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ドスドスと大きな音を立てて突き進む茶ひげに乗せてもらっているおかげで楽ができている。あたまりにも楽すぎてさっきまで走っていたゾロ、ブルック、サムライまで一味みんなが乗ってしまうほどだ。

「研究所を犠牲にしてガスを入れてくるとは!まだまだ安心できねェぞ!急げ茶ひげ!」
「いつの間に全員乗っとるんだお前ら!さすがに重い!」
「本当にすまねェ堪えてくれ⋯⋯!だがこうするしかねェんだ。おれ達は疲れて走るのが面倒くせェんだ」
「最悪の理由だ!降りろお前!」

素直なゾロは包み隠さず疲れていることを言う。けれど茶ひげにとってそれは駄目だったようで、怒って尻尾を振っている。ただでさえ乗り心地はそんなに良くないのに、関係ないあたし達まで振り落とされちゃうからやめてほしい。

「貴殿、茶ひげと申されたか。拙者は心苦しいが一刻も早く我が息子モモの助を救出致したい所存!⋯⋯しかしもはや走り通しで走るのが面倒くさいのでござる!」
「降りろ貴様ら!アホなのか!?」
「ごめんね茶ひげ。たぶんもう少しで降りるから」
「降りる気ないな!それなら言わんでいい!」
「あ、乗ってていいって!」
「うがあァーー!!違うー!」

リリナちゃん気遣いできるいい子だね。ニコニコ笑顔で言われるとこっちにも移ってしまってあたしも笑顔になる。サンジくんも優しいよなんて言い合いが終わると来ていたコートを抜き出した。ボタンを外して袖を抜いた途端ボンッと煙を立てて消えた。

「⋯⋯寒いのは嫌だけど動きにくいから脱ぐしかないか」
「どうせまたあのサムライが出してくれるだろ」

思い切ってコートを脱ぐとあたしのも消えてしまった。煙が無くなるのを見届けているとポンと頭に手が置かれた。優しい手つきにサンジくんだと確信して、チラリと視線を動かしたけれどさっきまでいたサンジくんが跡形もなくいなくなっていた。

「あれ?」
「サンジが血相かえて飛んでったぞ?」
「背後に得体の知れねェ気配が現れたからな。放っとけ」

ゾロの言う通り、後ろの方で知らない気配がする。たしぎと同じフロアにいるみたいで助けに行ったのかな、と胸の辺りに隙間が出来たように冷たくなって思わずため息を漏らした。
サンジくんのメロリンはどうしようもない。あれがなくなったらサンジくんじゃなくなるんだろう。ロビンのことも、ナミのことも、同じ船の船員クルーを羨ましがってたらきっと自分がすり減って何かが無くなってしまう気がする。でもどうしたらいいか分からない。相談するにしてもなんて話したらいいか分からない。

「いよっしゃー!倒したぞー!」

大きなウソップの声で我に帰った。何かあったのかとみんなの視線を先を辿ると、さっき見たドラゴンが黒焦げのヘロヘロになってのびている。それをブルックとサムライが容赦なく踏みつけている。一瞬のうちに何があったんだろう。
そんな時上のフロアから獣が叫ぶように吠える声が聞こえてきた。そこにはモンスター化して大きくなったチョッパーがいて、それを囲むように鉄の棒を持ってチョッパーに立ち向かっている子ども達が見えた。

(今はこんなこと考えてられない⋯⋯)

もっと時間のあるときに考えよう。頭を振って邪魔なものを取り払った。


「チョッパーがモンスターに変形してる!」
「何やってんだあいつ!」
「子ども達の薬が切れてまた凶暴になっちゃってるのよ。助けなきゃ!」

子ども達に罪はないから傷つけることは出来ないみたいで、何やら通せんぼをしているらしいチョッパーは大きな体で子ども達の行く手を阻んでいる。いくらチョッパーの体が大きくてもシーザーの研究で変な薬を飲まされた子ども達は普通の子達より力があって、しかも武器を持っている子や体の大きな子がいるせいでチョッパーも与えられる攻撃に耐えることしか出来ないみたいだ。

「早く上に行かなきゃ!」
「WアップW」

足元から風を起こしてみんなを上のフロアへ運んだ。いきなり体が宙に浮いて何人かの悲鳴が聞こえたけど、ちゃんとみんな着地は出来たみたい。

「茶ひげは?」
「おれの目的の場所はこの先だ」
「じゃあここで別れよう。気をつけて」

茶ひげと別れて上のフロアへ飛び移ると子ども達と同じ方向へ走るみんなを見つけた。その先には見覚えのある可愛い模様のお部屋が見える。

「よかった来てくれたのか⋯⋯!シーザーはこいつらをでかくて凶暴な兵士にしようとしてんだな。もう手に負えないよ。⋯⋯とにかくすぐ子ども達を止めてくれ!この奥左がバスケットルームだ。そこにキャンディがあるんだよ!」

効果が切れて元の大きさに戻ったチョッパーは重傷で、涙ながらに子ども達のことを話す姿は痛々しい。

「やったー!ついたぞービスケットルーム!」
「W千紫万紅ミル・フルール 巨大樹ヒガンテスコ・マーノ!W」
「えー!?手!?」

床から大きな手が二つ目の前に立ちはだかる。いきなりのことで子ども達はビックリして怯んで足を止めた。

「ナミ!モチャって子が一人、平常心でおれを手伝ってくれてる。何とか二人でみんなを足止めしてたんだけど⋯⋯。モチャが危ない!今部屋でキャンディを守ってくれてんだ!」
「そりゃヤベー!こいつら手段選ばねェぞ!」

ウソップが言った途端、果敢にも大きな手に立ち向かい噛み付いたり鉄の棒で殴ったり、体の小さい子は間をくぐり抜けて先へ進んでしまっている。モチャ、と聞いた名前がして子ども達の先には大きな体の女の子がキャンディを抱えていた。その子ももう顔に傷を負っている。

「それキャンディだろ!?」
「くれ!キャンディくれー!」
「ダメだよみんな、これはあげられない!これは悪いキャンディなの!しっかりしてよみんな!チョッパーちゃん達に助けてって言ったの私達だよ!?ゆうこときかなきゃお家へ帰れないんだよ!?」
「ムダだ!逃げろモチャー!」

チョッパーの声が届いたのか慌てて走り出したモチャの先に鳥のようなものがいた。手が翼で足は鳥のものと同じ、炎は出てないけど見た目ならマルコと似てる。けどマルコは不死鳥で、あの人はハーピーだ。

「あ、モネさんだ!おねがい助けて!」
「モチャ⋯⋯。ダメじゃない独り占めは。みんなにも分けてあげなさい」

どうやら敵側らしい。モチャの前でバサリと翼を広げ大きく羽ばたいた。すると部屋の中に吹雪が起きて一気に雪に包まれる。

「寒ーい!部屋中が吹雪に!コート脱いだ後でユキユキの実って何よ!あの雪女!」
「みんな止まれー!キャンディは絶対食べちゃダメだーー!モチャ逃げろー!」

モチャを捕まえようとしている子ども達はこんな寒さの中でも正気を失っているせいか、変わらずモチャを捕まえようとしている。
もう一度足止めをしようとしたロビンに足に構えたピックのようなものを肩に突き刺した。

「ロビン!」
「敵は自然系ロギア!おれがやる!お前らガキ共抑えに行け!」

相手は長い武器を持っているから素手で戦うあたしは少し不利だ。だからゾロの言うことは正しい。二手に分かれるとしても他にも能力者がいるかもしれないから、あたしは残らず子ども達を追った方がいい。

「ロビン平気!?」
「ええ、掠り傷よ。子ども達を早く止めましょう⋯⋯!」
「ナミ急いでくれっ!子ども達が部屋を出る!」

チョッパーの言う通り子ども達は部屋の外へ真っ直ぐ走って出て行こうとしているところだった。姿は見えないけどその先にモチャがいる。

「おれがあいつらを食い止めるって約束したのに止められなくて、モチャを危険な目にっ!」
「早く追わなきゃ!」
「たのむー!」
「てめェ!何のつもりだァ!!」
「えーっ!何何!?ちょっと待って!何でこっち来んの!?」
「ギャーー!待てナミ!イカンこれはおれを盾にしちゃイカン!」

もう一度追いかけようと走り出すと離れたところにいたゾロがもの凄い血相であたし達に向かって走ってきた。刀を構えているせいもあってあたし達を狙ってるんじゃないかと顔を青くしたナミとそのゾロとの間に挟まったチョッパーも同じように顔を青くして必死に訴えている。

「WヴィントシュトースW」
「ゔぅっ!」

鋭利な先があたし達に届く前に拳を突きつけ迫ってきたハーピーを突き放した。風で追い払っただけで覇気はまとってないけど相手も生身だから攻撃は効いてるはず。距離ができたところで今のうちにと出口へ向かおうとすると、下から雪が盛り上がってきて出口が塞がれた。

「ああっ!雪が!⋯⋯冷たっ!動けない!」

ナミの足を掴むように雪が巻きつき一気にナミの胴体まで雪で埋めて動きを止めた。その雪の塊はあのハーピーの体に姿を変えて、そのナミの後ろから大きい口を開けて抱えられているチョッパーを狙った。

「しつこいんだね」

足に風を纏い一度体を回転して助走をつけ、翼を広げているハーピーの脇腹から顔にかけて足を蹴り上げると血飛沫をあげて雪が崩れていった。武装色の覇気を纏った攻撃のおかげで雪の中から痛みに顔を歪めてこちらを睨むハーピーと目があった。

「あたし達もう行くから!」

負けじとこちらからもひと睨みして塞がれた出口は風を使って丸く穴を開け、そこから部屋を抜け出した。

「リリナすごかった!サンジくんみたいだったわよ」
「えっそう?⋯⋯えへへ」
「ありがとう」

子ども達の背中を追いかける中、ナミにウインク付きで褒められて素直に照れる。ロビンにもお礼を言ってもらえて寒かった身体が温かくなった気がした。
サンジくんとのことは自分自身の問題な気がしてきた。ナミやロビンがサンジくんのこと好きってわけじゃないし、そんな素振りもないんだから二人にどうこうしたって意味がない。あたしはあたしで頑張ろう。