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「この中で誰か物を燃やせる奴はいるか?いなきゃ別にいいが」
「火ならフランキーだ!ビームも出るぞ!そうだ、お前ビームでこの鎖焼いてくれよ!」
「ラディカルビームは両腕しっかりキメねェと出ねェ。今出せるのは尻からクー・ド・ブーくらいだ!」

反撃に出ると言ったトラファルガー・ローは物を燃やせるフランキーに目下に広がる景色の中で比較的近くにある軍艦を燃やすように指示を出した。フランキーはそれを軽く承諾してから息を大きく吸い込み、短く大きな弾を吐き出すように吹くと軍艦は一気に炎に包まれた。
近くにいた海兵達が逃げ惑っているなか、軍艦を燃やしている炎の煙が風に乗ってあたし達に流れてきて、腕を縛られているせいで口を塞げなくて思いっきり煙を吸ってしまってみんなで盛大にむせる。

「ゲホゲホ!おいトラファルガー!煙がこっちに来たじゃねェか!」
「お前がやったんだろう」
「おめェがやらせたんだよ!」

二人のやり取りにケラケラと笑っているルフィを見ていると、ガシャンと音がして隣のトラファルガー・ローの鎖が解かれていた。

「さて、これで映像電伝虫には映らねェ」
「えェーー!?」
「すぐにはバレずに済みそうだ」
「なんだお前。どうやって海楼石の鎖取ったんだ!?」
「なに、初めからおれのはただの鎖だ。能力で簡単に解ける。おれが何ヶ月ここにいたと思ってるんだ」

驚きを隠せないルフィの質問に答えながら檻の外にあった刀を能力を使って引き寄せ、縛られているあたし達の鎖を解いてくれた。

「さァお前らをどうしようか⋯⋯。お前らの運命はおれの心一つ」
「どうするかはもう決めてあんだろ。さっさと⋯⋯」
「え」
「あァ!?」

会話の途中で中身が入れ替わり、スモーカーとたしぎは元に戻った。そして戻ってきたとき、自分のとんでもない格好に顔を赤くして叫び、自由の効かない体を丸めて顔を隠した。

「何を女みてェな声出しやがって、小娘が」
「は、早く鎖を解いてください!何でも言う通りにしますから!」
「ふざけんなたしぎィ!海賊に媚びてまで命が惜しいか!?」
「今は!土下座してでも命を乞うべきです!私達がここで死んだら部下も全員見殺しに!ヴェルゴ中じょ⋯⋯ヴェルゴもこのまま軍にのさばらせることになり、子ども達だって!」

なにやら海兵の二人が揉め出したけど、ルフィがさっそく檻を破りロビンを連れて出て行ってしまった。あたしも呼ばれたからフランキーに先を譲られて近くにあった建物に乗り移った。

「あんまり勝手なことするなよ。好き勝手動かれると難航する」
「ニシシ!」
「ちょうどこの壁の向こうにあそこにいる奴らを中に引き入れるシャッターのレバーがある。こんだけ戦力揃ってりゃ問題はないだろうが、そのつもりでいてくれ」

トラファルガー・ローの前置きに声を出さず静かに頷く動きがあり、雪山で体験したあの瞬間移動のようにあたし達が丸く囲われたのと同時に目の前の壁が丸く穴を開けた。中には子ども達と出会ったあの部屋にいた防護服を着た奴らがいて、あたし達に気付いたときには遅く、声を出す間もなく打ちのめし気絶させた。

シャッターが開いたことにいち早く気付いた海兵達がぞろぞろと中へ入ってきたのを確認してトラファルガー・ローはまた閉めるようにレバーを動かした。下では入ってきた海兵に戸惑う声と、あたし達気付いた声が聞こえて賑やかになってきた。

ルフィと二人で手すりに身を乗り出して下の様子を伺っていると二つの斬撃が分厚いシャッターの壁を斬り裂き、同時に見慣れた面々が中へ傾れ込むように入ってきた。

「あっみんなだ!」
「ゾロ達だ!みんな来たな!⋯⋯揃ったか、よォーし、暴れるぞ!!」

サンジくんとナミは相変わらず入れ替わったままで、あたし達のいるところにトラファルガー・ローを見つけるとすぐに入れ替わりを解いてもらっていた。サンジくんは拒否していたけどそれも虚しく、更にナミの着ていたコートが変わっていると気付かれて目一杯のグーパンチを食らっていた。よく見ると顔が血だらけで一人だけボロボロだ。

「ここにいる全員に話しておくが!八方毒ガスに囲まれたこの研究所から外気に触れず、直接海へ
脱出できる通路が一本だけある!R棟66と書かれた巨大な扉がそうだ!おれは殺戮の趣味はねェが猶予は2時間!それ以上この研究所内にいる奴に命の保障はできねェ!」
「えェ!?」
「研究所どうにかなんのか?」
「どうなるか分からねェことをするだけだ」
「ふーん、そうか。じゃあまー、とにかく行くぞシーザー!もう息なんか止められねェ!ブッ飛ばして誘拐してやる!」

トラファルガー・ローとの会話を簡単に済ませたルフィはさっそく走り出した。

「おいルフィーー!しっかりやりやがれ!これからだぞ新世界は!!」
「うん悪ィ!もう油断しねェ!」

下のフロアからゾロからルフィへの喝が入った。それでもルフィはいつも通りの軽い返事をして側から見たらふざけたような足を使った新技を繰り出して真っ直ぐ進んでしまった。

足をぐるぐる回して扉の向こうへ消えていったルフィを見送っていると下から大きな声で呼ばれた。大好きな人の声に身体が勝手に反応するように自然と視線が戻り、身を乗り出して声の主を探すと小さく見える人の集団の中であたしに手を振っているサンジくんを見つけた。
すぐに手を振りかえして手すりを飛び越えてサンジくんのいるフロアへ降り立った。風を使って静かに着地してサンジくんを見上げると、瞬きも忘れて私を見つめている。口も半開きだ。あたしの顔に何か付いてるんだろうかと首を傾げると、やっとパチパチと少し強めに瞬きをした。

「誰かと思ったらおれの天使だった」

おれの天使だなんて真面目な顔して言われた分、恥ずかしさがより倍増する。サンジくんだったらこんな冗談言わないだろうし、何より「おれの」というフレーズが実は嬉しかったりする。

「無事かい?どこか怪我は?」
「大丈夫だよ。ただ檻に入れられてただけ」
「檻に?また?魚人島でも捕まってたんだろ?もう3回目だな」
「みんなと一緒だから平気」

話の最中に自由にしていた手をとってそのままぎゅっと握ったサンジくんはあたしの無事を確認して困ったような笑顔を見せた。そんなことよりそのサンジくんは流れた血が固まってボロボロで痛々しい。乱れた髪の毛を整えてあげると今度は嬉しそうに口角を上げた。

「それよりサンジくん、さっきすごい変な走り方してたね!面白かった!」
「えっ、ああ、アレ。あん時は必死で⋯⋯」

ガスから逃げているときの光景を思い出してサンジくんに話を振ると途端に視線を逸らし苦笑いを浮かべた。ころころ変わる表情が面白くてつい見つめていると、この世界の外から声がかかる。

「お二人さん、先に進むぞ〜」
「おう」

子ども達と逃げた先にいた茶ひげもサンジくんと同じようにボロボロな状態でいた。そして同じく血を流した形跡のあるウソップがその茶ひげの背中に乗っていて、あたしも背中へ乗せてくれるというのでお言葉に甘えてひょいと飛び乗る。

「トラファルガー・ローの言う制限時間が何なのか知らねェがお前らをみすみす逃がすか!麦わらの一味!逃げ場はねェぞ!」
「よせよせ⋯⋯!」
「邪魔するなァ!!」

茶ひげの背中に乗らなかったゾロ、ブルック、サムライの三人がG−5を迎え討ち、蹴散らしていく。

「うほー!頼もしいな三銃士!」
「悪ィな茶ひげ。途中まで乗せてくれ」
「構わねェがお前ら⋯⋯。あのドラゴン何で連れて来た!」
「掴まったら飛んでガスから逃げられると思ったんだが⋯⋯」
「今飛ばねェのは鎮静剤を打ってあるからだ。アレを研究所内に入れたのは少々マズかったかもしれん」
「危ないの!?わりとかわいい顔してるけど⋯⋯」

サンジくん達と一緒に入ってきたドラゴンは茶ひげのいう鎮静剤が効いているのか確かに飛ぶこともなければ動くこともない。クルルル、と小さく喉を鳴らすような音を出してぼーっとしている。

そして前方ではGー5がしつこく食い下がってくるのをゾロが相手にしようと向けられた刃はすっと間に入ったたしぎによって塞がれ、ゾロの挑発に乗ることもなくそのまま進行方向へ進めるように合わさった刃を滑らせて道を開けた。

「Gー5!戦ってる場合じゃない!奥の通路へ急いで下さい!この棟に一つしかないゲートが閉まりかけてます!シーザーが私達をここに閉じ込めるつもりなの!ゲートの向こうへ行けなければパンクハザードから脱出できなくなる!早く奥へ!」

茶ひげの背中からたしぎの声を聞いているとロビンがハナハナの実の能力を使って翼を生やしこちらへ飛んできているのが目に止まった。早く合流出来るようにと手で仰ぐとロビンの背後から追い風が吹きスッとあたし達のところへ舞い降りた。

「ありがとうリリナ」
「とにかく聞いた!?今の話!頑張れ茶ひげっち、もっとダッシュよ!」
「ハァハァ⋯⋯無茶な、もう最速だ!」

正面に見えるゲートはけたたましい音を立てながら少しずつ閉まり始めていた。

「あいつが言ってた!ええっと、なんだっけ⋯⋯R棟60?だっけ」
「惜しいわね、66よ」
「誰が言ってた?」
「あいつだよ」
「あいつって誰だよ」
「そんな顔してても可愛いよリリナちゃん」

あいつとはトラファルガー・ローのことなんだけれど、あまり声に出したくなくてそれが顔に出ていたのかウソップにお前のそんな顔初めて見たぞと指摘され、その酷い顔でもサンジくんはあたしに笑顔を向けてハートをぷかぷか浮かべている。

そんなとき、またしても後ろから爆発音と一緒に壁が破壊された。黒い煙が沸き上がった後、檻に入っているとき映像で見た気味の悪い毒ガスが押し退けるように入ってきた。

「殺人ガスが棟内に入ってきたアァ!」
「逃げろ逃げろォーー!!」

茶ひげは人生で一番体を細くしただろう、とあたしが思うほどには細くなって閉まりかけたゲートをすり抜けて次のフロアへ滑り込んだ。

ゲートの方を振り向くと向こう側には毒ガスに取り巻かれ白く変色して固まった海兵達の姿がたくさんあった。その光景を目の当たりにして動けなくなる。自分達があそこにいたら、と思うよりも助けを求めるように手を伸ばすのではなくて、仲間達の無事を祈るように親指を立てた姿に言葉を無くした。

ゲートが閉まった後でも前を向くことが出来ないでいると、ひょっこりとサンジくんが視界に割って入ってきた。目が合うときょとんとした顔から柔らかい表情に変わった。

「リリナちゃんは優しいな」

ゆっくり髪を撫でる手が温かくてざわざわしていた気持ちが落ち着いてきた。あたしが何か言ったわけでもないのに小さい変化に気付いてくれたサンジくんに救われた。こんなことにも気付いてくれるなんて超能力者なんじゃないかと思う。