒にくるもの?
さっきから深く積もった雪の中を歩いてても全然疲れないし、サンジくんの体には感謝をしなくちゃ。体が入れ替わっても不自由なくいられることに安心する。

「⋯⋯あれ?」

ふと振り返ってもルフィ達の姿はなく、寂しい吹雪の音だけが耳に届く。自分の世界に入っているほんの一瞬のうちにはぐれてしまった。

まあいいか、とみんなが走っている方を追いかけようとすると後ろから別の気配を感じた。その瞬間眉間にシワが寄る。

「ねェ!あたし達の体戻してよ!」

トラファルガー・ローだ。顔がわかるくらいになってからこっちが声を張ると、俯き加減だった顔があたしを捉えた。数秒経ってから少しだけ視線が上へ移って納得したように声を出した。

「⋯⋯⋯⋯あァ、お前か」
「あんたがひっちゃかめっちゃかにしてくれたおかげで、こっちは今大変なんだからね!」
「そうか」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」

目つきが悪くて何か言いたげにしてるくせに何も言わないから少しずつイライラが募っていく。

「この先で何するつもりなの?」
「お前の船長はどこ行った」
「聞いてるのはあたしなんだけど!」

まともに会話が出来なくてむしゃくしゃする。そしてあいつは面倒臭そうに短く息を吐いた。

「この先にみんないるから邪魔するっていうなら通さないよ!」
「なら話は早い」

居場所を教えてしまったことにしまったと思いつつ、歩き出したトラファルガー・ローを牽制するつもりで雪を蹴って邪魔をした。
するとさすがと言うべきか、サンジくんの脚力によってトラファルガー・ローは全身雪まみれになって、思わず吹き出した。

「ぷっ」
「⋯⋯てめェ」
「ざまーみろ!」

あたしに向き直ったトラファルガー・ローに構えをとったけど、目を閉じて長く息を吐いてから静かに体につく雪を払い始めた。

「お前らとやり合うつもりはない」
「喧嘩売ってきたのはそっちだもーん」
「状況が変わった。とにかく麦わら屋のところへ連れて行け」
「とか言って油断したところを狙うんでしょ!」
「お前に話すより船長に話した方が早いだろ」
「⋯⋯んー、それは⋯⋯どうかな?」

ルフィに用があると言うばかりで内容を教えないトラファルガー・ローに警戒したままでいたけど、ルフィが話した内容をそのまま理解してくれるかどうかは分からない。たぶん思った通りには理解してくれないと思う。頭の良くないあたしでもそれは分かる。

大きく首を傾げたあたしを不思議に思ったようで、また数秒無言があった後気を取り直して歩き出した。

「でも今あんたの話聞いていられるほど暇じゃないんだよ、あたし達。いろいろやらなきゃいけないことあるの」
「おれもだ」
「じゃあこっち来ないでよ」
「おれは麦わら屋に話さないと始まらねェんだよ」
「しつこいなぁ」

何を言っても聞く気はないらしく、歩く足も止めない。しょうがないからルフィのところへ連れて行くことにした。

「もしルフィに変なことしたら許さないからね!このサンジくんの足で蹴り倒してやるから!」
「⋯⋯⋯⋯」
「なんか言ったらどう!?」
「静かにしてろ」
「あんたなんか嫌い!」

思いっきり舌を出してやると先程まで歩いてた場所と違うところに来ていた。

「あれ?」
「いちいちうるせェ」

何かに遮られるような感覚とほぼ同時にまた場所が変わる。1、2回繰り返しただけでルフィ達に近づいた。

「これあんたの能力?面白いねェ。あっルフィ!おっきい奴らに襲われてる!⋯⋯あー!変なことしないでよ!?」
「⋯⋯」

巨人のように大きい体の奴らと戦っているルフィを見つけた途端、トラファルガー・ローはあたしを置いてさっきの能力で距離をつめた。
負けじと追いかけるとあたしが辿り着く少しの間で大きい体の奴2人を倒してしまった。

「ルフィー!フランキー!」
「フランキーじゃないっての!」
「おっ、えーっとリリナ!トラ男と一緒だったのか!」
「こいつ、ルフィに用があるって」
「おれに?」

あいつはルフィにとって命の恩人だし今も助けてくれたわけだからお礼を言うのはいいけど、この状況ではもう少し警戒心を持ってほしい。

「⋯⋯少し考えてな。お前に話があってきた、麦わら屋。お前らは偶然ここへ来たんだろうが、この島には新世界を引っ掻き回せるほどのある重要な鍵が眠ってる」
「……?」
「新世界で生き残る手段は二つ。四皇の傘下に入るか、挑み続けるかだ。⋯⋯誰かの下につきてェってタマじゃねェよな」
「ああ、おれは船長がいい!」

何が言いたいのか分からなくてルフィと同じタイミングで首を傾げた。四皇の傘下に、なんてルフィの性に合わないし本人も腰に手を当てて即答していた。そもそも四皇であってもルフィを手駒にするなんて無理だ。短い時間だったけどオヤジでさえ無理だったんだもん。

「だったらウチと同盟を結べ」
「同盟?」
「おれとお前が組めばやれるかもしれねェ。⋯⋯四皇を一人、引きずり下ろす策がある!」
「⋯⋯っ同盟ですって!?あんた達と私たちが組めば四皇を倒せるの!?バカバカしい、何が狙いなのか分からないけど⋯⋯ダメよルフィ!口車に乗っちゃ!」
「そうだそうだ!こいつ見るからに怪しい奴だもん!何か企んでるに決まってる!」

即答しなかったことにほっとする。口を開かないルフィは何かを考えているのか、表情一つ変えない。畳み掛けるようにナミはルフィに言って聞かせているけど、それも耳に届いているのか怪しいところ。

「いきなり四皇を倒せると言ったわけじゃない。順を追って作戦を進めれば、そのチャンスを見出せるという話だ。どうする?麦わら屋」
「その四皇って誰のことだ?」
「ちょっとルフィ!何興味出してんのよ!こんな奴信用できない!」
「あたしこいつ嫌いだよ!」

気になっていた四皇の名前を聞くとすぐに承諾の返事をしたルフィには驚いたけど、あたし達で駄目なら残りのみんなに説得してもらおうと、子ども達のいるあの場所へ急いで戻った。


「ええーー!!ハートの海賊団と同盟を組むーー!?」
「ナミを奪い返しに行っただけで何でそんな突飛エキセントリックな話になってんだよオオ!こんな得体の知れねェスリリング野郎と手を組んだ日にゃおれァ夜もおちおち眠れねェよォ!」
「ほらねルフィ!みんな反対でしょ!やめましょう!こんな危ない話に乗るの!航海には私達のペースってものが⋯⋯」

胸ぐらを掴んだウソップが必死になって説得をしているものの、ルフィは体を前後に揺さぶられてとっても嫌そうに顔をしかめている。

「そうだルフィ!だいたいまだ四皇を視野に入れるなんて早すぎるよ!戦えるわけない!」
「⋯⋯ルフィ、私はあなたの決定に従うけど、海賊の同盟には裏切りがつきものよ。人を信じすぎるあなたには不向きかもしれない」
「え?お前裏切るのか?」
「いや」
「あのなァ!」

否定的な都合の悪い抗議は全くルフィの耳には届いていないようで、ウソップとナミ、チョッパーの訴えには全部返事はなかった。

「とにかく海賊同盟なんて面白そうだろ!?トラ男はいい奴だと思ってるけど、もし違ったとしても心配すんな!おれには2年間修業したお前らがついてるからよ!」
「えーーーー!!?」
「ルフィお前!」

一切曇りのない笑顔でそう言いきられると、あまりの清々しさに恥ずかしくなってくる。確かにたくさん特訓して強い相手に勝てるよう頑張ったけど。

「や、やだもールフィったら照れる!」
「そりゃおれ達は頼りになるけど」
「よ、よしルフィ!おれ達にどんと任せとけ!ゾロ達もビビってやがったらおれ様が説得を!」