「あっサンジくん!」
「おうリリナちゃん。あったかそうだな、モコモコしてて可愛い」
「えへへ」
レンガを運んでいる作業をしていたサンジくんは手を止めて笑顔で近付いてくると、はめていた手袋を外して指で頬を撫でてくれた。
始めたばかりの何かはまだ形になっていないからお手伝いを名乗り出ると結構な勢いで断られた。
「レディの手を煩わせるわけにはいかねェから座って待ってて」
「やだ!じっとしてたら凍え死ぬ!」
「死ぬ!?そんなっ!いや、だからと言って大切な君の手を汚すわけにはいない⋯⋯!」
前もサンジくんに頼み事をしたときなかなか折れてくれなかったことを思い出した。それならばこっちも絶対折れてやるものかと半分遊ぶ気持ちで食い下がるサンジくんを押し続けた。
「大丈夫だよ、今手袋してるから!」
「ぐっ⋯⋯そういう意味じゃ⋯⋯!」
「やらせてくれないと死んじゃう!」
「し、死ぬって、言わないでくれ⋯⋯!頼むから⋯⋯わかった。一緒に、やろう⋯⋯」
「やったー!」
ただ会話をしていただけなのに息を切らしているサンジくんの目の前でガッツポーズをして喜びを全面に出すと、サンジくんはなんでそんなに嬉しいんだとしょんぼりした顔であたしを見ていた。そんな人を置いてさっきサンジくんがやっていたようにレンガを見つけて運び始める。
「これ何になるの?」
「でけェ鍋で煮込もうかと。こんだけ人数いるんじゃどれだけあったって足りねェだろうから」
そうやって話すサンジくんは嬉しそうで、きっとみんなが食べて笑顔でいる光景を思い浮かべているんだと思う。いっぱい食べればそれだけ喜んでもらえるなら、あたしもたくさん食べよう。サンジくんが喜ぶならあたしも嬉しい。
「ああああああ!!」
「そっちは何だ!」
レンガを運ぶ横顔を見ていると近くで突然大きな声が上がって思わず肩が震えた。
「わ、わわ私も人殺しを!⋯⋯いやもう死んでたキンエモンさんを、割っちゃいましたァーー!!」
「死んだ上に割れたのかー!!」
「死に割れたー!!」
涙を流して取り乱すブルックの足元に人の形をしたものが砕けていた。毒ガスにのまれて白く固まってしまったサムライを覗き込むと、小さなヒビが新しく出来始めていた。なんだろうと覗き込むとパリンと白い塊が砕けて中にサムライの体が見えた。
「んだああああ!!」
「ぎゃああああーー!!」
「何で生きとんじゃァ!!」
勢いよく叫びながら起き上がったサムライにびっくりして体勢を崩し尻もちをつくと、横で立って見ていたルフィ、ブルック、サンジくんも驚いて叫び声をあげ、サムライはサンジくんに蹴り飛ばされた。
「ええ!?一体何が!?何するんですかサンジさん!」
「知らねェよ!おめェが死んだと騒いでたのに生きてんじゃねェか!」
「イヤー、よかったキンエモンさん私てっきり!」
サムライは何故蹴られたのか分からないようで、目を白黒させて蹴られて倒れたまま動かない。今冷静に考えればそりゃ起きてすぐ結構な蹴りをくらったら訳も分からなくなるよね。とんだとばっちりだと思う。けどこっちも死んだと思ってたから相当ビックリしたよ。なんで生きてられてるのか不思議だよ。
「父上!」
「⋯⋯も、モモの助⋯⋯!?」
やっと落ち着いてきた頃、突然この輪の中にやってきた男の子がサムライを父上と呼んだ。
「モモの助ェー!無事でござったかァ!」
「ぢぢゔえーーひっく、えぐ⋯⋯!」
サムライと感動の再会を果たした男の子はモモの助と呼ばれていて、さっきから視界に入ってたピンク色のうなぎの正体らしい。サムライは真っ裸だったその子に能力で服を着させてあげると嬉しそうに笑った。ちょんまげつけて、しっかりワノ国らしい格好だ。
「うむ!さすがワノ国の男児。着物が似合うてござる!」
「しかし父上。よくここが、わかっ⋯⋯」
「うおーー!モモの助ーー!」
ぎゅるるる、と大きいお腹の音を鳴らして倒れたモモの助は相当お腹が空いているらしい。そういうことなら、と真っ先に動き出したサンジくんにレンガ積みを任せてもらって料理に専念できるように作業を再開させた。
レンガ積みを終わらせてやることがなくなったら、子ども達に遊びに誘われて雪遊びや鬼ごっこしているといい匂いが風にのってやってきた。
「うわ、いい匂いー!」
「お腹すいた!」
「ご飯かなー?」
みんなで匂いに誘われて人の集まる場所へ行くと、中心には大きなおたまを担ぐサンジくんがモモに食事を用意しているところだった。目の前に湯気をたっぷりあげる料理が広がり、モモはよだれを垂らして固まった。
「
「んまほーーう!!」
巨大お鍋で作ったスープを最後に大きいお鍋を、裏返してクロスを敷いた即席テーブルに乗せた。どれも美味しそうで、食欲をそそられる匂いと色。何日も食べてない日が続いた後の食事にこれを食べられるのは幸せだ。
「お前腹減ってんだろ?モモー、サンジのメシは最高だぞ!」
「い、いらぬ!せっしゃ腹など、すいておらぬ!こんなもの!!」
何を思ったのかモモが目の前に出されたスープの器を高くあげて捨ててしまおうと行動に出たようで、でもそうされる前にサンジくんがモモの胸ぐらを掴みあげた。
「オイ待て!てめェその皿どうする気だ!ガキだろうと食い物粗末にする奴をおれァ許さねェぞ!」
すごい形相で掴みかかられて目をギュッと瞑ったモモは器を持ち上げたまま動かなくなった。
「いただきそうろうーーっ!」
「あっ、おい!」
「うまい!!何だ!?力がみなぎる!」
横から割って入ってきたサムライがドカリと座り、目の前の食事を食べ始める。
「モモの助!⋯⋯大丈夫、大丈夫でござる!これも⋯⋯これも⋯⋯!何とウマきメシでござろう!一飯の恩に預ろうぞ!実は拙者もこの度命を救われた。この者達は信用してもよいのだ⋯⋯!おぬし今日まで何も食わなんだか⋯⋯。よう耐えた!辛かったろう!もう大丈夫でござる!奴らもきっと無事と信じよう!⋯⋯さァ、生きようぞモモの助!」
頭の上にあげていた手を下ろし、器を丁寧にテーブルに下ろす。サムライの涙が移ったようにモモも涙を浮かべて頷き、サンジくんに言われた通りスープから飲んだ後がっつくように次々に食べ物を口に運んだ。
「泣くほどうめェのか!?」
「バーカ。相当な訳アリだ、こいつら⋯⋯。何があったんだ?」
ぎゅるるる、とまたお腹が鳴る音がして気付くと、周りには器を持ってよだれを垂らしている人が列を作っていた。G−5、研究員、子ども達関係なくみんなお行儀よく待っている。その中にはフランキーもいて、何か言いたいのか、ただ無心なのか分からない目と視線がぶつかった。
「おい麦わら屋。ここは急いで離れるんだ。ゆっくりメシなんか食ってたら追っ手が来る!仲間達にそう伝えろ」
「そうなのか、よし分かった!宴だーーーっ!!」
木箱の上に登り少し高いところから宴の開始を告げたルフィにちょうど回ってきたジョッキを手に取り高く掲げた。勢いそのままに口の中に流し込むとお酒だと思っていたそれはジュースで、近くにいたナミがあたしを見てにっこり笑っていた。
人が集まりドンチャン賑やかなところから少し離れた場所に一人で座っているスモーカーを見つけて、お鍋のスープをもらい転ばないようにゆっくり歩いて届けた。
「スモーカー、はいどうぞ」
「⋯⋯お前が持ってくるのか」
「うん。あたしが一番だよ。どの部下より優秀でしょ」
スモーカーにスープを手渡しして口にするところまで見届ける。みんなのところへ帰ろうとスモーカーに背中を向けて一歩足を出した。けれど踏み込んだ場所がいけなかったのかツルッと滑り顔から転んだ。スローモーションで目の前に迫ってくる地面に目を瞑ると視界の端から手が滑り込んできて、お腹を支えられ転倒するのを免れた。誰だ、あたしを助けたのは。薄々気付いているけれど事実を確かめるためにあたしを助けた手を先を辿っていくと咥えている葉巻からモクモクと煙をたてているスモーカーと目が合う。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
立場的に敵と味方なのに。でもさっき自分からスープ渡しに行けた関係性ではある。なんだか分からないけど気まずい。お互いに無言のまま、あたしは体勢を整えてそのまま立ち去ろうと気を取り直して歩き出した。
「おれの部下に何もないところで転ぶようなヘマする奴ァいねェぞ」
「っ助けてくれてどうもありがとう!さようならっ!」
まさか揚げ足を取られるなんて思わなくて恥ずかしくて顔が熱くなる。そんな顔を見せられないし、スモーカーの顔もとても見られない。目を瞑り声を張り上げてその場から離れた。
「おうおう麦わらの一味ー!タンカーが
「こっからこっち入んじゃねェ!これが正義と悪の境界線!」
「またかよ。さっきまで宴やってたじゃねェか!」
「バカバカー、バカ野郎!それに関しちゃ本当にごちそう様でした!」
「だがお前らは海賊!人間の恥だ!」
さっき書いた境界線を変更して海に浮かぶサニー号とタンカーの間から線を引っ張って変更して言うことがコロコロ変わる海兵に口を尖らせた。宴のときは自分達から境界線越えてきたくせに。
「ナミお姉ちゃーん!」
「チョッパーちゃーん!」
「ロボはー?」
「あれー?海賊のにーちゃん達はー?」
子ども達の乗るタンカーが出港するのを見届けたいとナミとチョッパーの提案で、サニー号はタンカーの後に出航することになっている。子ども達がタンカーに乗り込んで、上から顔を見せたけど海兵はあたし達を見せないように幕を作って隠した。
「ジャマだお前ら。しょーもねェな」
「バリヤー!海賊など目の毒だ!」
「お前らも似たようなモンだろ、G−5」
「でも、無事乗り込んだみたい」
「おれ達こそが正義で!」
「市民を泣かす海賊共をブッ殺すのだ!」
「海賊共はこの世のクズでェ!」
幕の隙間から子ども達が全員乗り込んだところを確認出来ると、自分達も出航の準備をしようとサニー号へ体を向けた。
「おれ達こそが正義!」
「ガキ共にこいつらを見せるな!」
「ぐるぐる兄ちゃーーん!」
「かいぐんがじゃま!」
「どいて!」
「海賊共とあいさつなんかする奴は悪いガキだ!」
「礼なんか言いやがったら島に置いてくぞー!」
自分を呼ぶ声に反応した
「いいか、海賊は悪で!海軍こそ正義!」
「⋯⋯でも、助けてって言ったら助けてくれたんだ⋯⋯」
「じじょうもなにもしらないのに⋯⋯こんなに大きい私たちをジャマにしないでつれ出してくれなんだ⋯⋯」
「何もない島で誰も来てくれなかったのに⋯⋯!」
「来てくれたんだ!」
「お別れにお礼も言わせてくれないなら、かいぐんなんて⋯⋯」
「待って!ごめんね!」
「海賊はくさくて汚くて、一方海軍は」
「海軍はァ!とても勇敢で、正しくて⋯⋯!」
「やめなさいあなた達!みっともない!!」
たしぎの涙声に自分達を讃える海兵達の声は止まった。
「だがよ、たしぎぢゃん!悪口でも言い続けねェと!おれ達ァこの無法者共を……!」
「好きになっちまうよォオ〜〜!!」
「か、海賊なのによォ〜〜!!」
「なはは、変な海軍」
笑い声と泣き声が入り混じって聞こえてくる。変な海兵達だと笑っていると、張られていた幕が下ろされた。
「海賊のお兄ちゃんお姉ちゃん!助けてくれてありがとう!大人になったら僕たちきっと⋯⋯!海賊になるよーー!!」
「なるなァーー!!」
子ども達の大きな声に振り返って大きく手を振った。あたしを呼ぶ声も聞こえる。みんながお父さんとお母さんに会えますように。ナミがたしぎにお願いしたって言ってたし、たしぎならそこはちゃんとやってくれるだろう。
約束通り、タンカーが出港して小さくなってからサニー号も出発した。