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朝目覚めると部屋には誰もいなかった。といってもいつものことだから何も気になることはない。そして甲板が騒がしい。みんなで集まって何かしているみたいだ。

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ、七武海脱退!ドレスローザの王位を放棄!?」

昨日ウソップとチョッパーが怯えていた名前が聞こえてきて、ベッドを降りて洗面所で顔を洗ってから部屋を出るとみんな揃って一つのものを見ているようだった。

「本当に辞めやがったァー!」
「お、王位!?王様だったんですか!?」
「こんなにアッサリ事が進むと逆に不気味だな」
「これでいいんだ。奴にはこうするしか方法はない⋯⋯!」
「ジョーカー!おれの為にそこまで!」
「で、何でおれ達の顔まで載ったんだ!?」

新聞にルフィが載っているのを見ようと輪の外から覗いた。確かに手配書のルフィの顔とトラファルガー・ローの写真が並んでいて見出しには同盟の文字がある。

「あらおはようリリナ」
「おはよ〜」

あくびをしてまだ重い瞼のまま新聞を拾って読んでみようとしたけど、全然頭に入ってこなくてすぐに諦めた。同盟組んだことまで載ってるなんて世に広まるの早いなぁ。



ドフラミンゴに電話をするために電伝虫を甲板へ持ってきた。プルプルプル、と目を閉じたまま喋り出した電伝虫にみんな自然と口を閉じた。

『おれだ⋯⋯。七武海をやめたぞ』
「出たぞ!」
「出た!」
「ドフラミンゴか!」
「しーーっ!しーーっ、お前ら声が入るだろ!」

向こうが受話器をとると同時にドフラミンゴを思い出させる顔になった電伝虫にチョッパーとウソップが慌て出した。

「もしもし!おれはモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だ!!」
「お前黙ってろっつったろ!」
「茶ひげや子どもらをひでェ目にあわせてたアホシーザーのボスはお前かァ!シーザーは約束だから返すけどな!今度また同じようなことしやがったら今度はお前もブッ飛ばすからな!」

トラファルガー・ローの持つ受話器に思いっきり大声を吹き込むルフィにウソップがすかさず止めに入った。ついには受話器を奪ったもんだからウソップが後ろから乗り掛かったのにルフィの勢いは止まらない。

『麦わらのルフィ⋯⋯!兄の死から2年、パッタリと姿を消しどこで何をしてた』
「⋯⋯!それは!絶対言えねェことになってんだ!」
『フッフッフッ。おれはお前に会いたかったんだ。お前が喉から手が出る程欲しがるものをおれは今、持っている』
「?」

突然エースの話が出てきて会話に耳を傾けたけれど、特に掘り進めることはなくどうやら話は逸れたようだ。エースとは大きな接点はないはずなのに何故ドフラミンゴがいきなりエースの話を持ち出したのか。

「お、おい。それは一体どれほど美味しい肉なんだ⋯⋯!」
「麦わら屋!奴のペースに乗るな!」
「お肉が一匹、お肉が二匹」
「ルフィ!気をしっかり持て!それが必殺奴のペースだ!」

勝手にお肉というワードを思い浮かべてしまったらさっきまでの勢いはすっかり無くなってしまい、目をハートにしておいしいお肉への思いを馳せているのかよだれを垂らして聞く耳を持たなくなった。

「ジョーカー!余計な話はするな!約束通りシーザーは引き渡す」
『そりゃあその方が身のためだ。ここへ来てトンズラでもすりゃあ、今度こそどういう目にあうか⋯⋯お前はよくわかってる。フッフッフッ!さァ、まずはウチの大事なビジネスパートナーの無事を確認させてくれ』

ルフィが手放した受話器を再びトラファルガー・ローが拾い話を続け、シーザーに受話器を向けた。

「ジョーカー!すまねェおれのためにアンタ七武
「今から8時間後!ドレスローザの北の孤島、グリーンビット南東のビーチだ!午後3時にシーザーをそこへ投げ出す。勝手に拾え。それ以上の接触はしない」
『フッフッフッ!淋しいねェ。成長したお前と一杯くらい
「切れー!こんなもん!!」

思いの外長く続きそうなシーザーの話を強制的に遮り用件を告げると、お肉の誘惑から抜け出してきたルフィがトラファルガー・ローから受話器を奪い無理矢理通話を終わらせた。

「ふーっ危なかった!また奴のペースにやられるとこだった!」
「目!目!」
「おい待て。相手の人数指定をしてねェぞ!相手が一味全員引き連れて来たらどうする!」
「いや、それでも構わねェ。すでにこの作戦においてシーザーの引き渡しは囮のようなもんだ」
「じゃあそのスキにスマイルの工場を潰す方が目的ってことか」

ここに来てやっとサニー号でも頭の回る人達が会話に加わり始めた。隣に座っていたフランキーも工場というワードに反応するように立ち上がり会話に参加し始める。

「ああ、だがそれがどこにあるかが分からねェ」
「工場なんてデケェもんがわからねェってことあんのかよ。行きゃすぐスーパー分かるだろ。おれ様のビームで一発だ!」
「アニキー!」
「そこだけ、どうしても情報を得られなかった」
「敵の大切な工場でしょ?何か秘密があるのかもね」
「ロー殿。グリーンビットと申しておったが⋯⋯」
「ドレスローザに船はつける。安心しろ」

フランキーの頼もしい言葉にウソップとチョッパーが息を合わせていつものスーパーなポーズを決めた。錦えもんが探しているサムライも無事に助け出せるといいけど。そうなってくるとあたしも工場壊しに行きたいな。

「トラ男ー、お前そこ行ったことあんのかよ。ドレスろうば!」
(ドレス老婆⋯⋯)
「ローザだ」
「ローザ!」
「ない。奴の治める王国だぞ」
「え?ないの?」
「ほんじゃ全部着いてから考えよう!しししし冒険冒険っ!楽しみだなードレスローザ!おれ早くワノ国にも行きてェなー!」

何も情報がないんじゃルフィのいつもの能天気な考えを止める人はいないようで一人でウキウキし始めた。ドレスローザも楽しみだけど、あたしもルフィと一緒でワノ国にも早く行きたい。

「バカいえ!何の計画もなく乗り込めるような
「サンジハラへった。朝メシ何だ?」
「サンドイッチだ」
「わー!おれわたあめサンド!」
「私は紅茶だけで」
「おれはパンは嫌いだ」

話に区切りが出来てルフィがダイニングに行く背中につられてみんなで後を追いかける。サンジくんは準備を始めるためにルフィと先頭を歩いてダイニングに入っていった。


ダイニングに入りそれぞれいつもの席に座った。今はトラファルガー・ローがいるからフランキーやら大人組が席を空けたおかげであいつはテーブルのある席に座ることが出来た。感謝してもらいたい。

「リリナちゃんにフルーツサンドもあるよ」

テーブルに並べられたサンドイッチをみんなで食べ始める。あたしも目の前のサンドイッチを頬張っていると横からすっと入ってきたサンジくんがあたしの前にフルーツサンドが乗せられたお皿を置いた。口いっぱいに頬張ってしまっているからお礼を言うために口を開くことが出来なくて、身振り手振りでありがとうを表現した。

この一味に出会うまでのあたしだったら口の中なんてお構いなしに言ってただろうけど、ナミやロビンのマナーを見て更にサンジくんの用意する綺麗に盛られた料理を汚い所作で食べ続けることは出来なくて、ナミやロビンにはまだ及ばないけれど前よりはずっと綺麗に食べられるようになった。

「ゆっくり食いな」

膨らんだ頬を人差し指で撫でられ、恥ずかしくて固まっている間にキッチンへ戻っていってしまった。それを目で追うことも出来ずに口の中のサンドイッチを噛み締める。するとその口の中のサンドイッチにサンジくんの存在を感じて気恥ずかしさから、もぐもぐと急いで噛み砕いて喉の奥に押し込んだ。
けれどさっきサンジくんが持ってくれたフルーツサンドが目に入って、この感情の終わりが見えなくなり耐えきれなくなって目を瞑った。


あたしが食べるのに手間取っている間に錦えもんはドレスローザで人質になっているカン十郎というサムライの話をしていた。

ワノ国からサムライ三人とモモとゾウという場所を目指していたところ、遭難してドレスローザに漂着したのが二人とモモ。そこでドフラミンゴに追い回されてモモは一人でパンクハザード行きの船に乗ってしまい、研究所に連れて行かれる子ども達と出航してしまったという。それに気付いたけれど追っ手を上手く振り払えなかったところ、カン十郎が人質になって錦えもんを逃してくれたらしい。

錦えもんの熱のこもった話に情が移ったフランキーは涙脆さを発揮して大号泣。ルフィは必ず助けると声をあげた。


「着いたぞーー!ドレスローザーー!!」
「バカ大声出すなよ!ドフラミンゴに聞こえちまう!」

食事の後片付けをするサンジくんを見守る日課をこなしているとき、ルフィの大きな声が聞こえて椅子から立ち上がりドアの小窓から外を覗いた。ガラスの向こうにある小窓の向こうからゴツゴツした大きい岩山が見える。もっと町の様子は見えないけど、思ったより殺風景だ。

この島で待つメラメラの実の存在を知らないあたしは、ただ町の様子に思いを馳せた。